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体育祭

 「只今から、空見高校体育祭を開催します!」


開会式、私は急遽放送係になったため前にいた。

全校生徒が集まったグラウンド、それを前から見るなんて初めてだ。

田端先生の隣で、放送係の一人の言葉により、高校で第三回目の体育祭は始まった。


屋根の布を通り抜けた光が、先生の顔に当たっている。

「高校の体育祭も、中学校と変わらないな。」

先生はそう言って、私の隣に座った。

「ですね、まぁ同じ学校ですし。」

「宮城は競技、何出るんだ?」

頬杖をついて聞いてくる。開会式の最中、私語は慎まなくていいのか。

本当に先生なのか、なんて他の先生なら呆れてしまうかもしれない。

しかし、仕事とか勉強以外で話しかけられるなんて。猛スピードで天に飛んでいってしまいそうだ。

「えと、借り物競走、リレーで、後は全員参加のやつです。」

「へぇ、いいなぁ。」

体育祭のプログラムを見る先生。

借り物競走の順番を確かめているようだった。

「?……そうですかね」

「うん、俺はそんなに参加できないからさ。何気に体育祭、楽しみにしてたんだけどな。」

先生は、頬を膨らませてそう言う。

「俺も生徒だったら良かったのに!」


「……。」

先程から、先生の言葉にいつもとは違うものを感じていた。

とはいえ、この違いは初めてではないものだ。

「……てか、“僕”はもういいんですか?」

「え、ああ。もうバレてるし、お前だったらいいかなと、思いまして。」

「そ、そうでありますか・・・。」

いきなりそんなこと言われるなんてなぁ・・・・・・。

恥ずかしくなって、プログラムをのぞき込み、気にしていないふりをした。

それを背後に隠し、いたずらっぽく笑う先生。

「まぁ先生の僕がいいなら、僕になってあげてもいいですが?」

近づけられた先生の顔のせいで、急に熱くなる。

「なっ、これでいいですっ!」

「よしよし、照れるな照れるな。」

満足そうな顔をすると、先生は放送係に仕事の指示をした。

その時には、すっかり教師モードになっていた。


借り物競走の順がくるまで、パイプ椅子に腰掛ける。

時々、音楽を流してくれなど頼まれ、そこそこ忙しかった。


そして、やっと落ち着いてきた頃。

「み、や、ぎ、さんっ」

そんな声と共に、後ろから誰かの手が肩にのびてきた。

「わっ!?」

また先生!?

そう思った私は、わざと怒ったふりをして振り向いてみせた。

「もう!せんせ・・・・・・」

しかし、後ろにいたのは先生ではなく、おろおろした佐々木君だったのだ。

「え、なに!?悪かった、そんな嫌だったか…?」

怒ったと誤解されたらしい。

「…あ、ううん。そんなことないよ。」

「ほ、本当?」

「うん」

それを聞いた彼は、安堵のため息をついた。

「はぁー、よかった。宮城さんに嫌われたら生きていけなくなるとこだったよ。」

「ぷっ、大袈裟。」

どうやら佐々木君は、私と話しにここまで来たらしい。競技が終わり、やっと休憩できるのだとか。

「宮城さんは、何にでる予定?」

「もうすぐ借り物競争にでるかな。」

「あ、今年の借り物は今までと違うから楽しみだな。」

「え、どう違うの?」

今までと違う借り物とか初耳なのですが。

きょとんとしている私に、彼が何か言おうとした時

「只今から、借り物競争です。出場者は出てきてください。」

という放送が流れた。

「あ、私行かないと!」

バイバイ、そう手を振って私は出場門へ向かった。


私の順番は3番目、回ってくるまで並んで待っていた。

ちらっと田端先生のいる場所を見ると、先生と目が合った、気がした。


そして、いよいよスタートラインに立つときがきた。


「宮城さん!頑張れ!」

そんな声が聞こえてきて、辺りを見回すと、佐々木君が観覧席からこちらを見ていた。

彼に手を振って、気合いをいれる。


パン!

軽快な音とともに、私は走りだした。

箱に手を突っ込み、借り物カードを引き抜く。

「えっ!」

そこに書いてあったのは

『好きな先生にお姫様だっこ』

理解するのに数秒かかった。好きな先生…というと私には一人しかいない。前年までは、『三つ編みの人』とか『友達』とかだったのに!

丁寧に行動まで指示されている。

運がいいのか、悪いのか。

他の人を見ても皆、嬉し恥ずかしな顔をしていた。

そのカードは『好きな人』、『異性』などとみた。

まったく!今年の体育祭実行委員は頭ピンク色なのかよ!


と、こんなことをしている時にも時間は進んでいる。覚悟を決めて田端先生の所へ行くことにした。

先生も、自分が借り物だと気付いたようだ。

「お、俺か!?」

「先生、お姫様だっこしてください!」

ほぼ叫ぶような感じでそう言うと、先生の顔がぽかんとした。

「は……?」

「おっ、お姫様だっこしろって書いてあるんですっ!」

ほら!とカードを前に突き出す。

そこで、自分の失態に気づく。

「…好きな先生に…」

先生がカードを見つめている。

「あああ!」

顔が赤くなってしまう。

手を引っ込めようにも、体が固まって動かない。

「こ、これは、その!」


すると、ひょいと体が浮いた。

腰と足が、大きな手で支えられ、顔が先生の首筋に触れそうになった。

「わわわわわ!」

「こら、落ち着け!早くしないとビリだぞ!」

そう言って、先生はゴールに向かって走り出した。

時々、息がかかり、心臓が異常な程の音を出していた。動きすぎて軽く痛いくらいだ。

「はぁっ、ゴール!」

そう言って、ゴールに着いた先生は、私を降ろしてくれた。

そして、テントに戻ろうと背中を向ける。

「ああの、先生、ありがとうございました。」

「……おう。」

顔を見せずに、行ってしまう先生。

私も同じところに戻るのですが。

先生を追いかけて、隣を歩く。

「うわっ!」

「な、うわって何ですか!失礼です!」

そう言って先生を見る。

「あっ…!」

先生は耳まで顔を赤くしていた。

「み、見るな見るな!」

それを手で隠そうとする。

「……、“好きな先生”ですか?」

「仕方ないだろ!そんなのあまり言われないんだからな!」

必死に顔を隠す先生を見ていると、笑いが込み上げてきた。

しばらく、そうして私たちは歩いていた。


正直、避けられたらどうしようて心配だったところもあったから、安心した。

しかしきっと彼は、“好きな先生”という意味でとらえているだろう。

ちょっとだけ残念に思った私なのであった。


そして、体育祭もあと半分となった。

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