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嫉妬

体育祭からもう一週間が経った。

あれだけ話せた田端先生とも、授業以外では会えず、話せていない状態だ。


「次のページ開いて図1を見てください。」

只今、生物の授業中。

いつもの癖で、告白を書いていた私は、急いで教科書をめくる。

手が動いていても、耳は自然と先生の声を受け入れていて、生物では聞き逃しをしたことがない。

蛇足を話しながら、板書する先生。

窓から優しい光があたって、髪の毛の先が茶色っぽく見える。


「皆さんは、ゲテモノ料理って食べたことありますかね?」

また脱線し始める先生。

自分の体験談を楽しそうに話す彼が可愛くて、つい、じっと見つめてしまう。

「…!」

目が合った…?

すぐに反らされたため、それは勘違いなのか、そうでないのか分からない。

あれだけ話した時があったとしても、“先生”は目が合っても反らすのだろうか。

なんとなく寂しいなぁ。


質問でもしに行って話そうか、と考えたこともある。

というか授業後はいつも考えるかもしれない。

しかし私は、生物がものすごく得意なのだ。

もちろん、田端先生の教科だからだが。

つまりは、質問するところがないのです。

あっても、自分で解決してしまうことがほとんど。


でも、これではまた距離が遠くなることは確かだ。

これじゃいけない。

せめて仲がいいのは保ちたいから、恥ずかしくても、無理矢理に質問をしよう、かな。


そう考えていると、斜め後ろくらいから、肩をつつかれた。

「…?、あぁ佐々木君、どうしたの?」

それは心配そうな顔をした佐々木君だった。

「なんか、ボーッとしてるけど…、大丈夫か?」

私はずいぶん考え込んでいたようだ。

そんなことで心配されるなんて。

自称生物優等生の名に傷がついたな。

「大丈夫、ちゃんと聞いてるよ。」

そう答え、話し続ける先生に顔を向ける。

話がいまだに脱線している。

それなのに、授業進度は早いから驚く。


「あ、もうこんな時間かー。」

腕時計を見て話を止めた先生に、続きを話せと促す生徒。

でも、すぐにチャイムが鳴ってしまった。

「あー…」

「起立!、礼!」

級長の言葉で、授業は終了してしまった。


教室がガヤガヤし始め、教壇で教科書などをまとめる先生に質問しに行こうと席をたつ。

「せんせ…」

「宮城さ〜ん!」

突然腕を掴まれて、それは中断された。

掴んだのは女子生徒、体育祭の昼間の、あのグループだった。

もちろん綾瀬さんも。

変な汗が額に垂れる。

「あ、なにかな…。」

「ちょっと話したいことがあってぇー。こっち来てくれない?」

何人かの女子達が廊下の方から手招きをしている。

「えっ…と…」

拒否権はないのだろう。

でも、行きたくないと脳がいっている。

なんとか時間を稼げるようにか、返事がなかなか出来ない。

「ねぇ、早く!」

乱暴に引っ張られる。

心臓が、どくどくどく、と勢いを増して動き出す。

「ちょ、やめ…っ!」


「おーい、宮城さん!」

「えっ…」

前から田端先生が呼んでいた。

「あ、ごめん。呼ばれたから行けないや…。」

腕を引っ張った子は、面白くなさそうに、手を離す。

人の目も気にしたのだろう。

「……っ、じゃあまた」


救われた気持ちで、田端先生のもとへ行く。

「何ですか?」

「ちょっと、次のクラスで使う道具を運ぶの手伝って欲しい。」

どうやら実験でもするようだ。

先生に授業の準備で頼まれたのは初めてで、素直に嬉しい。

それに、今は席に戻りたくないので、むしろやらせてください、と言ってもいい。

「はい!」



先生の後について、準備室まで来た。

普段教師しか立ち入れないここに入るのは初めてだ。

「じゃあこれとこれ、よろしく。」

「は…はいっ。」

棚の奥にあった段ボール箱を引っ張り出す。

「よ、いしょっと」

「お、大丈夫か?」

「はい、おっけーです。」

ドアを開けて待っている先生のところまで進む。

「じゃあこっち置いといて。」

そう言われ、段ボール箱を生物室の台の上へ移動させた。

どうやら、これで終わりのようだ。

「まだ時間あるな。」

「あ…、そうですね」

これから教室に戻ったら、また綾瀬さん達が来るかもしれない。

でも用もなく生物室にいるのもなんとなく気がひける。

「ギリギリまで俺が相手してやろうか?」

「えっ!」

「今戻ったら困るんじゃないかと思うんだけど。」

そう言って先生は、椅子に座り、私も座らせる。

何か困るのは、気づいてくれていたようだ。

「…じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。」

「うん。」

何か話すことはないかと考えてみる。

「あ、そういえば久しぶりですね、話すの。」

「そうだな、なかなかタイミング無かったし。」

先生は頷く。

「あれっきりなのかと思って悲しかったんですよ」

ぽろっと出てしまった言葉にはっとするが、先生の反応は普通だった。

「…そんな心配してたのかよ。お前は生徒、いつかは絶対話すだろ。」

「…あ、ですよね。」

別に照れるだろうなんて思っていなかった、いや、少し思っていた。

だから、その反応には軽く傷ついた。

お前は生徒、その言葉がぐるぐる回って、心をずきずきさせた。

「生徒、か……」

「ん?」

「あ、いえ。…じゃあそろそろ時間だし、戻ります。」

生物室から出ようとして、立ち上がった。

そして、ドアを開けて廊下に出た時。

「何かあったら、先生を頼るんだぞ!」

田端先生がそう声をかけてくれた。

頭から、ぱぁっとなるのが、面白いほど分かった。

前にも頼れって言われたっけ…。

ともかく、今日の収穫、先生と話した。


放課後。

特に用事がないので、帰る準備をする。

と、誰か近づいてきた。

「宮城さん宮城さん」

佐々木君だ。

「この後、暇か?」

「んー、なんで?」

掃除代わって!とかだったら、用事があると言って断ってやろう。

「えーと…、あっ。」

「?」

「生物の問題で分からないとこあってさ…。」

なるほど、教えてくれということか。

それくらいなら、そう返事をしようとした時。

「あー、ごめん佐々木。宮城さん借りるよ?」

「……!」

綾瀬さんたち、だ。

放課後なら逃げられないだろうと狙われたのかも。

「えっ…、じゃあ俺も行っていい?」

「だーめ、佐々木はここで待ってて。」

顔をのぞきこむように、上目遣いで綾瀬さんはそう言う。

「なんで綾瀬が言うんだよ、俺は宮城さんと」

「……、宮城さんって性格悪いんだよ。」

「はぁ…?」

悪びれる様子もなく、彼女はデタラメを述べる。

まるで本当のことみたいに。

佐々木君は、ただしかめっ面をしている。


「佐々木には宮城さんより、私達みたいな優しい性格の子が似合うと思う!」

さりげなく佐々木君の袖をつまむ。

あ、これモテテクとかいうやつじゃない!?、テレビでみた!

そんな状況じゃないけど、感心してしまうよ。

「じゃ佐々木、待っててね。一緒に帰りたいなぁ…、ね?」

にこりと微笑んだ彼女たちに、私は連行?された。


連れてこられたのは校舎裏。

そういえば体育祭の日に田端先生に見つかった時もここだったなぁ。


「…わかってるよね、なに話すか。」

あの日とは違い、前に立っていたのは冷めた目で見つめる彼女たちだった。


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