そして、僕たちは歩き出す
ぞろぞろ…ぞろぞろ…
がやがや…がやがや…
…
夕陽が地平線に沈み、昼の暑さが和らいでいく
街灯が点き始め、人が群がる時間
……
「あの…」俺はそっと手を上げて、二人を見る
「つまり…」
「二人とも、俺に勉強教えてほしいってこと?」
…
「そうそう!」蓮が手を天に突き上げる
「俺、数学めっちゃヤバいんだよ!」
「家庭教師雇うと金かかるし!」腰に手を当てて首を振る
「まぁそれはそうだけど…」俺は空を見上げる
…
「で、ツメ子さんは?」視線をツメ子に移す
「ツメ子さん?」
…
ひっ!
「わ、私!?」ツメ子が両手を絡める
「うん、知りたいだけだから」軽く頷く
「言いにくい理由なら、無理に言わなくていいよ…」
「ち、違う違う違う!」手をブンブン振る
「そんなんじゃないって!」
「ただ…」顔を横に逸らす
「ちょっと…吸収が遅いだけで…」
…
「それだけならいいけど…」周りを見回す
「…こんな時間に、ここで話すのって大丈夫?」
「どういうこと?」二人して首を傾げる
「だって…」頬をかく
「今、店めっちゃ混んでるし…」
「テスト終わったばっかだし…」
「だから…」
「大丈夫だって!」蓮が立ち上がる
「そのくらいなんでもねぇよ!」
「私も…そんなに気にしてない…」ツメ子が少し顔を上げる
………
がさごそ…
「じゃあ…二人とも、今の実力チェックさせて?」背を向けてノートを取り、ニコッと笑う
「またテストすんのかよ!?」蓮が後ずさり
「できる…できるよ…」ツメ子が拳を握りしめて俺のノートをガン見
「いや、そうじゃなくて…」首を振る
「でもチェックって言ったじゃん!」蓮がノートを指す
…
ぱらぱら…
「普通のテストは時間かかるし効率悪いから…」ノートを開く
「ちょっと質問するだけで十分わかる」
「へぇ?変なの」蓮が首を傾げる
「どうやって?」ツメ子が口に手を当てて目を丸くする
「まぁ変に聞こえるだろうけど、信じて!」目を細めて笑う
「準備いい?」
「じゃあ蓮から!」
「おい急にすんなよ!」蓮が跳ねる
……
「最初の質問、定数って知ってる?」蓮を見る
「定数?なんか高そうな響き…」蓮が近づいてくる
「じゃあ関数は?」
「数に漢字つくの?」目が点
「グラフは?」
「急に地理?」頭をかく
「せめてパーセント計算は?」
「パーセント…パーセント…」顎に手を当てて俺を見る
「掛け算?」
……
ごんっ!
「どうした春!?まだちょっとしか聞いてないのに!」蓮が顔を近づける
「次早く次!」
「いや、もういい…」ノートに突っ伏してた頭を上げる
「次、ツメ子さん…」
「準備いい?」
「うん…うん…」唇を噛んで拳を握りしめる
「一番難しいの持ってきて!」
……
「ツメ子さんはこれ読んでくれればいいよ」ニコッ
「持ってこい持ってこい!」天井見て目を閉じる
“She sells sea shells by the sea shore.」
「はい、ツメ子さん!」
…
「えっと…」キョロキョロ
「Shi shell… see sell… in tha… see sho…」
「合ってるよね?」チラッと俺を見る
………
ごんっ!!!!
「どうした春くん!?体調悪いの?」ツメ子が近づく
「いや…ちょっと…ショックが…」顔を少し上げる
…
「ちょっと聞きたいんだけど…」
「ねえ、二人とも…」
「ノート見せてくれない?」
「いいよ…」ツメ子がすぐ背を向ける
「どうぞどうぞ!」蓮が鼻の下をこする
…………………
きゃっきゃ…ぺちゃくちゃ…くすっ…
…
女子グループが店に入ってきて、俺たちの真後ろに座る
…
「きゃはっ——!」
「ねえ知ってる?あのスポーツバカの子!」
「いつも愛想振りまいて男にくっついてさ!」
「空気読めないよね〜」
…
「何回目だよ…」
「避けられてるのに気づかなくてさ」
「遠回しに言われてもわからないんだから」
…
「それにさあの男子も!」
「いつもイキっててさ!」
「肝心な時にいなくなるくせに」
「注目されたがりでウザいよね!」
…
「まだあるよ〜」
「聞いた?あの二人、金でクラス上げてるらしいよ?」
「マジ?」
「だってさ、未だに割り算もできないのにここにいるって変でしょ」
「英語なんて舌噛みまくりだし」
…
きゃはっ!!
「ほんとそれ!」
…………………………
カチ…カチ…
「まったく…」俺は顔を上げる
「後ろの人たち、ちょっと空気読めないよね?」笑顔でうつむく二人を見る
「…」二人ともテーブルを見つめるだけ
…
「てか時間見てよ…」
「うわっヤバ!」俺は立ち上がる
「俺、今行かなきゃ…」
「明日で…」
…
バンッ!
「明日はいらない…迷惑かけたね…」ツメ子が立ち上がる
「ごめん…」
ぱたぱた…ぱたぱた…
「…時間の無駄にしちゃって…」出口に向かって走り、空中に涙が飛ぶ
「ツメ子…違うって…俺…」手を伸ばす
…
「まぁ…明日になれば…」
「蓮、勉強の話は明日…」振り向く
…
ぎゅっ…
「もういいよ!」蓮が紐を握りしめる
「全部忘れてくれ、十神さん!」
「迷惑かけました!」
…
とことこ…とことこ…
「やっぱお前も同じだったんだ!」唇を噛む
「なんで期待しちゃうんだよ俺は!」
…
「え…二人とも…どうしたの?」出口に手を伸ばす
「俺何かした?」
「てかノートまだ持ってかれてない…」
ぱらっ…
…
後ろのページを開くと
赤い線だらけ
付箋だらけ
丸だらけ
…
「こんなに頑張ってたのか…?」ノートを握りしめる
「まだ習ってないのに…」
「なのに俺は…」
…
ぐっ!
「明日ちゃんと話さなきゃ!」
「でも印多すぎ!」
「今のうちに直して…」
………………………………………………………………………………………………………………
朝霧が残る中、陽がまだ差し込まない
冷たい空気と、消えた街灯
…
「こんな時間に誰もいないな…」校庭を見回す
「おお!珍しい!」青い服のオジサンが近づく
「若いの、なんでこんな朝早くに?」
「まだ学校始まってないぞ」
「えと…俺ただ…」周りを見回す
…
ガハハッ…
「わかるわかる」俺がポカンとする
「体を動かしてから勉強するんだろ?」
「え?」固まる
「俺も若い頃はそうだった」
「いや俺…」顔を逸らす
…
「ん?」
「違うって?じゃあ何しに来たんだ!不審者か!」
「違います違います!」
「ほら学生証!」慌てて出す
「おう、本物の生徒か…」顎をさする
「でもまだ始業前だぞ?」
「ちょっと早めに来て…やらかしたことがあって…」
…
とんっ
「そうかそうか、じゃあ行っておいで!」
「体育館寄ってけよ!」
「は、はい…ありがとうございます…」背を向けて走る
………………
まだ暗い教室、誰もいない廊下
……
ドガッ!バシュッ!
武道館からデカい音
好奇心でそっと覗く
…
長身の赤髪ショートが、汗だくでサンドバッグを叩いてる
「まだダメ!全然ダメ!」タオルで汗を拭う
……
タタタタッ…キュッ!
バンッ!バンッ!バンッ!
他の体育館からも音が
一人で走る足音、壁にぶつけるボール、素振り
…
「ほら蓮、早く!」
広い体育館に一人、バスケットボールを持った蓮
「投げるだけだろ、やれよ…」
…
「カンッ……ポトッ…」
…
「クソッ!」蓮が膝をつく
「それすらできねぇのかよ蓮…」
……
俺は静かに離れて、二冊のノートを抱える
………………………………………………………………………………………………………………
「リーン♪」
「はい、二人のノート…」少し腰を曲げて差し出す
「勝手に見てごめん…」
「それだけならいいよ…」ツメ子が顔を伏せる
「それだけなら失礼します!」蓮が背を向ける
…
「待って!」顔を上げる
「行く前にノート開いて!」拳を握る
……
ぱらぱら…ぱらぱら…
「これ…」ツメ子が目を見開く
「俺のノートに何書いたんだよ」蓮がノートを握りしめる
…
「勝手にしてごめん、でも聞いて…」胸に手を当て、頭を下げる
「俺なんかより偉そうに言える立場じゃないってわかってる…」
「でもせめて…」
「せめてだけ…」顔を上げる
……
「二人には、自分が全然ダメなんかじゃないって知ってほしくて!」
…
「やめてよ!」蓮が顔を上げる
「他の奴らみたいに嘘つかなくていいから!」
「慰めなくていい…」ツメ子が顔を逸らす
…
「じゃああの付箋は何のため?」頭を下げる
「付箋…」二人がノートに視線を落とす
「俺たちのダメなとこじゃん」
「本当にダメだったら、本当に理解できてなかったら…」目をギラつかせて見つめる
「どこに印つければいいか、正確にわかるはずないだろ」
…
「でもそれが二人の邪魔をしてる!」
「教科書はいつも長ったらしいけど、実際は一行で済む」
「だからせめて…」拳を握る
…
「その余計な部分、俺が削るの手伝わせてくれ!」
「…」二人がノートを見つめたまま動かない
……
「春…お前…」蓮が顔を上げる
「ぷっ…あははっ!わははっ!」
「やっぱ目がいいなお前!」蓮が首に腕を回す
「大事なとこ見つけるのってムズいんだよな!」
「だから全部頼むぜ、春!」
…
きゅっ…
「春くん…」ツメ子がノートで顔を半分隠し、チラッと横目
「これから…」
「よろしくね!」




