◆第2話◆決意
「殺人ウイルスってどういうことだよ!!」
俺は嘘だと信じたかった。
「落ち着け…。騒いだところでどうなる」
加藤に言われ自分に冷静になるように言い聞かせた。
「殺人ウイルスって空気感染じゃないよな?」
抑えているつもりでも俺の声は恐らく少し荒々しかっただろう。
「残念ながら空気感染だ。全世界にもうウイルスは散らばって全員感染している。もちろん俺もお前もな…」
「症状はどんなだ?」
「発疹、咳、高熱などから始まり呼吸器が侵される。治療法はまだ見つかってない…。主に20歳以上から発祥して4〜7日ぐらいたってから100%で死に至るらしい」
「じゃあ20歳以上の人間はもう世界にはいないという事か!?」
「さあな…。だが平生、お前が目を覚ましてから20歳以上の人間を見たか?」
しばらく沈黙が続いた。すると俯いている俺に対してため息をついた。
「まあ悪い話ばかりあるわけでもない…。PPGOLが襲来した時、いち早くイギリス軍やフランス軍が状況を見極めて対応し少年兵士だけを集めた部隊を作った。それがこのRED HOPEだ」
確かに加藤達が着ている軍服のような黒服に赤い文字で《RED HOPE》のロゴが左胸に着けてある。
他の大国はどうなったんだ?
そう口にしたかった。だが怖くて聞くことが出来なかった。代わりに違う質問をした。
「武器はどこで手に入れたんだ?」
「だいたいがRED HOPEの本部があるイギリスから支給されている」
「武器はどんなのが支給されたんだ?」
「詳しい種類は分からんがハンドガン、対戦車用ライフル、アサルトライフル、スタングレネードぐらいだな。他にも戦闘用ヘリがある」
「それだけ?」
敵は宇宙から来たぐらいの文明を持っているのに小型〜中型ぐらいの銃器でロクな抵抗ができるわけがない。
「東京にPPGOL共が集中ところがあってな、もうすぐそこにRED HOPE全日本支部が本格的な攻撃を開始するらしい…。まともな武器はそこへ全部運ばれた」
「…。勝てるのか?」
「さあな…。だが日本を易々と占領下にされるわけにはいかないだろ」
それはそうだが…。
「お前状況飲み込むの早いんだな」
加藤は眉をひそめそう言った。
「まあ…。まだ混乱してるけど」
「軍事関係に興味あるのか?あと銃は使えるか?」
少し間があった後に唐突に銃を手渡しながら加藤が質問してきた。
加藤は俺が後半、軍事関係の質問ばかりしていたからそう聞いたのだろう。
「まあゲームとかやってて、詳しいんだよ…。銃は撃ったことない。でも撃ち方は分かるし、この銃は知ってるハンドガンだから俺でも使いこなせると思う」
見た感じM92系のハンドガンだ。M92系は軍隊でも使われているハンドガンだ。
撃ったときの反動も軽い上に最大の装填数も多くなかなか高性能なハンドガンだ。
「そのハンドガンはお前にやる護身用にもっとけ」
いきなり加藤の黒服の胸ポケットから音楽が聞こえた。着メロだ。
加藤は携帯を取り出した。
「河谷か…。そうか。今から隊を率いてすぐ第三支部へ戻れ。俺達も今から帰る…。ああ任せた」
加藤はそう言って電話を切った。
「さあ俺達も第三支部へ戻るぞ」
そう言ってからヘリのプロペラが回り始めて轟音と共に上昇した。下をずっと見ているとたちまち病院は小さくなった。
「お前は今のうち体を休めておけ」
加藤には少し悪い気がしたけれど色々とあって、疲れていたので目を閉じてしばらく眠りにつくことにした。
◆◆◆◆◆◆◆
―12月8日 PM5:24 福岡市春日 RED HOPE第三日本支部のヘリ格納庫―
「すいません、着きましたよ」
そうパイロットに言われて目が覚めた。疲れていたせいか爆睡してしまった。
ヘリの機内を見たが居るのは俺とパイロットだけだ。
「将軍ならもうコロニー内に戻りましたよ」
パイロットがそう言った。
「あのこれから俺はどこへ行けばいいんですか?」
「支部長の所へ行けばいいと思いますよ。場所はここを右にでて突き当たりを左に曲がったら見えてくる地下5階です」
「どうもありがとうございます」
そう言って俺は格納庫を出た。外は元は基地として使われていたのか軍事用トラックや車などが置かれている。
突き当たりを曲がった所でヘリのパイロットが言っていたビルが見えた。
ビルはとても高く30階は越えているだろうか。周りにもいくつか高いビルが並んでいるがこのビルは群を抜いて高い。
聳え立つビルは沈む太陽に朱く染まっていてとても幻想的だ。
何故かよく分からないがつい見とれてしまう。
「何見てるんですか?」
そう話しかけてきたのは、病院内で会った黒髪で短髪の眠そうな目をした少年だ。
「いや…。あまりにも綺麗だったから」
俺はビルを指差し恥ずかしながら言った。
「……」
沈黙。
俺は引かれたのだろうか?しばらく重い空気が続いた後。
「家のバカ兄貴が殴って…。その…。悪かった」
兄弟だったんだと驚いたが予想外の展開で安堵した。
言われてみればあのドレッドヘアにピアスの青年に似ている気がする。
「いや…。いいよ悪いのはほとんどが俺だし…。俺平生 創真16歳君は?」
「俺は佐竹 亮二 14」
「亮二って呼んでもいいか?」
「いいっすよ、じゃあ俺は平生さんって呼びます。」
笑ってそう亮二は答えた。案外こいつはいい奴かもしれない。
「平生さんはこれからどこか行かれるんですか?」
亮二は頭の後ろで手を組みながら言った。
「あっこれから支部長室に行くんだよ…。ところで支部長ってどんな人か分かる?」
「さあ自分はあまり会ったことないですし…。その辺のことは将軍が詳しいですよ?」
将軍?ああ加藤のことか…。どうやら加藤は将軍、隊長などと呼ばれているようだ。
「そうか、加藤は頑固とか言ってたよ」
その場で笑いが起きた。
「確かに頑固って話しはよく聞きますよ」
笑いながらそう言った。
「あっ自分これから会議あるのでこれで」
そう亮二が敬礼した。
「またな」
俺も敬礼を返した。
ビル内へ入ると受付のような所があった。右端にはエレベーターと階段があり一見ロビーに見えるが受付のような所でRED HOPEとロゴの付いた黒服にアサルトライフルなどを装備した人が数人で何かを話していた。
一瞬チラッとこちらを見た…。しかし、それだけでまた話に戻ったようだ。
エレベーターから地下5階へ着いて出ると、真っ直ぐと広い廊下と廊下の先には大扉があった。
たくさんの蛍光灯が無駄に高いように見える天井に着いており、昼間のような明るさのせいかいまいち地下に居るという気分になれない。
真っ直ぐ続く廊下を歩き大扉の前でノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
そう言って中へ入ると最初に目にしたのは巨大なモニターだった。
そのモニターの前に机に座りパソコンでなにやら打ち込んでいる男がいた。他にも熱帯魚の入った水槽や多くの本棚がある。
この人が支部長か。紳士的な顔をしていて長めの黒髪をしている。身長も高い。失礼な事だろうが老けて見える。
いや大人っぽいというべきか?何故なら実に堂々として落ち着いた雰囲気をしているからだ。
「私はRED HOPE第三日本支部の支部長をやらさてもらっている神田 蓮だ。わざわざ呼び出してすまないな」
突然支部長が立ち上がりそう言った。どうでもいいが話し方まで大人っぽい。
「いえ大丈夫です」
そう相づちをした。
「加藤から聞いたぞ…。武器の使い方や軍事関係に詳しいらしいな。早速だかどうだRED HOPE戦闘部隊へ入ってみては?」
突然支部長がそう言った。俺の答えはもちろん
「断ります」
「軍事関係に興味はないのかね?」
支部長は不思議そうに言った。
「もちろん銃や戦闘機は大好きです…。でも争いは嫌いです…。人が死ぬから」
これは俺の本心だった。
「そうか分かった。ならこの後は地下2階にある受付に行けばいいそこでゆっくりしといてくれ。あっ、だが中ではいろいろ仕事あるからしっかり働いてつもらうぞ」
支部長は微笑みながらそう言った。
「失礼します」
そう言って俺は支部長室を後にした。
◆◆◆◆◆◆◆
―地下2階206号室―
「疲れた…」
ため息混じりに俺はそう呟いた。
地下2階の受付は予想以上に混んでいた。受付では住民票のようなものだと黒いカードを貰った。
カードの表面にはRED HOPEと書かれており文字はやはり赤い字だ。裏側にはID番号のような文字が刻まれている。
落ち着いたところで俺は家族の顔を思い出した。俺の家族は4人家族だが親父は単身赴任でアメリカへ行っている。
だから実際は家に居るのはお袋と俺より年が2個上の兄貴だけだった。
思い返せば兄貴と小さい頃からいつもくだらないことで喧嘩していた。
一番激しかった喧嘩が兄貴に勉強を教えて貰っている時だろう。
理由は詳しく覚えてないが派手に殴り合った。
お袋が両方にビンタして止めてくれなかったら恐らくどちらか死んでいたかもしれない…。
そんな事を思い出していると自然と目から涙が出てきた。
寂しさからだろうか?恐さからだろか?それとも懐かしさからだろうか?
おそらく今挙げた全てが原因だろう兄貴は生きているだろか?
トントン
そう誰かがノックする音が聞こえた。すぐに涙を腕で拭いドアを開けた。
ドアの前には加藤が立っていた。加藤は左手に書類やクリアファイルなどを抱えている。
「気分はどうだ?」
「ちょっと疲れたけど大丈夫」
「そうか…。あの女の子…。えーと…。姫戸 美優が目を覚ましたらしくてな無事だったそうだ」
加藤も疲れているのかあくびをしながらそう言った。
「本当に!?良かった…」
「いまから会いに行くか?」
「はい!」
「ならついて来い」
そう言って加藤は部屋を出て行ったので慌て俺は追いかけた。
美優ちゃんは地下4階にある治療室とは別の部屋に寝ていた。
俺が入院していた九州中央海病院よりも部屋は広くべットの数も多く何より天井が高い。
「お兄ちゃん!」
美優ちゃんは俺を見つけると手を振ったので、こちらも軽く手を振り返した。
もしも知らない人がこの光景を見たら本当の兄弟に見えるかもしれない。
「お兄ちゃん!私を助けてくれてありがとう!これからもみんなを守ってね!」
どうやら美優ちゃんは俺が戦闘部隊の人だと勘違いしたようだ。
「いや…。俺は…」
小声でそう言ったが聞こえてないらしく。
「美優はね大きくなったらお兄ちゃんみたいになるの。どんなに辛くても逃げないで強くてみんなを守れる人に」
正直意表をつかれた。
俺は争いごとが嫌いと言った…。でもそれは自分から安全な方へ逃げているだけじゃないのか?
今も昔も同じように。
「いや美優ちゃんは俺よりか立派だよ…。でも…。ありがとう。おかげで俺もこれから何をすべきか分かった気がする」
「うん一緒に頑張ろう!!」
美優ちゃんはそう言った。
部屋を出てから俺はこう加藤に話を切り出した。
「やっぱり、俺…。戦闘部隊へ志願してもいいかな?」
加藤の目を見ながらそう言った。
「ヤケになったのか?」
「違います」
「そもそも支部長から聞く限りお前は争いごとは嫌いじゃなかったのか?」
加藤が意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「確かに争いごとは嫌いです…。でもあの子が危ない目に会った時、俺は何も出来なかった!!それなのに今の自分は安全な方へ逃げようと考えている…。俺は自分のこういう弱さが嫌いだ!!…。だから自分で他の人も守れるようになりたいから…。誰かを守れるくらいに強くなりたいから…。戦闘部隊へ志願させて下さい!!」
加藤はしばらく黙り込んでいた。が不敵な笑みを浮かべこう言った。
「いいだろう…。条件を読んでいいならサインしろ」
加藤のクリアファイルから契約書と書かれた紙を渡された。
内容は死亡した場合でも責任は一切負わないなど注意すべき内容が様々書かれていた…。だが俺はすぐにサインした。
「おめでとう君は晴れてRED HOPE戦闘部隊訓練生だ。精進したまえ」
加藤がそう言った。
―ここから俺の壮絶な日々始まるのであった―