かまいたち
「大気摩擦過熱式生体切削サービス」へようこそ! 現代社会を裏で支える「かまいたち三兄弟」の、過酷でちょっとバカバカしいお仕事コメディをお楽しみください。
気象庁の過密ダイヤを嘲笑うかのように、時速八百キロの風の刃が男の襟元をかすめた。
「はい切れたー! 浅い、浅いよお兄さん! 皮膚一枚残ってるからね!」
ビル風が吹き荒れる都市の屋上で、かまいたち三兄弟の次男・カマイタチ・B(仮名)が、最新式のレーザー風切り刃を研ぎ直しながら毒づいた。
かつて妖怪と呼ばれた彼らは、現在「大気摩擦過熱式生体切削サービス」の契約社員として公務をこなしている。仕事内容は至ってシンプル。
一番男が突風で人間を転倒させる。
二番男が目にも留まらぬ刃で皮膚を切り裂く。
三番男が即座に万能軟膏を塗り、出血と痛みをゼロにする。
「兄貴、最近の人間さあ、ダウンジャケット分厚すぎない? 風圧計算が追いつかないんだけど」
長男がため息をつきながら、背中のジェット噴射口を調整する。「文句を言うな。先月はナノスーツ着たサラリーマンに刃が刺さらなくて、本社から給与カットを言い渡されたんだぞ」
そこへ、末っ子の三男が息を切らしてフライングボードで滑り込んできた。「兄貴たち、大変だ! 次のターゲット、全身をナノ粒子バリアで固めたサイボーグ政治家だって! 硬度ダイヤモンド級!」
「なにっ!?」
「しかも、厚生労働省からの指定で『擦り傷一つ作らず、かつ切られたと誤認させて恐怖心だけを与えろ』っていう無茶振りミッションだ!」
三兄弟は顔を見合わせた。物理的な切断が不可能な相手を、どうやって「切られた気分」にさせるのか。
「……やるしかないな」長男が腹をくくった。「伝統のフォーメーション・Zだ」
五分後。交差点を歩く厳密なサイボーグ政治家の元に、超音速の風が襲いかかった。
まず長男が極大の旋風を巻き起こし、政治家の体勢を崩す。
次に二番男が、超高振動の音波ナイフで政治家の「着ているスーツの繊維だけ」を分子レベルでカット。
そして三番男が、即座に「超強力冷却スプレー」を肌に吹き付けた。
政治家は足をとられ、胸元がパカッと割れ、激痛に似た冷気が走った瞬間、その場に崩れ落ちた。
「ひぃっ! 切られた! 痛くはないが、間違いなく私のかっこいいスーツが切られたぁぁ!」
屋上からその様子を見下ろし、三兄弟はハイタッチを交わした。
「よし、完璧だ!」
その時、三男の端末がピリリと鳴った。本部からの通知だ。
『緊急連絡。ターゲットのスーツは一着千万円の限定品でした。損害賠償請求が届いております。三名の来月の給与から全額相殺します』
静まり返る屋上。二番男がぽつりと呟いた。
「ねえ兄貴……来月から、かまいたちじゃなくて『ただの冷風機』のアルバイトに転職しない?」
ここまでお読みいただきありがとうございます!
かまいたちの伝説を現代風にアップデートしてみたら、なぜか過酷なブラック労働コメディになってしまいました。1着1000万円のスーツを弁償させられる三兄弟の明日はどっちだ……!
少しでもクスッとしていただけたなら幸いです。




