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作戦会議

 実はちょっと前にJSL丸ごとの買収話がきたんだ。ジョンとスティーブは眉をひそめて話し出した。


「リーに連絡とれないし、もともと売るつもりはないから断った。了承なしでゴメン」

「その対応で正解よ。売るなんてゴメンだわ。3人でつくったこんなに楽しいお遊びの場がなくなるなんて考えられない」

「それがさ、買収額が300万ポンドだったんだ」

「約50億円? ふーん、それはまた高額提示ね」


 正直300万ポンドなんて、うまく想像できない。私に実感できるのはせいぜい100ポンドどまりかな。

 だからそんな大金、関係ないとさえ思ってしまう。

 だけど、誰もがそうじゃない。


「そうそう、まあ高額だわな、だから小耳にはさんだスタッフたちが、ああだこうだと紛糾してな。売ったら自分の分け前はどうなるか? みたいな。でも権利がある肝心の俺とスティーブは売る気なし」

「そこへ、個人個人への降ってわいたような世界的企業からの高額提示の社員雇用条件だろ!?」

「隙を突かれたようにスタッフが霧散しちゃったってことね?」

「まぁ、仕方ないさ。見せられた金が高すぎる。もともと俺たち3人で作った会社だし、基幹部分は3人しか手出しできないし。スタッフを信用してうまくやってるつもりでも、相手はそうは思ってないこともあるし。ま、もともとみんな凄腕のエンジニアなんだ。世界的企業から三顧の礼で求められて活躍の場を用意されれば、それになびくのは当然さ」

「そうそう、いいじゃん。もともと俺たちだけで始めた会社だから。元にもどっただけ」

「そうね。全然いいわ。で、どうするの? 売られたケンカは?」

「売られたケンカは?」

「売られたケンカは?」



「買うだろ」

「迎え撃つだろう」

「たたきつぶすわよね」


 そう、容赦なく!  三人で目を合わせ笑う。


 久しぶりに楽しいお遊びの時間ね。












 それから3人と残ったスタッフで作戦会議した。

 まず敵を的確に把握する。狙いを知る。そしてその後、一番効果的な攻撃をする。

 叩きのめす。息の根を止める。


 そのためには・・・・。


 情報戦!



 ネットだけじゃなく、いろんなコネクションを探り出すジョンとスティーブ。

 対人が苦手と思ってたのに、意外にもジョンとスティーブのコネは広かった。

 そこら辺が私とは違う。さすが暗黒の歴史を繰り返したヨーロッパに長く続く家系の出身!


 密かに感心していると、スティーブが事の核心を握ってきた。



「アジアの大陸の新興大国らしい」

「??」

「ウラで糸引いているのは」

「何? それ」



 私たちは大体の方針を決めたあと、3人だけでスティーブの部屋に集まった。知らない人から見ると、優雅なアフタヌーンティの最中にも見える。

 ウエッジウッドのティーセットにたっぷりのアールグレイ。温めたたっぷりのミルクを用意して、添えたスコーンは最近できたお気に入りのお店のもの。オーナーパティシエはイギリス人じゃなくて、なんと日本人。やっぱり日本人の舌は世界に誇れる・・・・、なんて思いながら、背筋を伸ばして優雅にカップを手にする。アパートメントのオーナーの淑女レディのマネだ。


 そんな私を二人のメンズはにこやかに見ながら、次々に口から出る静かな悪意ある辛辣な台詞。

 本当はあなたたち、ワルだったのね。こんなのとてもじゃないけど他のスタッフに聞かせられない。速攻逃げられる。


「それにしてもただの嫌がらせにしては、規模が大きいと思ってたわ」

「買収話といい、スタッフの大量引き抜きといい、同時に起こったにしては用意周到で話がでかいな」

「狙いは何かしら?

「・・・・。決まってるだろ。JSLが持ってる、ユーザーの個人情報だ」

「!!!」



「俺らのSNSは実名登録だろ、しかも所属も経歴もその人のバックボーンも全部登録してる。

 もともと大学のサークル連絡用として広まったものだから、みんな意識せずに仲間意識でどんどん個人情報をさらしてる。そのままの流れで世界的に広まっている。こんな個人情報さらしているサイトは他にない。しかも今は個人情報を表示できるかは選択制にしているけど、非表示の情報は・・・・」


「ああ、JSLが持ってる」

「登録数は20億・・・まあ、重複アカウントもかなりあるけどな。もちろん世界レベルで、高収入、高教養の層がコア。ガッチリつかんでる」

「現在の世界の人口は?」

「72億人。その中の20億人分だ」

「奴らには喉から手が出る程欲しい情報の宝庫ってわけだ」


 今更だけどJSL、いつの間にそんなに巨大ネットワークになってたの?と二人に気づかれないようにため息をつく。


 そんな私をおもしろそうに二人は目配せしあってる。


「何よっ?」

「いや、リー、ホントのところ知らなかったろう?」

「あんまりJSLのビジネスに興味なさそうだもんな」

「・・・・。バレてたか!!? あたしは、ただ3人でやってるのが楽しかっただけ。なんつーか、始めて出来た遠慮なく話せる友達が二人だったから」


 思わず本心を吐き出してしまった。それにはジョーもスティーブもちょっと戸惑ったみたい。スティーブは一瞬目を見開いて、次に細めてジッと私を見つめた。その視線が熱を帯びたような気がして

 ちょっと息がつまる。なんだかアパートメントに迎えに来てくれて以来、スティーブの様子がいつもと違う。そういえば中庭で寝ていた私を抱き起したんだわ、この人。ただ手を引くだけじゃなく。

 内心戸惑う私に、ジョーはさりげなく話を戻した。


「ここんとこ、世界的に国や政府だけでなく、個人情報のやりとりがあらゆる面でキーになってきていのは理解してるよな」

「無料通話アプリで、スマホの個人情報を全部抜かれるのはまだカワイイ」

「検索サイトもそうだな。地図アプリは便利だし、ショッピングアプリも便利だ。だけどそういいう奴を使うと、それでその人の行動範囲、やショッピング履歴、趣味、趣向、好きな物、考え方、それは数値かされて、情報として個を囲い込む。そしてその仕掛けは絶賛繁殖中。つまり、今現在、いろんな企業が、国が、個人が、世界的に罠をばらまいて己を有利にしようと攻勢をかけてる真っ最中ってワケ」

「そういえば、この前、シンガポールのホテル料金を検索したら、それだけで、「須藤様にステキな情報」っていうシンガポールのホテルのディスカウントメールが来たっけ。検索だけで名前を入力してないのに、薄気味悪かった」


 空気がちょっと緩んだ。二人の厳しいやりとりに、一人だけ緩い発言をしてしまった。ゴメンKYで。


「・・・。そうだ、そういう事。検索しただけだろ。しかもなんで名前入れてないのに、個人宛にしかも「須藤様へ」でメールがくるんだよ。情報抜かれてるってことだろ。「須藤様」が今、シンガポールのホテル料金を検索している。その「須藤様」へピンポイントでその土地のホテルの割引情報・・・・釣れる確率の高さは通常のマーケティング情報どころじゃない」




「商行動? 資本活動のため?」

「事態はそれだけじゃないな。金だけじゃない」

「戦争はなんで起こると思う?」


 スッと冷えた視線でジョーが尋ねる。スティーブがそれに問いで答える。


「中東で鎮火してはまた巻き起こる戦の原因は何かな?」

「宗教だけの問題じゃないんじゃない?」


 いつも思ってた疑問。「わかり合うために隣人を愛せよ」っておかしくない? 愛するための宗教なのに異教徒を弾劾する。

 だけど、「異宗教ってことが争いの原因」というのは実は表面だけの話ではないかと思う。戦争を起こすのはいつも同じような立場、考えの面々。結局、戦争なんて正義のためでも主義主張のためでもなんでもない。

 力を持った者のただのお遊びはないのか?



「戦争で虐げられるのはいつも庶民ばかり・・・」

「実際にコマを進めるのは為政者たち、そしてその為政者を操るのは戦争で得する奴ら」

「もうすでに金なんて一生かかっても数万年かかっても使い切れないくらい持ってるのにな」

「というより、金なんて作れるんじゃね?」


「ああ、奴らは感覚が麻痺している。人生はただのゲームだ」

「その暇つぶしのゲームを、ちょっと場所替えして、俺らにも仕掛けてきたって・・・。随分バカにされてるなぁ」

「武器でドンパチじゃなくて、インターネットの世界でドンパチかぁ」

「その方が楽だし、血も流れないから糾弾されない。それに目新しいから興味を引くんだろ」

「ふーん。多分相手は今の状況に楽勝だと思ってるぞ」

「ガキだと思って、油断されてる?」

「・・・、まぁ、現状ではそうだろ。ちょっと負け気味・・・」

「・・・ほぉ」

「・・・ふふ」

「・・・ははは」


 目を見合わせニヤリと笑う。



「俺らには兵隊がいたよな・・・。どんだけだっけ?」

「・・・20億人?」

「ははは(笑) 戦争なんだから、彼らに前線で戦ってもらっちゃう?」


 オイオイ・・・。また鬼畜なことを二人がささやいている。

 どうやって敵を攻撃するか・・・、朝まで二人のにこや(?)かな話は続いた。さすが狩猟民族の男子。その好戦的な話に正直ぞっとしたのは、二人には内緒だ。




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