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◆第4話◆それぞれの想い




「沈まれ!! 神田支部長のお話はまだ終わってないだろう!!」




 栗原少将がそう叫ぶとさっきまでざわついていた者達は静まり返った。さすが教官だ声がよく通る。



 それにしても第一支部と自衛隊の中枢が壊滅したのなら相当やばい。何故なら日本の抵抗軍の要が壊れたのだ。




「この話は話すべきか迷ったがいずれ知ることになるだろうと思い君達だけに話している」




 神田支部長は眉間にしわを寄せ重々しく言った。




「我々は連絡を受けてからすぐに救出も考えたが生憎、情報不足だ。それに肝心な移動手段の燃料が足りない事から救出は不可能に等しいと思われる」




 それはそうだろう…。

 でもこれからどうするのだろか?まさか玉砕しようとか言わないよな…。




「今後方針としては第二支部や残っている自衛隊と連携を組み情報を集めどうにか打開策を検討したいと思う。後この事は情報が集まるまで他の隊員に伝えることは禁止する」




 打開策って…。あるのか?

 第一支部や自衛隊の救出も重要だがそもそも第三支部自体が情報もまともにない上、これと言った主力兵器もない状況は大丈夫なのだろうか?




「我々の作戦計画だが最優先にやってもらいたい計画がある。各自将校らには既に伝えてあると思うが本部から救援物資を積んだ運送機が不時着している。そこを明後日の日暮れから救出に向かう作戦名は《春雨の作戦》だ」




 何で結構重要そうな作戦の前に《首都防衛作戦》が失敗した話を俺達訓練生にもするのだろう?

 せめて《春雨の救出作戦》が終わるまで秘密にして欲しかった…。



 もしかして恐怖を持たせて俺達の士気を高めるつもりなのか?




「各隊は準備は終わっていると思うが一応最終チェックをしといてくれ、作戦の内容はこのあと第一訓練場で説明する。話は以上だ解散してくれ」




 途端にまた室内にざわめきが広まると思ったら意外にみんな静かだ…。

 ざわめきの代わりに重い空気が室内に広がる。



 室内を出てからも全くと言っていいほど喋るものは居なかった。







―2031年 3月29日 PM1時10分 RED HOPE第三支部局地下一階 第一訓練場―







「よう!食堂に結局来なかったけどやっぱり怒られてたのか?」




 実施訓練の説明会の会場である第一訓練場に着いて一番初めに智揮が言ったことだった。




「まあ…。いろいろとね」




「いろいろって?」




 智揮は自然にそう尋ねてきたので思わず《首都防衛作戦》は失敗したんだ。と言ってしまいそうになった。




「いや…。実施訓練に着いての意気込みとかを」




 頭が真っ白になって自分でも訳の分からないことを言った。




「何か隠してんだろ?」




 いきなりそう言われた。思わず本当のことを喋ろとした時…




「分かった…。斎藤班長と何かあったんだろ」




 にやけながら智揮は言った。



 馬鹿で良かった…。



 本人には失礼だが本気でそう思ってしまった。




「お前奥手だと思ってたけどなかなか隅に置けないな〜」




「違うけど…。まあいいや」




 小声で一応否定しておいた。



「そういえば久志は?」




 周りを見渡すと久志らしき人は居らず、代わりに亮二や健太郎、河谷など加藤中将直属の戦闘部隊が見えた。

 修羅場慣れしているせいかみんな凛々しい顔をしていて整列もビシッとしている。




「昼飯の時は一緒だったけど、腹壊したから遅れてくるかもだって」




「加藤中将も来るんだ」




「おおマジだ…。すげー」




 智揮がそう言った。今気づいたが正規部隊の人達はまだ時間は十分もあるにも関わらず全員集合、整列している。さすがだ。

 それに対し俺達訓練生はだらだらと集まっている。




「ここが戦場だったら俺ら終わってるな…」




 呆れながらそう智揮が呟く。




「そう思うなら皆に並べと指示を出すことはできないの?」




 斎藤班長だった。




「あっすいません」




 俺と智揮は慌て並ぶようみんなに声を掛ける。




「相変わらず厳しいな斎藤班長は」




 斎藤班長が先頭に整列し指示を出しているのをいい事に智揮は愚痴をこぼした。



 確かに…。でも、だからこそ斎藤班長は班長に選ばれたんだと思う。




「あっ久志の奴戻ってきたようだな」




 智揮がそう言いながら指差した。




「良かった…。なんとか間に合ったぜ」




 久志は息切れが少し落ち着いてからそう言った。




「静粛にしろ!!」




 と園田中将叫んだ。どうやら久志は間一髪で間に合ったようだ。



 園田中将は加藤中将と同期の将軍らしい。だが久志曰わく仲は悪く園田中将は加藤中将のことをライバル視しているらしい。



 その園田中将の一括でほとんどが静まり返った。



 俺達の正面にはステージがセッティングされており、中央にマイクスタンドが置いてある。その後ろにはバカでかいモニターがある。



 俺達から見て右側には各将校がイスに座っている。っと栗原少将がいきなり立ち上がって正面のマイクを手に取った。




「本来なら第7回実施訓練説明会を始めるところだが、今日は急きょ予定を変更して諸君に集まって貰った」




いきなりモニターに地図写し出された。そこには赤い×印があった。恐らく不時着している運送機の場所だろう。




「知っている者もいると思うが、イギリス本部から支援物資を積んだ運送機が何らかの原因で不時着している。早速、明後日の日暮れから正規部隊を中心に救出に向かいたいと思う。尚この作戦は第7期訓練生も後続部隊として参加する。訓練生の指揮は私と園川中将が行う」




 第7期訓練生って俺らじゃないか。まあ今まで支援物資を貰ってきてる身だから、それくらいして当然か…。




「この作戦は終わり次第、第三支部に戻り本部に連絡する」




 栗原少将がそう言い終わってイスに座った。

 すると各隊長となる将軍がそれぞれ意気込みを語っていった。






「いよいよ明後日で俺らも初陣だな」




 隣からそう智揮が言った。




「でもここで言う後続部隊はただ後方でもしもの時に援護するだけらしいぜ」




 俺の後ろから久志が言った。




「でもなんで今すぐ助けに行かないで明後日なんだろう?」




「場所が場所なんだよ。多分GPSで確認して安全なルートを決めたり、もし戦闘になった時の為のプランを練るんだろ」




 そう智揮が説明してくれた。ふと正面を園田中将が語っていた。顔をまじまじと見ると鋭く厳つい印象を与える目が特徴的だ。




「我々は今こそ団結しこの日本RED HOPE第三支部としてPPGOLに勝たなければならない。訓練生はこれを乗り越えれば晴れて立派な二等兵とする。明後日皆、全力を尽くすように…。以上」




「おお!!よっしゃあ!!やっと階級貰えんのか!!」




「気が早いぜ…。それにあくまでこの訓練後だからな」




 はしゃぐ智揮に久志が言った。




「確かにな…。でも長かったこの4ヶ月。やっとRED HOPEの正規部隊になれる」




「だから気が早いって!!」




「まあまあ落ち着いて…」




 顔すらも見たことのない将軍達が次々と語っていった。

 すると神田支部長が正面に立った。どうやら最後は神田支部長で話を締めくくるようだ。




「第三支部の優秀な部下達のおかげで私から特に言う事はない。この作戦のため明後日は全隊、休息をとる。各自ゆっくり体を休めるように…。解散」




 第一訓練場は神田支部長が会場を去るまで拍手が起こった。 その後は皆、バラバラに解散し始めた。







◆◆◆◆◆◆







―2031年 3月29日 PM3時10分 地下二階 202号室―





 作戦の説明会の後、智揮と久志と別れて自分の部屋に戻ってくつろぎながら携帯を触っていた。



 アドレス帳に載っている番号に電話を掛ける。これは毎日の日課だ。

 だが今日も誰も出ることなく留守電に切り替わる。




「はあー」




 深いため息をこぼす。

 以前、第三支部の全員の名簿を見たが見覚えのある名前はなかった。

 こういう時、生きていることを願うことしかできない自分に葛藤を覚える。



 智揮や久志は何も言わないがあの二人も相当辛い思いをしてきたと思う。もしかしたら目の前で大切な人を失っているのかもしれない。



 二人とは訓練に入って会った頃から仲がいい。これまできつい訓練も二人の支えあって乗り越えられたと言っても過言ではない。




「俺も頑張らなきゃな」




 天井を見上げながら言った。


 こう思っていると、じっとしていられず加藤中将に電話を掛ける。




「もしもし…。おう、どうした平生」




「また見てもらいたいところがあるんですが、お時間ありますか?」




「そうだな…。見てやりたい気もあるが、支部長の命令で全隊のオフが決まっている。作戦前にケガしては元も子もないだろ…。たまにはあの子に顔でも見せてやれ」




「…分かりました。失礼します。」




 そういえばここ3ヶ月ずっと訓練にのめり込んでいた。慌ただしい日々に急に休みが入ると暇で仕方ない。



 加藤中将に言われた通り美優ちゃんにでも会いに行こう。そう思い部屋を後にした。




 エレベーターに乗り、地下四階へ出て、保育施設のある場所を目指す。その前にある治療室で見たことのある人影があった。あちらも気づいたようでこっちを見た。




「どうも。斎藤班長」




「平生どうしたの?こんな所で?」




 驚いたようでいつもより声のトーンが高かった。




「いやちょっと知り合いの子に会いに行こうと思ったら斎藤班長を見かけたんで、あいさつしておこうと思いまして」




「そう…。」




 斎藤班長の目の前のベッドに寝かされている2、3才くらいの子を見つめながらそう言った。

 その子は人工呼吸器や点滴を受けていて、全身包帯で包まれている。




「弟さんか妹さんですか?」




「弟よ。私のたった一人の家族なの」




 そう普段は見せることのない微笑みを見せた。




「名前はなんて言うんですか?」




「響よ…。斎藤 響」




 響君を見つめながら斎藤班長は言った。




「私はね、PPGOLが攻め込んで来たとき弟を連れて逃げたけど結局捕まったわ…。でもそこに加藤中将の部隊がやって来てPPGOLをいとも簡単に蹴散らしたわ…。私はあの方みたいに、なりたいと思ったから戦闘部隊へ志願したの」




 俺はこの人をただ単に気の強い人だと思っていたが、どうやらそうではないようだ。




「平生は何故、戦闘部隊へ志願したの?」




「斎藤班長みたいな立派な理由じゃありませんが、単純に逃げてばっかりの自分が嫌いだったから志願しました。ただそれだけです」




「いえ…。立派よ。明後日はよろしくね」




「はい。じゃあ自分はこれで失礼します」




「ゆっくり体を休めてね」




 会釈して、治療室を後にした。



 保育施設を訪れると、そこは騒がしい子供達でいっぱいだった。美優ちゃんはそこで元気いっぱい楽しそうに遊んでいた。 邪魔するのは悪いと思い遠くから眺めることにした。



 これが《平和》というものなのか。

 しかしすぐに首を振り今考えたことを否定した。



 気を抜いてはいけない。何故なら明後日は大事な作戦だ。



 そう思った後、結局美優ちゃんに声をかけることなくその場を立ち去った。







◆◆◆◆◆◆








―2031年 3月30日 PM6時3分 地下二階 216号室―





「ふーん。斎藤班長も意外な一面あるだな」




「まあ戦闘部隊はもしもって時があるからな…。理由は色々あると思うぜ」




 智揮の部屋に俺と久志は集まり、俺は昨日あったことを話した。



 智揮の部屋には昼食後からずっといる。特にやることもないので三人でRED HOPE式ルールの大富豪でもしながら話をしていた。




「よし俺のターン!8切り!」



「9急車っと」




「……」




 大声で言った智揮だったが普通に久志に9急車された。




「からの階段革命!!」




 4、5、6、7、8で久志が革命を起こす。




「4で智揮に渡して、7で創真に渡してはい上がり〜」




「あっ揃った。10、4枚で革命」




 俺はカードを4枚捨てて上がった。




「俺、今何敗?」




「約50回中41敗だぜ」




 眉間に皺を寄せて聞いてきた智揮に久志が答えた。




「何故だ!?」




「智揮はいつも強い数字ばっかり最初に出すから後半息切れするんだよ」




 俺がそう言うとなる程と智揮は手を叩いた。




「そうか…。でもそれは仕方ないな。俺はいつも最初から全力を尽くす男だ!!」




「気合いでどうにかなるゲームじゃないぜ大富豪は…」




 久志が呆れて言った。




「にしても創真は何で戦闘部隊に入ったんだ?」




 いきなりそう聞かれたので少し戸惑ったが一から話をする事にした。

 あの日病院で突然目覚めたこと、そこで加藤中将達に助けられたこと、美優ちゃんの一言で戦闘部隊に入ることを決心したこと。



 すべて包み隠さず正直に話した。




「そうなのか…。それは大変だったな…。何か悪い、デリカシーのない質問してしまって…」




「いや…。いいよ気にしてないから。それより俺も二人共の入った理由が知りたいな」




「俺はたいした理由じゃねーぞ。例のウイルスで両親いなくなって、一人でどうやって生きていくのが効率的かを考えた時、たどり着いたのがRED HOPEの戦闘部隊だった。だってそうだろ。PPGOLに対抗できているのは実質RED HOPEだけなんだし」




 智揮の言ったことは正しいだろう。RED HOPEはイギリスから支援物資を貰えてる分、他の抵抗軍よりかは安定している。




「で、久志はどんな理由だ?」




 さっきデリカシーのない質問とか自分で言っておきながら、久志にも同じ質問をするんだとツッコミたかったが、久志の理由も気になるためあえてツッコまずにいた。




「俺か…。正直に言うと元はPPGOLが憎いからかな。俺の親父は俺が9歳の時、病気で死んでいたんだ。お袋は女で一つで育てくれた。でもPPGOLが襲来して来てウイルスで苦しみながら言った最後の言葉が『もっと生きて成長していくお前を見たかった』だった」




 久志はいつもより目線を下にしてそう言った。




「PPGOLの野郎を一匹残らず潰す。それが俺の当初の目的だった。たがら戦闘部隊に入った。…でも今は少し目的が違う。第三支部に入ってお前らと出会ったからいつの間にか『仲間を守れるくらい強くなりたい』が目的になったんだ」




「お前…。本当に…。いい奴だな」




 智揮は少し涙声で言った。




「何泣いてんだよ…」




 久志が苦笑しながら言った。




「別に泣いてなんかねーよ!!よし!!俺ら三人は絶対生き残り続けて将軍クラスまで登りつめるぞ!!これは男の約束だ!!」




 急にそう言って久志と俺に飛びついて来た。




「おい!!気持ち悪いーよ!!離れろって!!」




「分かったから離して!!」




 二人でそう言った。気付けば全員笑っていた。




「明日はいよいよ《春雨の救出作戦だ!!気合い入れていこうな!!」




「うん」




「そうだな」




 この夜はここ数ヶ月のなかで一番楽しかったかもしれない。






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