準備係
帰りのSHRで、担任から、二日後行われる体育祭についての知らせがあった。
なんでも、準備係を各クラスから二人ずつ出すのだとか。
「誰かやりたい人いませんか?」
立候補者がいるかなんて、周りを伺わなくても、沈黙で分かる。
皆、そのうち誰かが挙手する、と人任せなのだ。
「・・・誰もいないのですか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
教室は静まりかえっている。
ああもう!仕方ないなぁ!
「私、やります。」
あまり発言しないくせに、沈黙に耐えられなくなり立候補した私は、これから忙しなく動くことになるのだろうな。
若干俯いて次の立候補を待つ。
「じゃあ、俺やりますよ。」
次の沈黙を打破したのは、佐々木一也。
クラスでは、そこそこ目立っているタイプといえる。
「佐々木君優しい~!」
「あ~、立候補すればよかったかも。」
「かっこいいよ~!佐々木くんっ!」
一部の女子の黄色い声。
それを聞き流しながら、横目で佐々木君を見る。
ばちっ
「・・・っ!」
「あ」
視線が重なった。
「よろしくな。」
そう言い、彼はにっと微笑んだ。
「え、あ、よろしくね。」
予想外の行動に多少驚いたが、軽くかえして視線を戻す。
「じゃあ、その二人は放課後さっそく仕事があるので、体操服を着てグラウンドへ行くように。」
担任がそう締めくくると、チャイムがなった。
紺色の体操服を着て、重い足取りでグラウンドへ向かう。
もうほとんどの生徒が集合しているのだろう、近づくにつれ、ざわざわとした声が耳に障る。
話に花を咲かしている生徒達のなか、私はぽつんとたたずんでいた。
友達がいないわけではないけど、ずっと群れているのが好きではない私は、委員会等の時はほぼこの状態だ。
寂しくはないが、同情されると恥ずかしくなる。
「はーい、皆こっち向いてください」
その声に、私の胸が跳ね上がるのが分かった。
振り返ると、案の定、田端先生だった。
「わ・・・体操服・・・」
つい口に出してしまうほど、先生の体操服姿は、・・・・・・格好いい。
というか、田端先生が担当なんだ。
立候補した自分を褒めてやりたい。勇気出してよかった!
「お、嬉しそうですね。宮城さん」
「!」
そんなに表情に出ていただろうか。かぁっと熱くなる。
先生に呼ばれたのは、久しぶりだった。
「そんな宮城さんには、これを運んでもらおうかな。」
先生が指さしたのは、CDプレイヤー等、体育祭中の放送に使用するものだ。
しかし、見るからに重そうなものもいくつかある。
「げ・・・・・・」
「僕も手伝うから。大丈夫ですよ」
そう言い先生は、くしゃくしゃと私の頭を撫でる。
初めてのことに、私の思考回路はしばし停止。
「・・・・・・、宮城さん?」
ああ、先生の頭にハテナマークが見える。
心配そうに見つめられて、照れてしまう。
「あの、俺も手伝います!」
突然、佐々木君が入ってくる。
はっとして、やっと私は元に戻ることができた。
「重そうだし、重いから人数は多い方がいいですよね。」
本当にいい奴だな、佐々木君にはいつも感心させられてしまう。
田端先生も感心したのだろう、うんうんと頷いている。
「じゃあ三人でさっさと運んでしまおう。」
もう大丈夫かと、先生はさりげなく私を見る。
「はいっ」
大変だ、幸せすぎてにやけそう。
「よ、いしょっと」
抱えた機械が思ったより重かったため、よろよろとした足取りになる。
こんなに重いとは・・・・・・。これは結構重労働だなぁ。
なんてことを考えていたら、
「ほら、宮城はこれ持てって。それは俺が目をつけたの」
と、佐々木君がぱっと交換し、持って行ってしまった。
「無理しないで、持てるやつ持てばいいからな。」
横から田端先生が顔をだす。
「重かったら先生に任せなさいっ」
そう言いながら、一番大きい機械を運ぶ先生に惚れ直してしまう。
「あっ、コード忘れた!」
「せ・・・先生、それさっきも・・・。」
走って戻っていく姿に、きゅうんと胸が苦しくなった。
このあと、重い物は僕と佐々木が運ぶ、という先生の提案のおかげで、私は楽に作業を進められた。
今までより親しくなれた気がして、帰り道、私は自然とスキップをしていた。
そして、オレンジに染まる空を、うっとりしながら仰ぐのだった。