ふたりめ その3
怖いが褐色なりの謝罪なのだろう。何度も何度も自分の顔を殴っている。
少ししてトイレのドアがゆっくりと少しだけ開かれる。
「悪かったって言っているよ。さすがにやりすぎだから止めてくれ」
中のツインテールに由樹が語りかける。
ゆっくりと開く扉。隙間からのぞくツインテール。
ツインテールはその彼女を見ていた。ツインテールは感情なく表情なく褐色を見ている。
数発こぶしが顔に入った瞬間、トイレの扉がまた少し開き、褐色の腕をにぎってそれをとめた。
両手を取られて後ずさる褐色。
両手を取ったまま、トイレから出てくるツインテール。
言葉では何も喋ってはいないが、彼女たちなりに和解したのだと思った。
刹那、先ほどのお礼といわんばかりの勢いのある平手うちを放つツインテール。
その平手打ちは褐色の頬の正確にヒットし、乾いた音が部屋に響く。
そしてツインテールはその一発を食らわせたあと、褐色の両手を持って自分の頬にもってきた。
まるで聖書の一説のような、右の頬を打たれたら左の頬を差し出すように、謝罪の意思がそこには伝わってきた。
だが、それは褐色のほうには伝わらなかった。
拘束された両手を振りほどき、またもやキツイ一発を彼女の右頬に食らわせた。
「あ、馬鹿!」
痛みで涙を流し頬を真っ赤にしてツインテールはまたトイレにこもってしまった。
しかし、褐色の出したのはかたく握られたこぶしではなく、平手打ちだったことに褐色はツインテールに対して多少は譲歩しているのだろうと、由樹は思った。
思うしかなかった。少しでもこの修羅場の空気を良いものにしたかった。その一心だった。
石橋由樹、三十路間際で女の喧嘩の怖さを知った。
その後の夕食は惨憺たるものだった。
黙々と由樹が作った料理たちを褐色に見られながら由樹だけが食べる。
時折褐色はお腹を鳴らしていた。由樹はあえて反応はしなかった。
別に食べるなと言っていないし、三人分の夕食はちゃんと用意されているからだ。
ツインテールはいまだにトイレにこもっているし、褐色は箸まで出してやって食べようとしない。
だからこれ以上の干渉はしないと由樹は決めた。
そうして淡々と夕食を終えた。余った二人分のおかずは冷蔵庫にいれて由樹は身支度を整える。
商店街で得た大量の食材を手にしてトイレの前へ。
「断る必要はないと思うが、ちょっと外に行ってくる。夕食は冷蔵庫に入っているから勝手に食べていいぞ」
扉を軽くノックして由樹はそう中にいるツインテールに告げる。食べるにしても褐色の許しが出ないことには難しいかもしれないが。
そういって由樹は外に出る。
重い食材を肩にかけて玄関の扉を閉めようとしたとき、褐色が扉をつかみ這い出てくる。
「ついてくるのか?」
由樹の言葉には答えない褐色。
それ以上は何も聞かずに玄関の扉をしめて褐色を連れ立って由樹は夜の街へと繰り出した。