魔王帰還
空中を移動して魔王の住む巣。
ゆるやかに移動して隣町を浮上させたところまでついた。
今なお暴れまわる魔王のせいで町を下ろすことはできず、浮遊都市は健在だ。浮遊都市は崩壊することなく相当な質量の土を有しているために暴れる魔王もしっかりとカバーしている。
由樹はその間、声が張り裂けるまで叫び泣きわめいて今は亡骸となったシュンの傍で静かに涙を流している。
叫ばず暴れずただただ涙を流している。由樹はシュンの手を握り続けている。
桜井はそんな彼の拘束を解いてぐっちゃんと話していた。
「魔王、どうするんだアレ」
桜井は浮遊都市の魔王を指差してぐっちゃんに聞く。
「結論として止める手段はない。一年前もあんなことが起きたけどそれだって対応ができなくて今に至るんだから」
一年前とは魔王がうまれ街が一つ廃墟となったあの事件のことだ。
「放っておくのが最善だ、と?」
「うん、そう。アイツの気が済むまで暴れるのを待つ。一年前と違って浮遊都市なんて作ってるからすぐにエネルギーも切れるよ」
それっきり二人は会話をやめた。ぐっちゃんと桜井はその暴れまわる魔王を見ていた。
なにもできない。なにもせずに傍観しているのが正解。破壊されていく隣町。
「人がいない分、気は楽だな」
「そうだねー」
ただただ二人は傍観していた。
「サクラさん、もう用事ないけど帰る?」
ぐっちゃんがボソッとつぶやく。
「念のため待機する。また魔王止めるってことになったら俺の出番だろうし」
「そう。そうだね」
桜井は不機嫌な顔でつまらなさそうにぐっちゃんもぐっちゃんでそんな桜井に興味はないのか話は終わった。
しばしの沈黙。お互いに不必要な会話はせずに一定の距離感を保つ。
泣きつづける由樹を横目に暴れまわる魔王を見ていた。