魔王襲来 その2
『尾形土建事務所』のビルの地下を入っていく。
崩れたコンクリートと割れたガラスが散乱して進みづらい。
足場が不安定な道を懐中電灯の明かりを頼りに進んでいくと、開けた部屋になっており煌々と照明がたかれている。
さきほどまで散乱していたコンクリート片やガラス片は一切なくなっており、いささかラベンダーのアロマまで香る。
視界が明瞭になったので懐中電灯の明かりを消し、ポケットに無造作にいれる由樹。
通路にはいくつもの電球が連なっており奥の奥まで通路を照らしている。
入り組んだ通路を背中に男性を担ぎながら手には食材をもって進んでいく。
重い。
かなり重いがこれも慣れた作業だ。
途中で重いからと休憩したら最後たどり着くのがより困難になりつらくなることを由樹は理解している。
なので黙々とただひたすらに通路を進んでいく。
奥の奥、最深部の扉をあける。せまいワンルーム。目的地である『食堂』と由樹が呼ぶ部屋に着いた。
裸電球が三個ほど天井にぶら下がり周りを照らしている。
左にはシンクとガスコンロ。大きな鉄鍋が壁にぶら下がってある。レンジもあり横には食器棚。炊飯器もある。
右には長いソファーが直角につないであり、小さなテーブルが一つ。
そこには子供が一人いた。少女だった。
ソファーに座って体を丸めながらゲームをやっている。
年は中学生くらいの女の子でスカートの間から生足が見えてる。体を丸くしながら一心不乱にゲームをしている。
ゲーム機からは音は出ておらず繋がったイヤホンを耳につけている。そこからゲームの音がもれている。ボタンをかちかちと神経質に連打している。その表情は険しい。
「おーい」
由樹が声をかけるが反応はない。
ゲーム機に夢中でこちらの声が聞こえないのだろう。
食材をおろして男性を背負ったまま、その少女のイヤホンのコードを無造作にひっぱった。耳から強引に引き離されるイヤホン。
「いってぇええ!」
無理にイヤホンを引き抜いたので痛さでびっくりしている。
驚いた表情で耳を何度も触り大丈夫なのを確認すると何事もなかったかのようにイヤホンをさし直してゲームを始める少女。
「おかえりー」
由樹のほうを一切見ずにそう簡単に挨拶を終えてゲームに夢中の少女。
「手伝ってよ、ぐっちゃん」
「無理。手が離せない」
きっぱりと断られる由樹。
由樹がぐっちゃんと呼ぶ少女はこちらを一切見ない。
「ぐっちゃん」
「無理。手が離せない」
こちらが語りかける前に会話を切り離される。
「まーた夜更かししてたの?」
「無理。手が離せない」
「夜はちゃんと寝て昼に活動しなさいっていつも言ってるじゃんか」
「無理。手が離せない」
覗き込みとシューティングゲームをやっているぐっちゃん。
「何面まで進んだ?」
「6面」
「じゃあ佳境だな。いったん休憩がてらにこっち手伝って」
「無理。手が離せない」
仕方なく食材をそのぐっちゃんと呼ぶゲームを黙々とプレイする少女の横に置く。
背中に乗せた男性を別のソファーに寝かせる。
奥の部屋からブランケットをもってきてかぶせる。
気絶しているので本当なら危険な状態ではないかどうか調べたいが、医学知識のない由樹には寝かせることぐらいしかできない。
警察やそれこそ救急車などを呼ぶのだろうが、ここが立ち入り禁止地域という点と彼が自殺しようとしていたという事実を考慮するとそれをしても状況が悪化するだけに思えたので控えることにした。
食材を備え付けの冷蔵庫にいれていく。
昼にもらった野菜やらなにやらをいれていく。肉やら魚やら飲み物やら。
よくもこれだけの食材が袋に入っていたなと感心しつつ冷蔵庫に食材を詰め終わると、先ほどの男がぐっちゃんに銃口を当てていた。
「魔王はどっちだ……」
気絶してすぐに意識を取り戻したのか口元にはよだれがついていた。
男はぐっちゃんに銃口をつきつけて由樹にたずねる。恫喝だった。