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テスト

あの日から佐々木君は心配だからといって家まで送ってくれるようになった。

先生達が何か言ったのか、あまり女子達は絡んでこなくなった。


無駄に長い外階段。

帰りは楽だが、朝登る時は足にかなりくる。

しかし、白く長い外観が結構人気で、学校のシンボル的存在になっていたりする。

「もうすぐテスト期間だな。」

「うん~」

長い段を二人で降りていく。


「佐々木~!ちょっと頼まれてくれないか」

「おわ、田端先生!」

ひょこっと後ろから顔を出してきた田端先生。

隣の私と目が合って、佐々木君と帰っていることを悟ったようだ。

「……あ、やっぱいいわ。自分でやる。」

そう言った先生は、頭を掻きながら背中を向けて戻っていく。

頑張れよ~、佐々木!

そう耳打ちしていたのが聞こえた。

軽くショックなのである。


「勘違いされてるんだ…。」

思わず口に出てしまった。

「え?なに?」

佐々木君が顔を近づけてくる。

……佐々木君には悪いけど、どうにかして誤解を解きたい。

もし本当に、先生が、私と佐々木君の仲を勘違いしてるのなら。


何か口実を探す。

「えっと、う~んと…」

「??…宮城さん?」

階段の途中で止まっていて目立っているのか、ちらちらと視線が…。

佐々木君は私が何か言うのを待ってる、多分。


「あ」

そだ、もうすぐテスト期間だ

質問しにいくことにしちゃおう。

「ごめ、田端先生に質問したいことあったんだった。」

「じゃあ、俺もいっしょに…」

「ってことで、先帰ってて!たくさんあるから!」

ごめんね、佐々木君!

内心そう思いながら、階段を駆け上がり、職員室へ向かった。


職員室前。

中を見渡す限り、田端先生の姿はない。

たまたま通りかかった、他学年の先生(多分)に聞いてみる。

「田端先生いらっしゃいますか?」

その先生は、髭の生えた顎に手を当てた。

「…生物室、でしょうかね…?さっき雑巾持っていましたけど。」

「あ、ありがとうございます!」


早足で隣の校舎の一階、生物室へ向かった。

明かりがついてる。


「失礼しま~す…、田端先生いますか?」

引き戸を引いて、中に入ると、しゃがんだ田端先生がいた。

こっちを向いて、首を傾けた。

「あれ、どした、佐々木は?」

「あ…、先に帰ってもらいました。」

来たはいいけど、どうしよう。

佐々木君は友達です、なんて突然言うのも駄目だしな。

脈絡がなさすぎる。

質問も実は無いし。困ったな


「……、俺に用か?」

作業に戻った先生は、床を拭いているようだった。

何をしているのか気になって、近づいてみる。

「…薬品?こぼしたんですか?」

「……、……秘密だぞ」

別に危険なものではないようだから、手伝うことにした。


「ありがとな、宮城」

二人分の雑巾を絞りながら、礼を言われた。

でも、なんか、元気が無いような。気のせい?

「…で、俺に用あった?」

「あ~、えっと…」

先生を訪ねてきたことを、すっかり忘れていた。

どうやって切り出せばいいのだろうか、もしかしたら勘違いかもだし。

そうだったら、恥ずかしいし……。

そうこう考えていて、沈黙が続く。


「何も無いなら、佐々木のとこ行ってやったら?まだ間に合うかもよ」

勘違い、してるってことで……いいよね?

「私…、佐々木君、好きじゃないですよ?」

ちょっと変だったかもと後悔する。

間に合うかも、から、好きじゃない、って返事はおかしかった!?

先生はなんて言うのか待ってみる。

「……」

「……」

「…佐々木かわいそ」

なぜか、ぷっと吹き出す先生。

「いや、あの、恋愛感情の好きじゃないってことですよ!」

かわいそ、と言われて、一応、言葉を付け足しておく。


「それに、私が好きなのは、田端先生ですから」

笑っている先生を見ていると、ついつい、ぽろっと出てしまった。

だから一瞬、自分でも何を言ったか分からなかった。

先生も固まっている。


……しばらくして、沈黙を破ったのは先生だった。

「はは、よく言われる。憧れのとか、好きな先生だってな。」

「へ?」

「さぁ、もう子供は帰りなさい、ほらほら」

そう言った先生は、準備室へ入っていった。

違う好きと解釈されたようだ。

よかったのかよくなかったのか、複雑な気持ちで生物室を出たのだった。


微妙とはいえ、先生と話せた今日は幸せな日だ。

家へ帰って、居間にいるときも、にやけていたらしい。

「良いことでもあったのか~?」

そう兄が聞いてきた。

なんとなく恥ずかしくて、かぁっと顔が熱くなった。

「……、まさか、恋愛絡みなのか…?」

兄の表情が暗くなる。

こういうことに関しての彼の質問は、いつも控えめだ。

「に、兄ちゃんには関係ないもん!」

小さい頃から近くにいる兄に、恋愛のことを言うのは恥ずかしい。

こうやっていつも、答えてあげない。

「そっか…、兄ちゃん寂しいな」


立ち上がり、居間から出て行こうとした兄が小さく言った。

「遥が選んだ奴なら…、歓迎してやるからな?」

その声は小さくて分かりづらかったが、どこか湿っぽかったような。


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