第八頁 ― 言葉と行動
夏の昼下がり、ぎらぎらと照りつける太陽の下……
日陰に覆われた階段の上で……
……
がやがや……わいわい……
食堂に押し寄せる人波。
校庭を埋め尽くす遊びの群れ。
……
そよそよ……
軽い風が私たちの髪をなでていく……
私たちの視線が、触れ合う
……
「さっきの子……」天宮さんが大きく目を見開く
「天宮さん?」私は軽く首を振り上げ、立ち上がる
……
「それを私にくれない?」天宮さんがそっと牛乳パックを指す
「何を?」私は前を向く
「牛乳よ! 君のすぐ横にあるやつ!」天宮さんが何度も指差す
……
ぱたん
「これのこと?」私が牛乳パックを手に取る
……
とことこ……
「ちょっと待って! 私が行くから!」私がゆっくり階段を上る
……
びゅーっ!
「この風……本当に涼しいね……」私が手で目を覆い、風の方向に顔を向ける
……
ぱたんっ!
視線を音のした方に向ける
天宮さんがスカートを必死に押さえ、体を低くする
「こっち見ないで!」天宮さんの顔が真っ赤になり、目を固く閉じる
「ご、ごめん!」私が慌てて別の方向を向く
……
「このスケベ!」天宮さんが小さく唇を動かす
「……さっきと同じ……」
………………………………..
ころん……ころん……
階段を伝って、上からスケッチブックが落ちてくる
色とりどりのページが、私の視界をかすめていく
……
ぽとん……
「これって……」私がそっとノートを拾う
今私の手の中にあるのは、鉛筆のぼんやりした線で描かれた一枚の絵……
……学校の風景、陽光の下の景色……
……教室で遊ぶ生徒たち……
……
ぱらぱら……ぱらぱら……
次のページを素早くめくっていく……
人波の行き交う通り……
待っている子犬のいる家……
登校する生徒たちが連れ立つ校門……
……
そして、ある絵で私はめくる手を止める
静かな教室、黒く塗りつぶされた一人の人物……
そしてその人物に向かって差し伸べられた手……
………
だだだっ……だだだっ……
足音が響き、どんどん大きくなっていく……
……
ばんっ!
一人の影が私の前をすり抜け、スケッチブックを奪い取る
……
「見ないでってば!」天宮さんがスケッチブックを胸に抱きしめ、顔を伏せる
「でも、どうして……」私が天宮さんに向かって手を伸ばす
……
「私、絵が下手だってわかってる!」天宮さんが体を固くする
「誰の絵とも似てないってことも!」
「線は下手、構図は雑で、鉛筆の線すら消しきれてない!」
……
だっ……だっ……
「だから……」天宮さんが私に背を向け、階段を上っていく
「見ないでって……」
……
「でも僕には全然下手に見えないよ!」私が天宮さんの後を追うように顔を向ける
「え……何……って……」天宮さんがゆっくり振り返る
「君の絵にはまだ不安定な線もあるけど……」私が手を宙に掲げる
「でも全部、君が感じたままを描いてるじゃないか」
……
どたどたっ……どたどたっ……
「どういう……意味……」天宮さんが体を起こし、私に近づいてくる
「つまり……ほら……」私が両手を顔の横に掲げ、目を逸らし、口を少し歪める
「なんか……そういう……みんながよく言うやつ……」
……
「わかんない! もっとちゃんと説明して!」天宮さんが目を丸くし、顔を近づけてくる
「天宮さん……こんなに近くて……言いづらいよ……」私が目を逸らす
「…………」天宮さんの視線が私をまっすぐ見つめたまま動かない
……
「ほら……」私が頭をかく
「僕、この手のことは全然わからないけど……」
「でも君の絵って、すごく君らしくない?」
「…………」天宮さんが顔を伏せる
……
「あ、違う! 君が下手って意味じゃないよ!」私が手を乱暴に振り、視線をさまよわせる
「絵が君の見てる世界そのものみたいだから……」
「…………」天宮さんがまだ頭を下げたまま
「ほら……」私が指を空に向ける
「世界の見方って、行動に反映されるものじゃない?」
「あの教室で黒く塗られた女の子と、差し伸べられた手みたいな……」
……
「そうか!」天宮さんが小さく微笑む
「君……」天宮さんがそっと顔を上げ、私をまっすぐ見る
「本当にそう思うの?」
……
「うん、僕本当にそう思うよ!」私が顔を逸らす
「そんな風に描けるってことは、きっとたくさん練習したんだろうし……」
「きっとその調子で……」
……
「みんなが好きな絵が描けるようになるよ!」
「…………」天宮さんが急に頭を下げる
……
ぐいっ!
「君も結局みんなと同じ……」天宮さんが小さく唇を動かし、スケッチブックを強く抱きしめる
……
どし……どし……どし……どし……
「もういい!」天宮さんが階段を上っていく
「どうして期待しちゃったんだろう!」
……
「待って……天宮さん……」私が手を差し伸べ、目を大きく見開く
金色の髪とスケッチブックが、徐々に遠ざかっていく……
………………………………………………………………………………………………………………
午後の授業が再び始まる……
でもみんなの顔は朝のように目を逸らしたりしない……
先生もただ微笑みながら授業を紹介するだけ……
……
「リーン♪」
「よし、今日はここまで!」先生が立ち上がり、ノートを鞄にしまう
……
ふわーっ……
「やっと一日が終わった!」蓮が伸びをする
「初日なのにめっちゃ疲れた!」
……
ぎーっ……
「おい小林!」背の高い男子が突然教室の前に立つ
「練習の時間だぞ!」
「すぐ行く!」蓮が鞄を持って追いかける
……
「あ、そうだ!」蓮が振り返って私を見る
「今日は忙しいんだ! また今度勉強しようぜ、春!」蓮が私に手を振る
「いいよ……」私が軽く頷く
……
だだだっ……
教室の前を埃が舞う……
津女子さんが武道着を握りしめ、走り去っていく……
……
「きっと今日が初日だからかな……」私が軽く肩をすくめ、鞄を手に取る
「何を期待してたんだろう……」私が小さく唇を動かす
……………………………..
「すみません!」別の影が突然教室の前に現れる
「天宮宮木さんはいますか?」男子が教室を見回す
「います! 何かご用ですか?」天宮さんが近づいていく
……
「噂どおりだな!」男子が微笑む
「自己紹介するよ、俺はこの学校の美術部部長だ」
「今、暇かな?」
「ちょっと話したいことがあるんだ」男子が天宮さんに手を差し伸べる
……
ぎゅっ!
「いいですよ!」天宮さんが鞄の紐を強く握り、周りを見回し、顔をしかめる
……
ぱちっ!
「最高!」男子が両手を叩く
「じゃあ一緒に行こう!」
………………………………………………………………………………………………………………..
どういうわけか、私の手が固く握られる
どういうわけか、私の視線が二人の方から離れない
……
だだだっ……だだだっ……
どういうわけか、今私は二人を追いかけている
夕陽が差し込む長い廊下まで……
……
びりっ!
廊下中に響き渡る音
……
びりっ! びりっ! びりっ!
空中に紙片が舞い散る……
床に無数の紙片が散らばる……
膝をついて必死に紙片を拾おうとする天宮さん……
そしてさっきの男子が、スケッチブックから一枚一枚絵を破り捨てる……
……
どすんっ!
「これが芸術だとでも?」男子がボロボロのスケッチブックを落とす
「わからないのか?」
「どうして……そんなこと……」天宮さんが顔を上げ、頬に涙を伝わせる
……
「深みがない、意味がない、価値がない!」男子が天宮さんを睨む
「小学生の落書きレベルのゴミだ!」
……
「君は描けるんだよ、あんな絵じゃなくて……」男子が体を低くする
「俺が見たんだ、君の描いた本物の傑作を……」
……
「だからもう泣かないで……」男子が天宮さんの頬に手を伸ばす
「正しい道を俺が教えてやる」
「全部俺に任せろ!」
……
「全部うまくいくよ!」男子が天宮さんの顔に自分の顔を近づける
「みんな必ず認めてくれる」
「俺を信じて、全部俺に預けろ」
「君のすべてを、俺に——」
………
どんっ!
どういうわけか、私の体が動く……
どうしたらいいかわからない、みんなの視線があの方に向いている中で……
壁にぶつかる男子の姿を……
……
ひら…ひらっ…
夕陽の下で、紙くずが乱れ飛ぶ……
……
「何が……」天宮さんが大きく目を見開き、目の前の拳を見つめる
「誰……」天宮さんが腕の方向にそっと顔を向ける
……
「君……どうして……」天宮さんが私をまっすぐ見て、目に涙を浮かべる
……
「てめえ、どこのどいつだ! 俺たちの間に割り込むんじゃねえ!」男子が頭を押さえ、私を睨む
……
輝く手の絵の紙片が、私の足元に落ちている
……
ぎゅっ!
「ただのクラスメイトのお節介だよ!」私の拳が固く握られ、視線をまっすぐ相手に向ける




