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”キャサリンの地味版”と言われたマリアの決意

作者: 彩緒
掲載日:2026/06/20

数あるお話の中からご興味を持っていただきありがとうございます。

楽しんでお読みいただけたら嬉しいです。

***

ランクインさせていただきありがとうございます!

誤字報告感謝いたします。

***

ジャンルが違うというご指摘を複数いただいております。

(ローファンタジー✖ ⇒ 異世界恋愛〇 ヒューマンドラマ〇)

ご迷惑をおかけして申し訳ございません。

”本日は、ゴールデン侯爵家次男ウイリアムとモンドマール子爵家長女キャサリンの結婚式にご参列いただき誠にありがとうございます”



「ゴールデン侯爵も子爵家との結婚をよく許したなあ。もっと厳格な人かと思っていたよ」


「ウィリアムが次男だからじゃないか?王宮事務官としてやっていく分には、子爵令嬢でもギリギリ良しということなんだろう。まあ、キャサリン嬢優秀だからな。それに美人だし」


「たしかにな。おや、キャサリン嬢のブライズメイドはマリア嬢か。そういえば、あの二人従姉妹だったな。なんかマリア嬢ってキャサリン嬢の地味版って感じだよな」


「おいおい、失礼だぞ」


「でも実際そうだろ。社交界でも学園でもキャサリン嬢の影にいる感じで。マリア嬢が、学園に残って研究の道に進むことにしたのは意外だったけど」


「そうかぁ?まあ、跡継ぎでもなく、婚約者もいないなら、いろいろと思うところがあるんだろ」


「将来独身で過ごす場合も考えてということか。ウィリアムに惚れ込まれて結婚することになったキャサリン嬢と対照的だな」


「まあいいじゃないか、マリア嬢のことは。今日はウィリアムとキャサリン嬢の結婚を祝うために来ているんだから」



 ♢♢♢♢



 ”キャサリンの地味版”

 上手いこと言ったものです。


 私は、キャサリンに付き添いながら、ロイ様とリチャード様のお話に耳を傾けておりました。このお二人は学生時代からうわさ好きです。うわさは離れていても本人にはよく聞こえるということを、いつになったら知るのでしょうか。


 顔をあげて、キャサリンとウィリアム様を見ると、二人の話し声は聞こえていないようで良かったです。特にキャサリンには聞いてほしくありませんでしたから。



 私マリア・シモンと花嫁キャサリン・モンドマールは、同い年の従姉妹同士で、容姿もどことなく似ているようです。

 でも、全てにおいてキャサリンの方が私より優っていました。

 私の髪の毛は普通の茶色ですが、キャサリンの髪の毛は金色がかった茶色。私の目が茶色がかった緑色に対し、キャサリンの目は鮮やかな緑色。私の身長が平均ぐらいなら、キャサリンの身長は平均より少し上。


 全く違っていたなら良かったのでしょうが、私というベースを改良して洗練させたのがキャサリンという感じですかね。なので悔しいけど、ロイ様とリチャード様の言うことは当たっておりました。


 ”社交界でも学園でもキャサリンの影”

 これも当時はその通りでした。


 ”なんで同じ学校なの!せめて違う学年が良かった”と何度思ったことでしょう。

 もっと言うと、”せめて違うお友達と行動したい”と何度願ったことでしょう。

 

 え?学年はともかく、違うお友達と行動するのはできたのではないか、ですって?

 私も入学前はそう思っておりました。

 ですが、現実は甘くありませんでした。



 ♢♢♢♢



 幼い頃から、キャサリンは我が家によく遊びに来ていました。父が継いだシモン子爵家は、キャサリンの母、ジョシー伯母様にとっては生まれ育った実家です。一緒に住んでいるおばあ様は、ジョシー伯母様の母、キャサリンにとっては祖母ですから、遊びに来るのは当然です。


 問題は、ジョシー伯母様は嫁いだはずなのに、家の者のようにふるまうことでした。キャサリンも同様で、自分の家だと思っているのか、私の部屋に無断で入り、引き出しやクローゼットを開けたりしていました。


 え?一緒に住んでいてもそんなことはしない?

 あら、そうなんですか。

 当たり前にされていて、よくわからなくなっていましたわ。

 

 父に不満を言っても、ジョシー伯母様には頭があがらないらしく、改善されることはありませんでした。母もおばあ様の手前、ジョシー伯母様に何か言うなんてことはできなかったようです。


 キャサリンは、私のものを勝手に見るんですけど、取ることはしないんです。見られるだけで気にする私は、心が狭いのではと悩んだ時期もございました。

 

 とは言え、ただ見られるだけでも不快なものは不快ですし、そのうち私は、目に見えないガラスの箱に入れられているような、息苦しさを感じるようになりました。


 息苦しさを上手く説明できないので、つまらないことですけど、具体的にお話ししますね。


 仮に私が素敵なリボンをプレゼントされたとしましょう。

 大事に鏡台の引き出しにしまっておくのですが、遊びに来た時、キャサリンは毎回勝手に確認していきます。すると次に遊びに来たときには、私のものより幅も光沢もあるリボンをしているのです。

 私がレースと刺繍をあしらったお茶会用のドレスを買ってもらったとしましょう。お茶会数日前に、キャサリンがクローゼットを見に来ます。そしてお茶会当日は、レースと刺繍とリボンをあしらったドレスで現れるのです。

 

 男性にはわかりづらいでしょうか?

 あ、なんとなくわかる?

 常に1ランク上を用意してくる感じ?

 そう、それです!

 どんなに私が気に入って身に着けたとしても、常に1ランク上のものを身にまとったキャサリンが現れてしまうと、その途端、私が色褪せてしまうのです。ただでさえ、似ているけど美人ではないと言われているのに。


 ・・・・・私が美人・・・ですか?

 お気遣いありがとうございます。

 気遣っていない?

 ・・・・・あの、話をすすめますね。


 品物に関してはまだ我慢ができました。流行は変わりますし、新しい品を追い求めていたらキリがありませんから。


 ですが、学園生活だけは自分を納得させることができませんでした。

 

 私は、入学したらキャサリンと離れて、私だけの仲の良いお友達を作るつもりでございました。私は社交的な方ではありませんが、頑張って周りの子に声をかけました。


 私が最初に仲良くなった子はエミリーという私と同じ子爵令嬢でした。私から話しかけて、共通の話題をさがし、お互いにフレーバーティーが好きだということがわかって盛り上がりました。今度の休日、二人でカフェに行こうと約束もできました。


 次の日、エミリーと話すことを楽しみに学校に行くと、キャサリンとエミリーが楽しそうに話している姿が目に飛び込んできました。私は、まさか!と思いました。だって前日まではキャサリンとエミリーが話すところを見たことがなかったのですから。私の予想は違っていてほしい、そう願いながら二人に近づいていくと、キャサリンが私に向かって言ったんです。


「マリア、遅かったじゃない。私、フレーバーティーの美味しいカフェ見つけたから、今度の休日はマリアも一緒に行きましょうね」


 マリアも・・・・”も”ですよ。

 たしかに、フレーバーティーの話をしているとき、キャサリンは近くにいました。自分の席で、静かに本を読んでいました。きっと聞き耳を立てていたのでしょう。

 キャサリンがフレーバーティーを飲んでいるところ、見たことないんですけどね。


 私は入学してから、お友達を作るために何人かに声をかけました。キャサリンのことを正直ズルいと思いましたが、声をかけるのが苦手なのかもしれないと思い直しもしました。エミリーと仲良くなる権利は私だけのものではないですし、キャサリンは私からエミリーを奪ったわけではありません。でも、何人に声をかけても、エミリーと同じパターンになってしまうのです。


 私は学園生活中、キャサリンやエミリーの他、数人の女の子たちとグループで仲良くしていたのですが、私がキャサリンより一段下がる感じになるので、しまいには、キャサリンのおまけでグループに一緒にいさせてもらっているような、変な感覚になっていました。


 あ、もちろん皆様、そんなこと言いませんよ。

 これは、私の被害妄想でしたね。

 お聞き苦しいことを失礼いたしました。


 ーーーーー

 ”君がそう感じたのなら、君自身が感じたことを否定する必要はない”ですか?

 ハンカチ?

 なんで私にハンカチを?

 ・・・・・あ、申し訳ございません。

 感情が高ぶってしまったようです。



 ♢♢♢♢



 昨日は大変失礼いたしました。

 人前で泣いたりしてお恥ずかしいです。

 いえ、そんな、泣けて良かったなんて・・・・。

 でも、なんだかスッキリした気がします。

 あ、ハンカチありがとうございました。


 今日は教授いらっしゃらない日でしたね?

 研究発表、アルバート様は行かれなくて良かったのですか?

 あ、不在の教授に代わって、学生の講義をされる・・・・失礼いたしました。


 研究は面白いですね。

 最初は切羽詰まった気持ちで学園に残ったんですけど。

 いえいえ、私の話はたくさん聞いていただきましたので、これ以上は・・・。


 ・・・・・では、学園に残ることにしたきっかけまでお話します。


 私は学園生活中、特別評価が高い学生というわけではなく、平凡でした。平凡なりにも、与えられた課題は自分で考えてやっておりました。特に、自由にテーマを決めて、調べて発表する課題が好きでした。


 ですが、やはりキャサリンです。

 私とキャサリンは、寮に入らなくても自宅から学園に通えましたので、自宅から通っておりました。キャサリンは相変わらず、私の部屋へ無断で出入りしていました。


 はい、そういうことです。レポート提出課題が出ると、キャサリンは私の部屋に入り、引き出しを開けて、私のレポートを読んでいくのです。そして、私の書いたものを土台にして、より素晴らしいものを提出していました。先生からの評価は・・・・・言うまでもないですね。


 私は、これに関してはキャサリンに文句を言いました。

 ”勝手に人のものを見ないで!自分の課題は自分で考えてよ!”って。

 でもキャサリンは


「どうせ皆の前で発表するのだから見てもいいでしょ。テーマは人と同じになってもいいと言われているし、内容で評価が決まるんだから、言いがかりをつけないで」


と言ったんですよ。

 悔しいけど、内容はキャサリンの方が毎回優れていました。


 え?変なとこ褒めないでくださいよ。

 感情じゃなく、客観的に内容を比較していてえらいだなんて。


 一生懸命書いたレポートをマネされるのは嫌なので、最初のうちは隠したこともあります。でもダメでしたね。おばあ様に怒られました。コソコソするなって。私がおばあ様に言い返してしまうと、おばあ様から母への当たりがきつくなってしまうので、隠すのはあきらめました。


 それで自分だけのレポートを書くために、学園に残って研究の道に進んだのかって?

 いえ、そんな純粋な気持ちじゃありません。


 あっ、講義の時間ですか。

 はい、今日は一日ここにおります。

 え、はい、わかりました。



 ♢♢♢♢



 講義お疲れさまでした。

 紅茶お入れします。


 純粋な気持ちじゃなければ何か??

 ・・・・あ、先程の続きですか。

 私の失恋と破談が絡むので、研究に真摯に取り組まれているアルバート様にはご不快に思われるかもしれません。


 ・・・ご気分を害してしまったようで申し訳ございません。

 話してみろと言われましても・・・・。



 ♢♢♢♢



 私の学園生活はつまらないことばかりではありませんでした。

 キャサリンの存在に押されつつも、友人たちとの会話は楽しかったです。

 特に恋バナが・・・。

 呆れないでくださいね。

 私も当時憧れている男子学生がおりました。


 ・・・そんな怖い顔しないでください。

 女子学生ってそんなものですよ。


 もちろん憧れていた方には婚約者はいません。横恋慕ではないです。

 だからといって自分からは話しかけません。あちらは高位の方なので。

 ただ素敵だなって思うだけです。


 あの日は偶然でしたね。

 私は先生に質問があって遅くまで学園に残っていました。用事を済ませて、帰ろうと廊下を歩いていたら、目の前であの方が生徒会の書類を落としたんです。100枚ぐらいあったでしょうか。かなりの量がありました。手伝って拾ったのですが、順番がわからなくなってしまっていて、揃えるのを手伝いました。余計な事かなと思ったのですが、今後また順番がわからなくなったときのためにと申し上げて、揃えた書類に番号をふるようおすすめして、一緒に番号をふりました。


 あの方は、とても感謝してくださって、その後も私に話しかけてくださるようになりました。2,3日は・・・・。


 2,3日すると、挨拶はしてくださるけど、話しかける対象はキャサリンに変わりました。

 キャサリンは、私の従姉妹だと言って挨拶し、私が手伝うことになっていた生徒会の仕事を一緒に手伝い、私が出したアイデアで、私よりテキパキと動きました。


 自分のためにテキパキと動いてくれる女性、学園で見かければグループの中で一際輝く女性。

 ウィリアム・ゴールデン様がキャサリンに恋をするのはあっという間でした。二人は卒業後すぐに結婚しました。


 え?知っている?

 ええっ!あの結婚式のときいらっしゃったんですか?

 すみません。

 ブライズメイドだったので、周りをみる余裕はなかったです。

 それも知っている?

 あ、そうですよね。


 この二人が結婚するって聞いたとき、私の中にあったのは、ショックというより無力感でした。キャサリンには敵わないのかと。

 と同時に、キャサリンが結婚すれば、もう私に構わなくなるかもという期待感も湧いてきました。


 私にブライズメイドの依頼をするとき、キャサリンは私にある男性を紹介してきました。


 あ、他人の縁談話はつまらないですよね?

 すみません、この話はやめます。

 ・・・・続けるんですか?

 でも・・・・。



 ♢♢♢♢



 ウィリアム様の介添人だったフロイド様を覚えていらっしゃいますか?

 あの方を紹介されました。

 両家の親にも事前に打診されたきちんとした紹介です。

 フロイド様は、学園でウィリアム様と常に行動を共にされていた方です。婚約者のいない花婿花嫁の友人同士を引き合わせるなんてよくあることです。


 両親は喜んでいましたね。学園生活中、地味に過ごし、誰からも結婚を申し込まれず、卒業するだけだった私に来た紹介ですから。

 私も、卒業近くなのに先が見えないところへ来た話なので、乗ってしまおうかという気になっていました。

 ただし乗ってしまった場合、結婚してもキャサリンの影になる未来が続くのはわかりきっていました。


 結論は出ないまま、フロイド様とお会いする日になりました。

 お会いして、本当に良かったです。

 私がここにいるのはーーーーーフロイド様のおかげです。



 フロイド様は、私とは相容れない方でした。


 フロイド様も私と同じように、ウィリアム様の影に隠れてしまっている方でした。私たちは、お互いに共通する点が多く、話がよく通じました。


 ですが、しばらくお話しして打ち解けてきたところで、フロイド様が私を勘違いなさっているのがわかりました。


「ウィリアムは優秀で助かるよ。僕はいつも彼のレポートを見せてもらっているよ。僕は及第点を取れればいいから、彼のレポートを簡易にまとめ直して出してたよ。僕のことをウィリアムの”寄生虫”と呼ぶ口の悪い奴もいたけど、上手く世渡りするには要領って大事だよな。君も従姉妹のキャサリン嬢が優秀で助かってたんだろう?僕と君、似た者同士で、これからも上手くやっていけばいいんじゃないかな」



 ーーーーー!!

 私は棍棒で頭を殴られたぐらいショックを受けました。

 カッとなってフロイド様に怒鳴ってしまいそうになりました。

 でもすぐに、怒りが恐怖に変わりました。

 もしかして、今までずっと皆からそんな目で見られていたのかと!



 私はその晩、初めてお父様にお願いをしました。

 膝をついて、ひたすら頭を下げました。


「フロイド様と結婚はできません!どうか私を学園の研究科へ進むことをお許しください!」


 私の必死な様子に何かを感じたようですが、父はためらっていました。

 声が部屋の外にも聞こえていたようです。何事かと思ったのでしょう。

 おばあ様が、母に連れられて様子を見に来ました。

 反対される!と身構えたのですが、おばあ様は意外なことをおっしゃいました。


「この子が自分の希望を言うなんて初めてじゃないかい?今まで我儘を言ったことがない子が、こんなに必死になるんだから、叶えてやったらどうだい?それに結婚したとしても、ジョシーみたいに実家に帰ってくるぐらいしかやることがないより、いろいろと学んで見聞を広めといたほうがいいだろう」


 私が入学したときから卒業までの間に、おばあ様の体力は落ち、考え方も大分変わっていました。

 このおばあ様の一押しで、私が学園の研究科に進むことが認められたのです。


 おばあ様にお礼を言いたい?

 ???

 お礼を言わないといけないのは、私ですよ。


 研究科に入ってからは、アルバート様のご存じの通りです。

 こんな理由で、研究科に来た私を軽蔑なさいますよね?

 ですが、キャサリンのいないところで、私が独自の研究成果を示さなければ、前に進めない気がしたんです。

 浅はかですね。

 そんなことはない?

 ・・・・・お優しいですね。


 え?これからも私のことをもっと知りたい?

 そう言われましても、これ以上は特にこれといったお話は・・・・。

 はい?鈍い?鈍すぎる、ですか?

 それって一体・・・・・・・・・・・・・っ!!




 ♢♢♢♢




”本日は、ロチェスター侯爵家長男アルバートとシモン子爵家長女マリアの結婚式にご参列くださり、誠にありがとうございます”


「ウィリアムの結婚式から三年も経ったか。早いもんだな」


「本当にな。それにしてもマリア嬢、以前にも増して綺麗だな」


「お前、調子がいい奴だな。前はマリア嬢のことをキャサリン嬢の地味版とか言ってなかったか?」


「あー、言ったかも・・・・・」


「なんだ?口ごもってどうした?」


「・・・あのな、もう思い出になったから言うけど、実は俺マリア嬢のこといいなって思っていた。あの一歩引いた感じが魅力的で・・・・」


「げっ!お前もか!俺も密かに気になっていた。・・・・というか、うちの親に頼んでシモン子爵家に婚姻の打診をしてもらったんだが断られた。それがさ、変な話なんだけど、断りの返事がシモン子爵からじゃなくて、モンドマール子爵夫人から来たんだよ。マリア嬢は他の縁談が決まりそうだからって。・・・あれ?どうした?」


「・・・俺もだ。俺もマリア嬢のことを願い出たら、モンドマール子爵夫人から、フロイドとの縁談が決まりそうだって知らされてあきらめたんだ」


「まさかお前も申し込もうとしていたとはな。にしても、フロイドと縁談話があったなんて知らなかった。あの男はダメだ。マリア嬢には似合わない」


「ああ。この間とうとうウィリアムから切り捨てられたらしいぞ。フロイドも王宮事務官になったから同じ職場にいるだろう。ウィリアムが何日もかけてまとめた書類を、学生時代の感覚でフロイドが使おうとしたらしい」


「なんて奴だ。元々変だったけど、仕事でそれやったらダメだろう。まったく呆れるよ。モンドマール子爵夫人は、本当にフロイドとマリア嬢の縁談が決まったらいいと思っていたのかな?いや、今さらか。それよりモンドマール子爵家って今経済状態良くないらしいぞ」


「ああ、知っている。夫人の散財が積み重なったって聞いている。その影響もあるのかな?あそこにキャサリン嬢が座っているけど、なんか疲れた顔しているよな」


「え!キャサリン嬢!?いや、夫人と言うべきか。気が付かなかったよ。ウィリアムも険しい顔しているな」


「・・・・あの二人ヤバいらしいぞ」


「なにが?ウィリアムは王宮事務官だから生活に苦労はないだろう」


「いや、そっちじゃなくて夫婦仲の方。王宮事務官夫人て裏方として私的外交を仕切ったりしなきゃなんないだろう。それに普段は夫人同士の付き合いがあったりとか。・・・大分苦労しているそうだよ。ウィリアムはリーダー的なキャサリン嬢に惚れ込んだのに、結婚してみたら全然違っていて苛々しているらしい。ほら、夫人の評判は王宮事務官の評価に影響するからさ」


「うーん、人はよくわからないもんだなあ。学生時代控え目だったマリア嬢が、今では学会で堂々と発表して高い評価を得ているしなあ」


「マリア嬢、幸せそうだな。なんか嬉しいよ」


「同感だ」



 ♢♢♢♢



「今日は疲れたかい?」


「少し。でも気持ちが満たされているので大丈夫です」


「ロイ君とリチャード君は相変わらずお喋りだったな。彼らの話は聞こえていたかい?」


「さすがにそんな余裕はありませんでした」


「そうか・・・・・・ん?なんだい?今度は僕の話を聞きたい?もちろんだ」



 ♢♢



 君のことが気になったのは、君のレポートを読んでいたせいもあるかもしれない。

 研究科に所属している者も学生のレポートをたまに読むからね。

 顔はわからないが、マリア・シモンという学生は最初から最後まで自分の言葉でしっかり書く子だなあという良い印象があった。


 心を掴まれたのは、キャサリン嬢の結婚式でだ。

 ブライズメイドを務めているのが、あのマリア・シモンだとそこで初めて知った。

 花嫁の近くで、君がなにか秘めたる決意があるような顔で、凛として立っている姿に強く惹かれたよ。

 この人は、一体なにを心に秘めているんだろう?

 あの日から君のことが気になってしかたなかったよ。

 

 研究科で君と話すことができて、未婚の女性にあれこれ質問して申し訳なかったが、君の話を聞けてよかったよ。

 君が自分で自分を変えていこうとする凛とした女性だとわかったから。


 もう君のことを誤解する人はいないと思うよ。

 いや、元々、皆誤解していなかったかな。


 今の君に言う必要ないかもしれないが、僕はね、こう思っている。

 君はキャサリンの影と言われたかもしれないけど、本当はキャサリンが君の影だったんだと。

 その証拠に、君はキャサリンと離れてもちゃんと一人でやっていけている。


 腑に落ちた?

 それは良かった。

 



 ・・・・・。

 マリア

 明かりを消すよ。

 これからは、二人の話をたくさんしていこう。


                             <了>

最後までお読みいただきありがとうございました!

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