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石橋由樹の出会い

 田所さんは日本初のガガイモ発見者になり、のちにこの事件は『シャイニングストリップ事件』として世に知らしめることになった。

 ちなみにガガイモの名前の由来はその後の研究者から定義された名前の頭文字、GAGIMをとってガガイモと呼んだためである。

 発見されたときで確認されたのは全人口の3割ほど。その後、3週間で全人口の八割が『ガガイモ』所持者となる。

 そして4年後の2003年、12月。

 国連の公式発表により全人口、地球上に住むほとんどの成人がガガイモを所持しているという声明が発表された。

 依然として持たないものは思春期間際の子供だけとほんの一握りの成人だけになった。

 ガガイモは言葉通り賃金も食事も果ては睡眠すらとらずに人間一人に対して一人ついて仕事を行った。

 建設業、接客業、果ては専門職なども『ガガイモ』はスキルとして所持しており専門家のガガイモが爆発的に増えていった。

 低所得者は単純に収入が二倍になり、高所得者もガガイモの労働力を嬉しく思っていた。

 労働力が二倍になり昼夜問わず働き食費もかからない。

 いいとこだらけのように思われていたが、それは賃金が二倍だが収益が前と同じということを意味する。

 つまりは単純に企業の利益が半分になる。

 企業の利益が半分ということは経営が困難になる。

 経営が困難になる前に人材が解雇される。

 仕事をしていない人間があふれかえり会社はほとんどガガイモだらけになった。

 仕事をしない人たち。労働力として求められるガガイモ。

 そしてガガイモが経済を回し始める。

 とある経済評論家はTVでこんなことを言っていた。

 「ガガイモの目的が世界侵略ならば彼らに仕事を与えた時点で完了している」と。

 そうしてガガイモの存在により人間の価値が決まるようになった。

 面接時にガガイモの能力を見て判断する。そして優秀と判断されたガガイモのみ入社し働く。

 人間は自らのガガイモを売り込みにいく作業。

 そうして低所得者はガガイモという新たな社会的基準点に踊らされて人間というだけで職につけないという現実が押し寄せた。

 増加していく低所得者。

 唯一の救いはどんなガガイモでも仕事さえあればどんな仕事でも働いてくれるという事実。

 いやこれはすなわち救いではなく最悪の元凶ともいえるのかもしれない。

 それはつまり人間の働く場所がなくなるということなのだから。能力の低い人間が淘汰されるということなのだから。

 そして一部の人たちはガガイモがもたらす新たな経済災厄に気づき始める。

 それを防ぐために国は法律の改正なども次々と各国で行われたが、それはついにきてしまう。

 2005年、国連がガガイモ声明を出したわずか2年後。国連がまた声明を出した。

 「世界は完全なる永劫のデフレスパイラルに突入した」と。

 人類がじわりじわりとガガイモの手で死んでいくと、リアルタイムでその声明を見ていた二十歳間近の石橋由樹(いしばしゆうき)は思った。

 石橋由樹にはガガイモが見えない。生まれてからずっと彼はガガイモを認識できない。それどころか自らのガガイモも持ち合わせていないのでそれが原因で就職難に陥り、今も手ごたえのない面接を終えてきたところ。石橋由樹、齢30。就職にはギリギリの年齢だった。

 石橋由樹は面接の出来事をフラッシュバックしながら帰っていた。

 日は傾き、自宅のアパートに帰るころには完全に日も暮れていた。電灯の明かりが辺りを照らす。

 2015年11月。

 肌寒くはなってきたが、例年続く暖冬の影響か東北には珍しくまだ街には雪は降っていない。住み慣れた我が家が見えてきて、途中スーパーで買ったウィスキーとつまみの焼き鳥缶詰が入った袋を持ち直す。

 鍵を回して扉をあける。玄関傍の電気をつけようとしたとき、ふと気が付いた。

 薄暗い室内。玄関からすぐ右手にあるトイレから煌々と明かりがついている。

 扉が閉まっているが、下の細い隙間から光が漏れていた。

 あ。出て行く前に消し忘れたか。

 トイレの電気を消して部屋に入り天井の蛍光灯をつける。

 買ってきた焼き鳥とウィスキーをちゃぶ台に広げていただきます。あ、割り箸がない。

 先ほどスーパーで買ったときに店員さんにいれてくれるように頼んだはずの割り箸がなかった。仕方なしにキッチンから箸をもってきて、準備万端。

 氷の入ったグラスにウィスキーを少しだけ注いでソーダ水で割る。氷が中でカラカラと音を鳴らしてソーダ水も音色を奏でる。

 一口含もうとしたときに突然トイレの扉が開いた。

 大きな音と共に開放されて、ぎぃーと音を出しながらゆっくりとしまっていく。

 立て付けが悪くて勝手に開いたとかそういうレベルではない。勢いよく扉が開いた。

 トイレの金具で、かちゃっと鍵穴まで閉まる。

 すると、また――。

 中から扉を勢いよく蹴る音と開け放たれる扉。

 「え、なに……え……」

 そしてまた扉が開き、閉じるとまた扉が勢いよく開け放たれる。

 「なになになになに!?」

 状況がわからず戸惑う感情が口から漏れる由樹。完全に中から誰かが扉を蹴って乱暴に開けている。

 なにがなんだかわからずに由樹は開け放たれたトイレにゆっくりと近づく。

 開いた扉をつかみ、中をおそるおそる確認する。

 すると見慣れた便器の上で体育座りをする美女がソコにはいた。

 美女はこちらをじっと見つめている。しかもかなり特徴的な容姿をしている。

 年のころは20代前後。髪は白髪でロングヘアー。

 肌は黒く、日に焼けた肌ではなく天然の黒さがある、体育座りでかかえこまれた足は長く座高の高さから察するに身長も高い。そして印象的な琥珀色の瞳。

 見た目は明らかに日本人ではないが、丸い顔や目の色などは日本人特有のそれで決して外国人という雰囲気でもない。異国の特徴をもってはいるが国を該当できない異質さを持ち合わせていた。

 美女はじっと由樹を見ている。

 まばたき一つせずにこちらを見ている。

 何も喋らない。何も感情を出さない。

 ただただ困惑する由樹を見ている。

 由樹はこちらをじっと見つめる彼女を身ながらそっと携帯を取り出した。おもむろに写真を一枚撮る。

 なんとなくだ。

 なんとなく、今晩のおかずになるのではないかという生産的志向が由樹に働きそれが無意識に行動させた結果だった。

 しかし長いスカートのせいで肝心のものが見えず由樹は心の中で舌打ちをした。

 そしてそのまま電話をかける。

 「もしもし警察ですか、うちに不審者がいるんですが……」

 人のトイレに閉じこもって何も言わずにこちらを見ている。

 不審者以外何者でもない。

 しかし、目の前で通報しているのに美女から何もリアクションがないのが恐ろしく怖い。

 普通なら泥棒でも言い訳したり、それこそ暴力に打って出るところだろう。

 しかし美女は何もしない。体育座りを解くこともなくこちらをじっと見ている。

 まるで人形のようだ。

 綺麗なフランス人形というイメージではなく、連続殺人事件でも起きそうな古い洋館に並べられている邪悪なイメージだが。

 まるでそれは。

 まるで初めてガガイモが人類とあったときと同じような状況だと由樹は思った。

 由樹は彼女から目を離さないようにじっと見つめていた。

 ふと思った。

 彼女はいつからトイレにいるのだろうか。

 家に帰ってすぐトイレの明かりがついていることを由樹は思い出した。

 あのときからいたということは鍵の閉まっている部屋に不法侵入してトイレに明かりをつけて由樹が来るまでここにいたことになる。

 冷静に働いていた思考が凍りついた。

 異性の目を無言で見つめる。声を発することも出来ずにその正体不明の美女を警察が来るまで見ていた。

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