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短編集

おわりの魔王

作者: 影都 千虎

 どうも。魔王と呼ばれてます。


 齢は今年で……あれ? 俺今年でいくつになったんでしたっけ?

 えーっと……多分、六百年ぐらいは生きてます。ひょんなことから不死の身体となりまして。特になにもしてないのに命を狙われ、その度に返り討ちにする生活を送っています。


 ハハハハ! ざまーみろ、自称勇者共が!


 こんなテンションですが、一人ぼっちです。いや、一人ぼっちだからこそこんなテンションになったと言いましょうか。



 ここは『魔王城』なんて呼ばれていますが、ざっくり言えば俺の夢のマイホームです。六百年もあれば改築増築を繰り返して城にすることなんて簡単なんですよ。自分で言うのもなんですが、かなり立派な城が出来上がりました。


 いつもいつも、飽きずにやって来る勇者共の為に様々な仕掛けや罠も完備しています。メンテナンスだって欠かしません。ただ、広さのあまり掃除が追い付かないのが悩みの種です。


 でも、それは仕方のないことでしょう。何故なら、この城には俺以外に誰一人として暮らしていないのですから。



……少し、昔話をしましょう。


 俺も六百年ぐらい昔は、勇者一行として活躍していました。

 魔法使いとして、先陣を切って突っ走るバカな勇者や拳闘士の背中を魔法で守る。そんな日々を送っていました。思い返してみれば、懐かしい。あの日々が俺の人生のなかで一番輝いていたでしょう。


 確かに、辛いことや逃げ出したいことも沢山あったけれど、その分喜びや幸せがあったのですから。


 かつて俺に背中を預け、無茶な戦いをしていたバカな仲間たちはとっくの昔に俺一人を置いて逝ってしまいました。俺はそれを認めたくなくて、どうしようもなく寂しくて、次の仲間を探すことにしました。


 仲間はすぐに見つかり、俺は最初の仲間たちとは少し違った雰囲気の仲間と共に戦う、それなりに楽しい日々を送っていました。しかしそれもすぐに崩れ、仲間たちはまた俺を置いて逝き……俺はまた、次の仲間を探しました。


 そんなことを繰り返して四回目。とうとう俺は、三百年とか四百年とか、そういう単位で生きているということがバレてしまいました。そこからは勇者一行としては生きられず、周囲に『魔王』と呼ばれ、ひたすら討伐されそうになる日々。段々家から出るのが億劫になり、家を壊されるのも嫌で、改築増築を繰り返した結果今に至ることになりました。



「今日こそはお前を倒す! 覚悟しやがれ、『おわりの魔王』!」

「懲りませんねぇ……何度目ですか」



 勇者が来てしまったので、俺は書きかけの日記帳を閉じ、嫌々ながら勇者たちに向き合いました。今日も彼らの表情は生き生きとしています。


 嗚呼、目が潰れそうなほどに眩しい。



「……俺も……昔の仲間に、会いたい……」



 思わず口からこぼれた言葉は彼らには聞こえていないでしょう。彼らは、俺を倒すことに夢中なのですから。




 いつからでしょうか。俺が死を望むようになったのは。

 仲間を引き連れた彼らが、生き生きとした表情で俺を倒しに来るようになってからでしょうか。



 昔の仲間を思い出して、昔に戻りたいと強く思うようになってからでしょうか。


 一人であることを意識して、どうしようもなく寂しくなったときからでしょうか。


 俺だって、バカではありません。

 こう戦っていては、経験の差から勇者たちを倒せてしまうことは分かっていました。だから、何度か無抵抗のまま彼らに殺されようとしました。


 しかし、どういうわけでしょう。こちらが明らかに死にたがっているのを知ると、彼らは決まって説教を垂れるのです。


 そして、俺を生かし彼らは死んでいくのです。


 余計なお世話だと、俺を生かすなら自分たちを生かせと何度思ったことか。本当に、バカなんじゃなかろうか。



 どうせなら、世界もろとも滅ぼしてみんな一緒に死のうとか、そんなバカなことを考えた時期もありました。勿論勇者一行に止められましたが、無視して無理矢理実行しました。


 しかし、世界は無事滅んだものの俺は死ぬことが出来ず、絶望して終わるだけでした。そんなことをしたから、『おわりの魔王』なんて呼ばれるようになったのかもしれません。自業自得ですね。



 さて、今日彼らは無事に俺を殺すことが出来るでしょうか。何回も戦っているので、お互いにお互いの手の内は全て晒してしまっています。


 となると、あとはもう運の問題でしょうか。偶然向こうがクリティカルを連発して、俺が先に倒れる。そんな結末があったらいいな、なんて。



「あ、れ……?」



 なんてことを考えているうちに、いつの間にか勇者が握る剣が俺の胸に突き立てられていました。俺は痛みと引き換えに力を失い、その場に崩れ落ちていきます。



「こっちはみんなの想いを背負ってるんだ! ここで負けるわけには、いかねえんだよ!」



 そう言って彼は、更に俺の深いところへ剣を押し込みました。剣は不思議な光を放っていて、どういうわけか温かみを持っていました。ああ、これが『想い』か。


 口から血を溢しているのに、胸に剣を突き立てられて今にも死にそうなのに、それなのに微笑んでしまう俺は異常でしょうか。


 勇者の(いぶか)しげな視線は心が痛くなります。


 嗚呼、そんな顔をしなくていいんですよ。

 もっと俺を倒したことを喜ぶべきです。俺だって、この瞬間を待ちわびていたんですから。



「……、お前は、一体……?」

「……知って、の、通り……『おわりの魔王』です……よ……」



 倒れた俺に勇者が話し掛けてくるので、俺は仕方なく最後の力を振り絞って会話をすることにします。

 ここで事切れて、彼らが俺のことを気に病んでしまっても嫌ですからね。そんなことは、ないとは思いますが。



「……無事、に……俺を倒した……んです、から、もっと……喜ん、だら、どうでしょう……?」

「でも、お前……お前は、本当は何を企んでたんだ……?」

「……優しい勇者、です、ね……そんなこと、は、どう、だっ……て、いい……でしょう? ……ほら、そろ……そろ……フィナーレ、です、よ……」



 企むも何も、俺の悲願はたった今貴方が叶えようとしてくれているんですから。

 だから、悲しい顔をしないでください。俺の最期の記憶を、それで締め括るつもりですか?

 とんだ嫌がらせですね。


 俺はそんな想いを込めつつ、彼に腕を伸ばしました。そして、久しく使っていなかった魔法を唱えます。


……回復魔法。仲間にしかつかえない、使い勝手の悪い俺の魔法。これで、勇者一行の傷は癒え、体力も回復したことでしょう。


 ああ、それと最後にもうひとつ。俺のわがままで滅ぼしてしまった世界への罪滅ぼしと、そこに暮らす人々のこれからの幸せを祈って…………本職が魔法使いだったんですから、こんなことをしても悪くはないでしょう。



 魔力も使い果たした俺は、静かにその時を待つことにしました。強烈な眠気が襲ってくるなか、柔らかな光が差し込んでくるので目を瞑らずにいると、最期に懐かしい顔がこちらに手を差し出しているのが見えました。



「……やっと会えた」

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