◆第5話◆初陣
―2031年 3月31日 PM6時40分 大宰府 某所―
日暮れ時に黒のトラックの軍勢が夕陽を浴びながらが移動している。
このトラックは運搬用として使われたものだったが、現在は主に兵の移動用に使われるようになったそうだ。前の運転席には正規部隊の人が乗り、俺達は後ろの本来荷物を乗せる場所に適当に座っていた。
総勢200名近い訓練生20程の小隊を組んだ。その隊のリーダーである隊長は正規部隊の人がなった。俺達の小隊のメンバーは智揮、久志、斎藤班長にその他訓練生6人と正規部隊の糸目が特徴の青年だ。
朝この小隊全員で自己紹介をしたらしいがぼーっとしていたため覚えていない。
「うあ〜眠い」
智揮が呑気にあくびをした。昨日はあのまま盛り上がって就寝したのは朝の8時だ。それから召集がかかるまで仮眠を取ったが十分眠い。
智揮、久志、俺3人は瞼が重く、全くもって初陣のモチベーションではない。
「にしても何でこんなにトロトロ行進してんだ?」
斎藤班長が居るせいかいつもより小声で智揮が言った。
「ここを抜けたらPPGOLが居てもおかしくないからな」
久志が周りの景色を見ながらそう答えた。
「えっそんなに普通に居るの?」
俺は驚いてそう質問する。
「まあここら辺は前に加藤中将達が久留米辺りまで後退させたから、居たとしても残党のザコぐらいだと思うぜ」
「PPGOLにザコとか強い奴とかいるの?」
「おお!!確かにそれは俺も気になる」
すると呆れて久志はため息をついた。
「創真はともかく智揮!!お前は訓練の初期で習っただろ!!」
「いや知らん」
そう智揮は即答し、その答えにイラついたようで智揮を睨んだ。
「ったく…。まずザコってのは一番良くみる緑色の歩兵だ。武器も拳銃とか大したことはない。次にPPGOLにも特装兵って奴がいる。こいつらはしょぼい銃じゃなく本当に危なっかしい奴ら独特の重火器を使ってくる。その上全身白色の強化スーツみたいなのを装備しているから弾はまず効かないらしいぜ」
特装兵…。ただでさいおっかないのに更に強い奴がいるのか…。
「重火器って具体的にどんなの?バズーカとかそんな感じ?」
俺はそう質問する。
「バズーカならまだ可愛い方だぜ。戦車を一撃で木っ端微塵にした記録もある。もしコイツにあったら迷わず逃げるべきだな」
戦車を木っ端微塵って…。だが逆にどんな兵器なのか見てみたい気もする。
「つーかさ俺らって園田中将の指揮で動くんだろ。やだな俺アイツの目つき嫌いだし性格悪そうだし」
智揮の気持ちは分からなくはないが、それは言い過ぎだろ。一応園田中将もそれなりの戦果を挙げていらっしゃるのだから。
「確かに栗原中将とかが指揮した方が少し安心するよな」
久志がそう言った。
何気なく景色を見ると無傷で立ち並ぶビルが見えついPPGOLが本当に居るのか疑ってしまう。
しかしある所を境に景色は一転した。
「うわ…。これはひどい…」
思わず叫びそうになるのを抑えながらそう言った。
「そっか創真は見るの初めてか…。病気で半年も気失って居たんだもんな」
見えた景色は地獄そのものだった。周りの建物は黒く燃え尽きた跡が残り、崩れた建物の瓦礫で埋め尽くされている。
一番驚いたのは普通に死体が転がっていることだ。何かを訴えるように目が開いたままの女性の生首やもはや誰のものかも分からないちぎれた手足、ウイルスにやられ全身発疹だらけの死体など無惨に転がっていた。
辺りは死臭が漂い吐き気がする。
「ここは一番激しい戦闘があったんだよ。勝ったことは勝ったんだけど4万人の人が命を落としたらしいぜ」
4万!?久志が言ったあまりの桁に驚いた。
「なんで嫌な所で不時着するかな…」
『人が死んでいる』という証拠を目の前で見ると改めて自分が立たされている状況に気づかされる。
いきなりエンジン音が消えトラックが止まった。前に乗っていた糸目の正規部隊の青年が降りてきた。
「今、救出する運送機を発見したと連絡が入った。早速偵察部隊が状況を把握した上で、正規部隊を中心に救出に入るそうだ。この隊は救出が終わるまで引き続きここで待機する」
『了解』
「なんかあっけないな…」
「うん」
周りの風景のせいか智揮の言ったことに対して素っ気ない返事を返してしまう。
俺はしばらく何も話さず暗くなっていく空を眺めた。
「はい…。了解しました」
いきなり無線が入ったようだ。もうすでに日は沈み不気味に光る満月がでてきた。
やっと終わったのか?そう誰もが期待した。
「今園田中将から偵察部隊との連絡が途絶えたとの連絡が入った。これに対して我々の隊にも臨戦態勢を整えよとの命令がきた」
「!?」
訓練生全員その場で凍りついた。正規部隊の青年は訓練生に拳銃を配りはじめた。
「おい、これマジでやばくないか?」
「もう帰りてえよ…」
「大丈夫なのか?」
訓練生の様々な言葉が飛び交う。みんな不安に陥っているのだろう。
「皆落ち着け!!私達は誇り高き日本第三支部RED HOPEだ!!我々が怯えていたら誰が日本を救う!?」
正規部隊の青年がそう言い不安を少し和らいだ時だった。
何かが空を裂いた。
正規部隊の青年の上半身は血しぶきをあげながら文字通り吹き飛んだ。下半身は重量に従って倒れ血で地面を湿らせ鉄の匂いが充満する。
吹き飛んだ上半身はすでに人間の形をしておらず目を覆いたくなる。
「きあああああ!!」
「うあああ!!」
そう言葉にならない悲鳴をあげる。言うまでもなくみんな混乱状態に陥った。