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【僕の女神は窓の向こうに】ステータス管理のワンオペ社畜女神を娶るため、魔王討伐RTA始めます!

作者: 鈴木井蛙
掲載日:2026/09/17

 王都の大神殿は、少年少女達で溢れかえっていた。騎士の跡取り、貴族の令嬢、野心溢れる魔術師見習いから作業着の平民まで、ありとあらゆる身分の人々が希望の眼差しを祭壇に向けていた。

 「覚醒の儀」の時刻が近づいていたのだ。これは王都で開かれる春の祭典を締めくくる大儀式で、この年に15歳を数えた若者達を神殿に集め、女神からスキルを授かるというものであった。


 神官「……女神様は何と仰ったか?」


 少年「はい……”炎魔法強化"と。」


 神官「うむ、C級スキルじゃな。まあ炎魔法は扱いやすいから、当たりの方じゃないか。次!」


 神殿の祭壇には女神像が置かれていた。ここにスキルを授かりたいものが祈りを捧げると、天から女神様がそのものに相応しいスキルを口伝する。そしてそれを神官が名簿に書き留め、希少なスキルの場合はそのまま王城へ招待するというのがお決まりになっていた。


 神官「……女神様は何と?」


 少女「……”呪い無効"って言ってました。」


 神官「おおっ! 無効スキルはどれもD級じゃが、うまいこと実力をつければ重宝されるぞ! ボス級の魔物は平気で呪ってくるからな! 頑張れよ! はい次!」


 祭壇には長蛇の列ができていた。スキルを受け取ることに身分は関係なかったので、最下層民でも”当たりスキル"を引くことで、人生を一発逆転させるチャンスでもあったのだ。

 そこに村の孤児院出身の4人がいた。


 ワンズ「……おい、とうとう俺らの番だぞ。」


 トゥーラ「緊張するわね。」


 オースリー「……やべぇ……ドキドキしてきた。」


 頬に傷のあるリーダー格のワンズ。負けん気の強い少女、トゥーラ。大柄だが気の優しいオースリーの3人は揃って緊張していた。そして、一歩離れて気の弱そうな少年が立っていた。


 ジゼロ「……そうだね。ははは。」


 ジゼロは、人混みが苦手だったので冷や汗をずっとかいていた。リーダーのワンズは構わず、仲間を励ました。


 ワンズ「俺たち4人でレアスキルを引き当てて、必ず魔王を倒すぞ!!」


 そんな掛け合いをしていると、ついに女神像の前に通される事になった。


 神官「……ふぅ、これで残りは君たちだけか。よし、まずは君から女神像の前で祈りなさい。」


 ワンズ「はい!」


 ワンズは元気よく答え、仲間達の方を振り返りながら親指を立てた。そして女神像の前に立ち、祈りを捧げた。


 ワンズの耳に美しい声が響いた。


 女神『……選ばれし者、ワンズよ。あなたのスキルは”降天の一撃”です。さあ、旅立ちの時はもうまもなくです。今すぐ準備を整えなさい!』


 ワンズは驚いて目を開けた。


 神官「……よーし、では女神様は何て言ってた?」


 ワンズ「”降天の一撃”と言っていました……すごいスキルなんでしょうか。」


 神官「……な! なにぃ!?」


 神殿内が雷鳴のようなざわめきに包まれた。


 中年の男「こ……”降天の一撃”!! かつて龍殺しと呼ばれ、赤毛の獅子と謳われた一人の勇者が携えていたスキル……! 自身の全力と引き換えに必殺の一撃を放つその威力は、剛健な岩山すら真っ二つにしたという……。文句なしのS級スキルだ。」


 神官「……お前、詳しいな。」


 神官は咳払いをし、ワンズを壇上に残した。


 神官「ワンズ殿。そなたには後ほど王国軍より話があるゆえ、ここに残られるが良い。」


 ワンズ「は……はい!」


 ワンズの目は輝いていた。そして仲間の方を振り向き、力強く頷いた。


 トゥーラ「……私だって!」


 トゥーラが女神像の前で祈りを捧げた。多くの聴衆が、いつの間にか無言でそれを見守っていた。

 トゥーラが目を開けると、神官が恐る恐る尋ねた。


 神官「……女神様はなんと?」


 トゥーラ「えっと……なんか難しい言葉で……”創世の聖雫(せいな)”とか言ってました。」


 神官「な……」


 中年の男「なにィィィ!! かっ、かつて! その天啓で大嵐をも鎮め、世界中の人々を癒して回ったという巡礼の聖女!! 彼女はその手で触れるあらゆる生物を癒し、時には破壊された建物すら直したという……!! そのお方と同じS級スキルをこの眼で見れる時が来るとはァッ!」


 神官「……次。」


 オースリーが両手を打ち鳴らし、女神像の前に立った。すでに特別扱いされはじめているワンズとトゥーラに親指を立てながらも、頬には汗が滲んでいる。


 オースリー「……頼むぜ女神様!」


 オースリーが祈りを捧げ、そして目を開いた。


 神官「……何と?」


 オースリー「……”破邪の光幕"と言われました。」


 神官と神殿の聴衆は中年の男を見た。


 中年の男「ッッ! はッ! “破邪の光幕”ゥ!!! 西の聖都を大悪魔達が襲撃した際に、たった一人で町を守った大英雄が持っていたと言われるスキル! 術者はあらゆる異常を受け付けず、また、触れることで呪いすら駆逐してしまう最強のS級防御スキル! まっ……! ゴホゴホッ! こッ、興奮しすぎて……!」


 神官「……とのことらしい! 素晴らしいぞ3人の勇者たちよ! では本年の覚醒の儀は、最後の最後で伝説級のスキルが連発した豊作の年であった! えーと、それでは王国軍の使者を……。」


 ワンズ「あ、神官様……。」


 神官「ん? どうした勇者ワンズ殿。」


 トゥーラ「私たち、4人組で。」


 神官が祭壇に目を戻すと、そこには1人の気弱そうな少年が困惑しながら立っていた。


 神官「……あ、ああ! すまん。えー……では君、祈りを。」


 ジゼロはおずおずと女神像の前に進み出て、ゆっくり祈りを捧げた。


 聴衆「……4人目だ。」「……どんな伝説級スキルが出るんだろうな。」「最後の覚醒者だからな。」


 そしてジゼロが目を開けた。ワンズたち3人も、神官も、聴衆も固唾を飲んでいた。


 神官「……どうじゃ?」


 ジゼロ「……。」


 ジゼロはずっと天を見つめていた。その瞳には女神像だけが映っていた。彼の周りだけ時が止まっていたようだった。


 ワンズ「……ジゼロ?」


 トゥーラ「ジゼロ、何て言われたの?」


 オースリー「大丈夫か、ジゼロ!」


 神官がジゼロの肩に手をかけ、軽く揺する。


 神官「ジゼロとやら。女神様は何とおっしゃったのだ。」


 聴衆も、ジゼロの一挙手一投足に注目していた。


 ジゼロ「…………け。」


 全員「……け?」


 ジゼロ「……”剣撃強化"でした。」


 ◆


 覚醒の儀から1年が経った。

 勇者たちの故郷は農村としては大きめの集落であった。自警団も常駐しており、村としてはかなり賑わっている場所だったので、魔物の襲撃や事故によって家族を失った災害児達を引き取る孤児院が建っていたのだ。

 その裏手には、訓練場が用意されていた。孤児達は身寄りがなく、継ぐべき家も畑もないため、天に祈ってスキルを手に入れて勇者を目指すもの達が多かったのである。


 農民A「……また今日も素振りをしてるぜ、ジゼロは。」


 農民B「まぁそりゃあな。他の3人は王様お墨付きの”勇者"だろ。」


 農民A「こればかりは諦めるしかねぇのによ。一人だけE級スキルをもらっちまったんだから、周りが異常だったと思うのが一番だろうに。」


 農民B「院長の話ではよ、朝起きてから夜寝るまでずっとああして剣を振ってるんだと。しかも木剣じゃねぇ、真剣だ。」


 農民A「怖くて近寄れねぇよ……。」


 ジゼロは訓練場で毎日毎日、延々と素振りをしていた。その表情はまっすぐで、笑顔すら見せていた。夜になるとジゼロは村の教会で数時間を祈りに費やした。なぜだかその表情は、笑顔に満ちていたので農民達はいよいよ彼に触れ難くなった。


 一方、神々の住まう国。天界──。


 白亜の神殿が立ち並び、眼下は雲海が広がっていた。空は常に青く澄み渡り、白い鳩が行き交っていた。

 その穏やかな世界に、一柱の女神の怒号がこだました。


 ベリア「……あああああもおおおおおおお!!!」


 ベリアは美しい金髪に白銀の瞳。シルクのような白い肌に、神々しい白衣と黄金のアクセサリを身に纏った女神だった。

 その彼女の元に伝書鳩が訪れていた。そして彼女は鳩が運んできた手紙を力強く握りしめていたのである。


 ベリア「辞めるなら辞めるってちゃんと1ヶ月前に言えよおおおお!! 契約違反だろこれえええ!!」


 ベリアは、同僚からのいきなりの退職メールに憤慨していた。なぜなら、これでこの持ち場が彼女一人になってしまったからである。


 ベリア「勇者どもが”ステータスオープン”って言うたびに窓を開いてやって、レベルアップしたら小洒落た教訓を添えてお祝いし、ダンジョンに入るたびに豆知識を教えてあげて、覚醒の儀が来るたびにスキルを宣告するとかマジでワンオペの範疇超えてるだろ!!!」


 とそこへ、たくましい髭を蓄えた老人が彼女の神殿を訪ねて来た。神々を束ねる主神、アルフォヌスである。


 アルフォヌス「……どうした、ベリア。荒れておるではないか。」


 ベリア「もう聞いてくださいよ主神! この前入った新人女神が……。」


 ベリアがそこまで言いかけた時、ベルがチリリンと鳴った。ベリアはすぐに振り返り、水晶玉に向かって喋りはじめた。


 ベリア「……勇者ドケススよ。あなたのスキルレベルが53に到達しました。ここまでの道のりを一度振り返ってみるのも良いでしょう。あなたの輝かしい未来は、汗を流した過去の道からまっすぐ伸びた……延長線上にあるのですから。」


 アルフォヌス「……。」


 水晶の光が収まると、ベリアは再びアルフォヌスの方を振り向いた。


 ベリア「この前入ったばかりの新人女神がもう辞めるってメールしてきたんですよ! ありえなくないですか!? せめてメールじゃなくて直接言いに来いって話ですよね!」


 アルフォヌス「おお……それは労しいな……人事神にも言っておこう。」


 ベリア「ほんっとお願いしますからね!? 神だから睡眠なんていらないですけど、欲しくないわけじゃないですからね!? お酒もこの数年飲んでないんですからね!?」


 再びベルが鳴った。


 ベリア「……勇者バリカタよ。あなたのスキルレベルが50に達し、”スライム特攻”は”スライム系特攻”に進化しました。これからはスライム系に属する魔物に有効な攻撃を……。」


 アルフォヌス「……適任じゃのォ。」


 アルフォヌスはベリアの神殿を後にした。ベリアは水晶の光が収まると、マグカップに入った白湯を飲み干しため息をついた。


 ベリア「はぁ……どっかのイケメンマッチョ男神(おがみ)が、私を連れ去ってくれないかな……。」


 そうこうしているうちに、一際甲高いベルが鳴った。


 ベリア「……またアイツか。」


 ベリアはさっきまで使っていた水晶とは別に用意された、もうひとつの水晶を覗きこむ。


 ベリア「……剣士ジゼロよ。あなたのスキルレベルが99に達しました……。レベルを1に戻すことで、限界突破を行うことができます……。限界突破をすることで、スキルレベルは常にボーナスで+1の強化を受けることができますが……どうしますか。」


 ジゼロ「お願いします! あの、僕また1から鍛え直しますね! また声を聞かせてください!」


 ベリアはそこで、疲労感からついに不満をぶちまけてしまった。


 ベリア「……あのね! あんたちょっとおかしいでしょ!! これで限界突破も99回目よ!? そもそもスキルってのは、あげてるものじゃなくてあんた達人間が一生かかってたどり着く技の極地を前貸してあげてるものなの! つまりあんたは99回分、素振りをするだけの人生を繰り返してるのと同じなんだからね!!!」


 ジゼロ「……。」


 ジゼロは黙ってしまった。だが、すぐに宝石を見つけたような声で答えた。


 ジゼロ「……女神様! お話をしていただけるんですね! 僕……僕嬉しいです!!」


 ベリアはしまったと後悔した。つい口が滑ってしまったが、人間との私的な交信は業務上固く禁止されている規定だったからだ。だが、ジゼロに対してはかねてより思うところあり、すでに冷静さをすっかり欠いてしまっていた。


 ベリア「あーもー!! この際だから言うけど、あんた自分の部屋に私の銅像とか肖像画置きすぎだから!! あれ全部私の水晶に繋がってるからね!? 毎日私の銅像と添い寝しやがって! いちいちあんたのかわいい寝顔とか、ちょっと筋肉ついてきた若々しい肉体とか視界にチラつくんだよ!! 集中できなくなるからやめてよあれ!!!」


 ジゼロ「……女神様。そんなに僕のこと……心配してくれてたんですね……感動だ。」


 ジゼロは咽び泣き、喜んでいるようだった。


 ベリア「……もういいや。ごめん、いったん切るね。」


 ◆


 それから数年。ジゼロとベリアは、毎晩寝る前に通話をすることが日課になっていた。人間界の話から天界の話。お互いの好みや、その日に会ったこと、他愛のない会話で1日を二人で終えることを心待ちにするようになっていた。


 ジゼロ「ワンズ達は本当にすごいんです。先月、魔王軍の幹部を1人落としたと聞きました。彼らならいつかきっと……魔王を倒してくれると信じてます。」


 ベリア「……まあ、あの時は私もビビッたけどね〜。S級スキル3連発は……記憶にないかなそんなレアケース。」


 ベリアは梅酒のロックを傾けながら、水晶玉に話しかけていた。


 ベリア「でもさ、ジゼロは羨ましくなかったの?」


 ジゼロは少し沈黙して、水晶玉の向こうから明るい声を返した。


 ジゼロ「……全然羨ましくなかったんです。だって、僕はあの時……ベリア様の声を聞いて、一目惚れしたんです。またこの声を聞ければ、人生に悔いはないって。」


 ベリア「……見てないじゃん。一聞き惚れでしょ、それを言うなら。」


 ベリアは火照った頬を、手で仰いだ。


 ベリア「実際見たら、幻滅するんじゃない? 天界には私よりかわいい子いっぱいいるもん。なんだったら人間界にもさ。」


 ジゼロ「……この女神像って、どれぐらいベリア様に似てますか?」


 ベリアは水晶玉を覗き込んだ、そこには自分の特徴を捉えていながらも、いまいち気に食わない出来の女神像が映っていた。


 ベリア「……少なくともこれよりは美しいと思う。」


 ジゼロ「楽しみにしてます。いつかお会いできる日を。」


 水晶玉の向こうでジゼロは笑っていた。女神からはジゼロが見えるが、逆はできない。いまジゼロは女神像の一つに向かって喋っているのだ。

 なんだか頭がかゆくなってしまったので、ベリアは髪の毛を掻き上げながら熱を逃した。そうして、髪を後ろで一つ結びに束ねた。


 ベリア「ま、話を戻すけどさ。ワンズ君たちには頑張ってもらいたいなー……そうすれば私もステータス管理なんて仕事辞められるんだけど。」


 ジゼロ「……? どういうことですか?」


 ベリア「え? あ、いや……魔王が復活した時にさ、天界では対魔王プロジェクトが持ち上がったのね? で、私はステータスやスキル管理の業務を任されたから……魔王が滅べばこの仕事が辞められるんだよね。仕事がなくなるって言う方が正しいけどさ。」


 ジゼロ「……そうすれば、ベリア様は遊びに行けたりするんですか?」


 ベリア「そりゃあね! でもまあ……まだ数年は無理だよなぁ〜。」


 ジゼロ「……。」


 水晶玉の向こうで、ジゼロは覚悟を決めたようだった。


 ジゼロ「僕が倒します。」


 ベリア「え?」


 ジゼロ「魔王は僕が倒します。そうしたら、僕のものになってください。ベリア様。」


 ベリア「…………え?」


 ジゼロの真剣な眼差しが水晶玉に映っていた。ベリアの手に持ったグラスの氷が、カランと揺れ落ちた。


 ◆


 “素振りの剣聖"ジゼロ発つ。このニュースは瞬く間に農村を駆け巡った。孤児院の院長は酷く心配していたが、村人の中にはとうとう来るとこまで来ただの、どこまで行けるか賭けようなどと言った悪辣な口も叩かれていた。


 ジゼロ「……ベリア様。僕をお守りください。」


 ジゼロは胸にお気に入りの小さな女神像を忍ばせ、村を出発した。


 ベリア「……マジかよ。」


 ベリアは水晶玉の前で頭を抱えていた。


 ジゼロの旅は順調そのものだった。農村から2度目の王都へ。王都からは船を使って別の大陸へ。道中に船員から地図を教わったジゼロは、船の航路が不自然なことに気づいた。


 船員「それはな、魔王軍大幹部の仕業さ。海嶺将ディアドメキル! 奴の勢力圏では、大渦があらゆる船を飲み込んじまうんだ。」


 ジゼロ「……でも、この海を越えれば魔王の城はすぐなんですよね。」


 船員「いやさ、だからよ! 大渦を起こす側近中の側近が奴の根城を固く守ってるってわけさ。」


 ジゼロは目的地に着くまで、延々と海を見て思索に(ふけ)った。


 船のついた先は、城砦の大都市だった。軍船や大型帆船が所狭しと立ち並び、大砲が無数に海を睨んでいた。ジゼロにとっては全てが新鮮な光景だった。

 だが、観光気分は一瞬で挫かれた。


 衛兵「敵襲ゥー! 敵襲ゥーーー!! 一般人は地下壕へ避難せよ! 一般人は避難せよ!」


 ジゼロが空を見上げると、そこには羽の生えたライオンや大きなコウモリなどが飛び交っていた。水平線からは多数の黒い軍船がこちらに向かって来ており、何隻かの船が大きな渦に飲み込まれていく様子が目に映った。


 ジゼロ「大渦……まさか!」


 一際大きな軍船の甲板には、黒い甲冑に身を包んだ大柄な魔族が佇んでいた。


 使い魔A「ディアドメキル様! 計画は順調でございます!」


 使い魔B「空からの攻撃は防がれそうにありません。ここからいかようにも攻められるかと。」


 ディアド「……良きことだ。では軍船はこのまま港へ直行させる。他の船にもそう知らせよ。」


 使い魔達「ハッ!」


 ディアドメキルの側から使い魔が一瞬で消える。


 ディアドメキル「……ワンズは確かに驚異だが、奴がいない場所を攻めれば良いだけの話よ。大局を見てこその戦だぞ、勇者どもよ。」


 ディアドメキルは黒いマントを靡かせた。

 次の瞬間、甲板に真っ二つにされた大きなコウモリ型のモンスターが降って来た。


 ディアドメキル「……?」


 それは不可思議なことだった。港から船までまだ10分はかかろうかという距離だ。そんな距離から上空のモンスターが攻撃されることなどあり得ないからである。


 ディアドメキル「……なんだ?」


 そして、そう何気なく呟いた瞬間、大きな水音が聞こえた。


 ディアドメキル「……どうした! 何があった!」


 ディアドメキルが顔を船団に向けた時、大きな水飛沫をあげて1隻の船が沈没するところだった。沈みゆく軍船は、何者かによって船首から船尾まで一刀両断されていた。


 ディアドメキル「なっ! だ、誰の仕業だ! ワンズか!?」


 ディアドメキルが船から身を乗り出して港を見ると、そこには1人の青年が立っていた。ジゼロである。


 ディアドメキル「……見覚えがない……何者だ?」


 そして、ジゼロが剣を上段に構えたと思うと、彼の剣はいつのまにか振り下ろされていた。

 途端、軍船が一隻また真っ二つになり、轟音と共に沈んでいった。


 ディアドメキル「……新たな勇者か!」


 ディアドメキルは空を飛び、港へ直行した。そうしている間にも、手下や軍船は次々斬られ海の藻屑となっていた。


 ディアドメキル「そこまでだ、勇者よ!」


 ディアドメキルは港に降り立った。そして亜空間から禍々しい大剣を取り出すと、軽々しく片手に持った。


 ディアドメキル「……吾輩は海嶺将、ディアドメキル。我が軍の精鋭をよくぞ退けた。ここからは、吾輩が直々に相手をしてやろう……。」


 ジゼロ「……あなたがディアドメキル。あなたが居なくなれば、魔王城への守りは手薄になる。そういう話でいいですか?」


 ジゼロは全く臆することなく、ディアドメキルを直視していた。正確には、その向こう側を見ていたのだ。


 ディアドメキル「そうだ! だが、それは永遠に叶わぬ。吾輩はまだ使い魔だった頃より魔王様に仕え……。」


 ディアドメキルがそう言い出すや否や、ジゼロは振り返って町へ戻り始めた。


 ディアドメキル「あっおい! まだ話は終わっとらんぞ! どこへ行く!」


 そこまで言って、ディアドメキルはジゼロがいつの間にか納刀していることに気づいた。

 直後、ガラァン! と大きな音が鳴った。


 ディアドメキル「……?」


 ディアドメキルが怪訝な目で音の方向を見ると、そこには綺麗に折られた禍々しい大剣が転がっていた。そして、彼は冷や汗をかきながら海を振り向いた。

 海は大きく横一線に割れており、波がそれを埋めるように大きくうねり始めたところだった。


 ディアドメキル「……ま! まさか! まさかそんなァァァ!!」


 ディアドメキルが気づいた時、彼は大きく袈裟斬りにされていた。体がそこから上下にずれ始め、黒い魔力がとめど無く溢れ始めていた。


 ディアドメキル「ま、魔王様ァァァァァ!!!」


 一部始終を水晶から見ていたベリアは驚愕していた。呼び出しのベルにも気づかず、釘付けになっていたのだ。


 ベリア「や、やば! あいつスキル鍛えすぎだから! ただの剣撃がとんでもない威力になってんじゃん!」


 ベリアはそこで気づいた。


 ベリア「……あいつ、絶対ここまで来る。ちょ、ちょっと待って、準備何もできてないんだけど! 今からエステの予約とか間に合うのかな……!?」


 ◆


 魔王城。不気味な黒霧に覆われた、闇の領域である。その岸には一隻の帆船が停泊していた。船員は身を寄せ合って震え、騎士たちが守りを固めている。

 その岸から魔王城までの道中には、大悪魔や邪竜の亡骸が無数に転がっていた。皆、体は見事に両断され、一瞬のうちに切り捨てられたであろうことが見てとれた。

 魔王の間。


 魔王「……勇者ジゼロよ。お前の活躍は余の耳にも届いておるぞ。」


 ジゼロは魔王の言うことに全く耳を貸さず、剣を構えた。


 魔王「あっ! ちょ、ちょっと待て! お前、礼儀ってモンがあるだろ!」


 ジゼロ「急いでるんです。今度にしてくれますか。」


 魔王は髑髏と荊がついた杖をジゼロに向けながら悲痛に叫んだ。


 魔王「今度とか無いだろ! とにかくちょっと待て! 段取りがあるんだから!」


 ジゼロ「……そうなんですか?」


 ジゼロは渋々剣を下げた。魔王はひとつ、咳払いをした。そして懐から手帳を取り出して、メモを読み直した。


 魔王「えー……。クックック……どうだ勇者よ、その働きに免じて世界の半分を貴様にくれてやろうでは無いか。お前は確かに腕が立つが、こうしている間にも余の軍は各地に侵略を続けておる。だが首を縦に振れば、お前の治める国には進軍をやめると約束しよう。どうだ?」


 ジゼロ「話は終わりですか。」


 ジゼロは剣を構えた。


 魔王「いやーいや、待て! えーっと……あっ、お前、ステータスの女神ベリアに惚れてるらしいな! ど、どうだ! 余が口を聞いてやってもよいぞ!」


 ジゼロはいつの間にか剣を鞘に納めていた。


 ジゼロ「……その通りです。僕は……僕は……。」


 ジゼロは振り返って、魔王に背を向けた。


 ジゼロ「これからベリア様を迎えに参上し、この手で抱きしめるんです。さようなら、魔王。」


 魔王「……え?」


 城の天井から、石が崩れ落ちる。魔王が見上げると、城は大きく一本の剣閃によって二つに分たれていた。


 魔王「……う、うわあああああ!!」


 魔王の体ごと、であった。魔王は自分の体から溢れ出る黒い魔力に飲まれ、そして塵となって消えた。それを覆い隠すかのように、魔王城も落城したのだった。


 かくして、魔王は討たれた。世界に平和が戻った。


 "瞬光の剣聖"ジゼロは王城の歓待も早々に切り上げ、聖地に赴いた。そこで天光に包まれ、天界へ昇っていった。

 白亜の世界、大理石の階段をジゼロは脇目も振らずに一段飛ばしで上がっていく。


 女神A「え! もう来るの! すごーい、ベリアのこと大好きじゃん!」


 女神B「どこどこ? 今どこにいるの、ベリアの勇者(カレシ)!」


 ベリア「ちょっ……変なルビ振るなよっ! そっ、そんなんじゃ……ないからっ!」


 仲間の女神達にからかわれながら、ベリアは神殿の入り口に立っていた。心なしか今日は金のアクセサリーがいつもより増えている気がする。

 ジゼロは一際大きな神殿の広間で、主神アルフォヌスに拝謁していた。


 アルフォヌス「……よくぞ魔王を打ち滅ぼした、ジゼロよ。地上に平和が訪れたが、やがて魔王はまた力を得て復活するであろう。それまでは、我々が天界から見守り……。」


 ジゼロ「ベリア様はどちらに。」


 アルフォヌス「……あー、ゴホン。まあ、其方にはその権利がある。ワシらは完全な主従関係でも無いし、ベリアから1ヶ月前に退職届ももらっとるしな……。」


 ジゼロ「どちらに。」


 アルフォヌス「……ちょっと待ってって。案内させるから。目、怖いし。」


 ジゼロは天使達に誘導されながら、小さな神殿へ向かった。階段を一段飛ばしで駆け上がると、そこにはベリアと冷やかしの女神達が立っていた。


 ベリア(う……! 直接会うと、すごい気まずい……。)


 ジゼロ「……。」


 ジゼロはもはや目を逸さなかった。そして一歩ずつベリアに近づいていった。

 ベリアは今すぐ逃げ出したかったが、足が金縛りにあったようだった。文字通り、釘付けになっていたのだ。

 ジゼロはベリアに触れられる距離に来ると、立ち止まり、静かに(ひざまず)いた。


 ジゼロ「……彫像より遥かにお美しいです、ベリア様。お迎えに上がりました。」


 ベリア「……あっ。は、はい。」


 女神A「はぁ!? なにそれ?」


 女神B「あのさーもっと讃えなさいよ、天界が悪く思われるんだけど!」


 ベリア「うるせぇ! 殺すぞ!」


 ベリアは深呼吸し、右手の甲を差し出しながら落ち着いて言い直した。


 ベリア「私の勇者ジゼロよ。この度の戦功、見事でした。あなたの望む報酬を与えましょう。さらなる力ですか? それとも、巨万の富ですか?」


 ジゼロはベリアの手を取り口づけをした。


 ジゼロ「貴女です、ベリア様。」


 そしてジゼロは立ち上がり、ベリアを両手に抱えて持ち上げた。


 ベリア「えっ!? いやっ! ちょっと、それは聞いてないって!!」


 周りの女神達はキャーキャーと歓声を上げていた。


 ジゼロ「……初めて貴女の声を聞いた時から……お慕いしておりました。」


 そして2人は、階段をゆっくりと降りていったのだった。


 数百年後、魔王が甦った。そして新たな勇者が現れ、それを討ち滅ぼした。その者は、銀の瞳を持ち、瞬く間にあらゆる敵を一刀両断にしたという。


 Happily ever after.

★思いつきで書いた短編です。読んでくれてありがとうございます。

 他にも小説を書いていますので、良かったら読んでみてください。


《長編・内政もの》

『魔王は紅茶を愛した』


《中編・ダークファンタジー》

『魔女の処刑人』

※『魔王は紅茶を愛した』の補助作品です。単品でも読める物になっているとは思いますが、

 ぜひ併せてお読みください。


《コンテスト応募作品・漫画脚本》

離界イグザルの悪魔』


《短編?・ローファンタジー・怪異・コメディ》

『封魔堂〜激レア怪異入荷しました!』

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