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ふたりめ その2

 何時間経っただろうか。すでに日は沈み夜もふけてしまい、携帯で時間を見るともうすぐ日付が変わる。

 午後11時。

 ツインテールの英国少女と白髪褐色美女と向かい合い、対話をしていたらあっという間に時間は過ぎていた。

 もっとも由樹が質問攻めにして二人に答えてもらう形式を取ったが、返答はなくいつもまでも進展はしなかった。

 なので、ご飯を作っている。

 正直心が折れていた。

 聞きたいことを聞いても答えてもらえず反応もなく、まるで壁にボールを当てているような空虚感のある一人遊びをしているようだった。心が折れたら一気に腹が減った。なので、諦めてご飯を作っている。

 商店街で強奪してきた食材類を冷蔵庫で保管して、今日の分の食事を仕上げている。

 れんこんと鳥としいたけのはさみ揚げに、ブロッコリーとレタスのサラダなどなど様々、出来は上々だ。

 「食べるか?」

 揚げたてのはさみ揚げを皿に盛りちゃぶ台の上に。いまだ手伝いもせずちゃぶ台越しに正座しているツインテール。褐色ロングヘアーのほうは先ほどトイレに入った。

 まばたきをするためだろう。目は赤くなってなかったが入る前までひざがぷるぷると震えていたので、たぶんそうだろう。昨日一日で限界だと悟ったようだ。人間性をあらわにしていく。

 なので今はツインテールのほうだけが鎮座している。

 ツインテールはささみ揚げの乗った皿をじっと凝視している。褐色とは違いツインテールのほうは反応は淡白だが多少は反応してくれる。

 由樹は味見がてら一つつまんで口に入れる。

 さくさくとした食感。揚がり方も上々で中々の出来だった。

 すると、ツインテールもそれにならいはさみ揚げを指でつまむ。

 口へ運んだ。

 「…………」

 もごもごと口で頬張り食べている。咀嚼している。口からはよだれが流れており口以外は表情を変えずにもぐもぐもぐもぐ。

 おいしそうかどうかは表情ではわからないが、一個目を食い終わる前に二個目、三個目と口にいれている。

 頬はパンパンに膨れてげっ歯類を彷彿とさせる頬袋を成形している。由樹はその光景をみて絶句していた。

 もちろん『食べるか?』と言ったのも由樹だし食べることに関しては別に問題は無い。

 問題は彼らの中にあったはずの鉄のような硬い難攻不落の砦のような意志のほうだ。

 それがたったレンコンとしいたけのはさみ揚げ程度で崩れ去ってしまったのを見た。

 そしてその光景を今しがたトイレから出てきた褐色のほうも目撃した。

 無表情で無感情な瞳に何か感情のゆらめきのようなものが由樹には見えた気がした。

 刹那、閃光のごとく褐色はツインテールに飛び掛かる。

 恐ろしい速さで繰り出されるのはラリアット。褐色の腕がツインテールの首にかかり、頭を跳ね飛ばす。

 ツインテールの口から吹き出される噛んでいる途中のはさみ揚げたち。空中を舞うこの後口に入るはずだった、四個目のはさみ揚げ。せまいアパートの畳を跳ねるはさみ揚げ。

 ラリアットをしたまま倒れこむ二人。褐色はそのままツインテールの上に馬乗りになった。

 振り下ろされる拳。

 パンと痛々しい炸裂音が響くかと思い、目を背ける由樹。

 だがそれはしてこない。

 まわりこんで見てみるとその理由がわかった。パーではなくグーだった。

 平手打ちではなくわなわなと力強く握られた拳から放たれる。無慈悲な一撃。

 それがツインテールの顔面で全力でぶつけられる。正確に凶悪にツインテールの頬やアゴをつらぬく。

 拳を全力で振りかぶるパンチの打撃音は重く鈍い音。ただただ肉を肉で打つ音が響いた。

 「や、やめろ、馬鹿野郎!」

 振りかぶって力いっぱい顔面を殴る褐色の腕をとり、羽交い絞めにする。

 感情はあらわになってはいないが表情は機械的なのに行動は感情的でそのギャップに恐怖を覚える。

 殴られていたツインテールのほうは泣き声も何もあげてはいなかったが、顔をぐしゃぐしゃにして涙を流していた。

 「とりあえず逃げろ!」

 由樹(ゆうき)の言葉を聞いたのか、ツインテールはそのまま何も言わずにトイレに駆け込む。

 かちゃりと鍵を閉める音が聞こえた。

 褐色はいまだに納得してないのか、由樹(ゆうき)の羽交い絞めを強引に解いて由樹(ゆうき)を押しのけトイレの扉を思いっきり叩く。

 何度も何度も。声もあげてはいない。

 表情に変化は無い。しかし振り下ろされるこぶしには殺意が乗っていた。

 由樹はそんな彼女が恐ろしく、少しの間トイレをたたき続ける彼女を見ていることしかできなかった。

 数分後、疲れたのか感情が収まったのか褐色はまた定位置のようにちゃぶ台の奥に座った。

 「……お前の気持ちもわかるぞ」

 由樹は調理の手を止めたままで褐色と向かい合う。

 「昨日あれほど自分は我慢したのに、あっさりと人間みたいなことをするアイツが納得いかなかったんだよな」

 褐色は何も言わない。辺りが静かになる。

 すると、いままでトイレの扉を叩く音で聞こえていなかった音に気がついた。

 トイレから声。泣いて過呼吸になりそれでも泣き声を押し殺すようにして泣く女の子の声。ツインテールがトイレで泣いている。

 「眠れない、食事も出来ない、排泄もしない。感情を出さず言葉に答えず自らを人形のように振舞うことでガガイモになろうとする。そういった努力をあのたった一個のはさみあげで踏みにじられたように感じたんだろう。だからとっさに暴力的になった」

 褐色は何も答えない。うつむくこともなくいつもどおりこちらを見ている。まばたきもせずに。

 「お前のプロ根性はわかった。そういうのが許せないのはわかるが、お前がした行為は正当化されるものではない」

 床に転がってはさみ揚げを拾ってシンクへ三角コーナーに投げ入れる。

 「……どんな理由があるにしろ。殴ったほうはその暴力を謝らなければならない、正しいか正しくないかは別にしてな」

 伝わったかどうかはわからない。ただそういい終わった後、褐色のほうに変化はあった。

 突然立ち上がりトイレの前まで来る。

 また扉をたたくのかとひやひやしながらその様子を由樹は見ている。

 すると、褐色はトイレの扉の前で自分の頬を思いっきり殴り、そのまま土下座をした。そして顔を上げて一発殴っては土下座。そしてまた一発と肉を打つ音と床に頭がぶつかる音が聞こえてくる。

 正直怖い。

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