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嫉妬Ⅱ

「別に、佐々木に気があるとかじゃなく…て…」

「あるじゃん、話しかけられて喜んでんじゃん!」

「別に普通だよ…」

じりじりせめられ、壁に頭がくっついて冷たい。

私は女の子達で囲まれてしまった。

どうしても嫌なのだろう、次々と質問が飛んでくる。

「じゃあ話しかけられても無視してよ。」

「それは、佐々木君に悪いっていうか…。」

「…佐々木君に悪い?」


綾瀬さんが皺をよせる。

「自惚れんなよ、地味子のくせに!」突然に頭をつかまれて、校舎の壁に叩きつけられた。

鈍い音と共に、痛みが伝わってきた。

「……〜っ!」

「あはははは!ごめん、痛かったかなー?」

「友ちゃんやりすぎぃ、…っぷ」掴まれた髪はくしゃくしゃになっていた。

雲が忍び寄ってきて、空が黒に覆われる。


「調子に乗ったこと、後悔させてあげる。」

私に鋭い視線を向ける女の子達。

何度も何度も、頭を叩きつけられる。

必死に抵抗しようとするが、手足は周りにおさえられていた。

「…っや、やめ…て!」

振り回されて、頭がぐらぐらしてきた。

「…っや、やめて!だってさ!きゃはは!」

「自業自得だろ、気持ち悪ーい!」

抵抗は彼女達に快感を与えるだけだった。


「お前ら!!」

「…きゃあっ!?」


誰かが彼女達を引き離したらしい。

頭が自由になって、私は崩れ落ちた、ような気がする。


意識が遠退いていく…、名前を呼ばれているんだけど……



――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――

―――――――― ――――――



「…ぎ!、み…ぎ!」「……ん…」

「宮城!」

「せ…んせ?」


目を開けると、眼前に田端先生の顔があった。

「大丈夫か!」

「……大丈夫です、けど」

見慣れた所だと思ったら、自分の部屋。

私はベッドに横たわっていた。

「…先生が運んできてくれたんですか」

「ああ、あと佐々木も。保護者に電話してくれてるぞ。」

私の親たちは共働きで、土日以外は、夕方まで帰ってこないのだった。

「ありがとうございました、先生。」

「いいって、先生の役目だろ。佐々木にも礼言えよ。」

「……はい。」


「宮城さん!」

わたわた佐々木君が入り込んできた。

「よかった、もう起きないかと思った!」

「か…勝手に殺さないで」

「ご、ごめん!」

相当心配してくれたのだろう、少し涙目だった。

「……。良かったな宮城」

「え?」

……なにが?


ドンドンドンドン!

突然、猛スピードで階段を駆けあがる音がした。


「な…なんだ…?」

私を含め三人は部屋にいるのに…だ…誰!?

ドアの前で止まった足音に緊張が高まる。


ガチャガチャガチャ!

バタン!


「はるかーー!!」

「わ、わああぁー!?」

背の高い、誰かが、ベッド上の私に飛び付いてきた。

速すぎて顔を確認しそこなった。

「だだだだ誰ですか!?」

「兄の顔も忘れてしまったのか!そんなに重傷だったのか!」

「え、お兄ちゃん?」

「病院でも兄ちゃんが看てやるから安心しなさい」

そう言って、抱きつきつつも撫でる。

これは確実にお兄ちゃんだ。

「もう、大丈夫だから」

「遥!…よかった」

無理やり引き剥がすと少し寂しそうな顔をした。


文系の大学三年生。

昔からこの人は、いわゆるシスコンなのだ。

よく言えば妹思いというか……。

小さい頃からよく遊んでくれた。


「ぬお!…どちら様ですか?」

先生と佐々木君に気づいて、顔を赤くしている。

「田端先生と、佐々木君だよ。」

二人は苦笑いしていた。

まぁ、いきなり飛び込んできたんだから無理ないか…。

「…初めまして、兄弟仲いいんですね。」

「ああ、一方的ですけどね」


お粥作ってきてやるよ、と兄は降りていった。

風邪ではないのだけれど……。


窓から見ると日はもう沈んでいた。

「じゃ、俺そろそろ帰ります。宮城さんお大事に」

時計を見て、佐々木君は立ち上がった。

「あ、ばいばい。」

「また明日な。」


部屋には先生と私しかいなくなってしまった。

「……。」

なんだか先生はさっきから静かだし、何も言わず時間が過ぎていく。

と、先生が口を開いた。

「俺を一番に頼れとか言ったけど…」

「……?、はい」

「最初にお前を助けたのは、佐々木、だった。」

別に気にしないけど、先生には重要みたいだった。

「……ごめん。一番に助けたかったのに」

「そんな、良いですよ。こうしていてくれるだけで嬉しいですし…。」

俯いていた先生が、顔をあげた。

「……」

頭のズキズキと、胸のドキドキが混じって、何がなんだか分からなくなる。

「あ…の?」

見つめられる恥ずかしさに耐えられなくなったため、目を反らした。

その時、先生の腕が私を包み込んだ。


「……えっ!?」

数秒なにが起こったのか理解ができない。

これは、恥ずかしいどころじゃ、ない!


「田端…先生…っ!?」

「ごめん、今だけ」

背中にある先生の手に、力がこめられる。

「……っわ」

「あと少し、こうさせて、ほしい。」

声がいつもより大人な感じで、緊張する。まぁ大人だけど。

「……はい…」

もう大人しくするしかなかった。

シャツから先生の匂いがした。柔軟剤みたいな、石鹸みたいな香りだ。

「心配したんだから、な」

「…はい…」


「……」

とき卵とネギ入りのお粥を手にしたまま、兄はドアの前に立っていた。

(どうして、遥と教師が…)

「………」


少しして、先生は私から体を離す。

「生徒に何やってんだか。駄目だな、俺」

視線を落として言われた。

否定しようとしたけど、先生はすっと帰ってしまった。

「あーあ…」

まだ、手に大きい背中の感覚が残っている。

もうちょっと先生の体温を感じていたかった…かも


ドアにもたれ掛かる。

少し開いた隙間に、お椀のようなものが見えた。

「あ、お粥…」

扉のそばの床に置いてあった。

少し湯気が出ている、まだ温かいらしいぞ。

冷めないようにとかいう配慮がないなんて、兄らしくないと思いつつ

冷めかけのそれを口に運ぶのだった。


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