第三十三頁 ― 白い紙と色付きの紙
ザーザー…
今、通りには人の姿がまったくない。
路面は雨水に覆われて、街の光をぼんやり映している
街灯の光が雨粒一つ一つを通してぼんやり揺れている
…
カチッ…カチッ…
時計は今、10時を指している
部屋の中央、本棚に囲まれた空間
勉強机のランプはまだ眩しく点いている
ペンがあちこちに転がっている
…
ギュッ…
私は体を縮こまらせ、両手でお腹を抱える
視線を泳がせ、体を丸いテーブルにぴったり押し付ける
雑多な考えが次々と頭をよぎる
…
「まさかね。」私は袖を強く握りしめる
「あいつ、本気でやるつもりなの?」
「こんなタイミングを待ってただけ?」
「本当にやられたらどうすんのよ…?」
…
「どうしよう…。」私は口元に手を当て、顔色がどんどん青ざめる
「どうしよう!」
「どうしようよ!!!」
……
カチャ…
「待たせちゃったね。」あいつが入ってきて、手にトレイを持っている
「フルーツジュースと軽いお菓子も用意してきたよ。」
「これならもっと集中して勉強できるでしょ。」
…
コツンッ。
「…」私の足がテーブルにぶつかり、体が小さく跳ねる
…
「大丈夫?」あいつが私に視線を向け、腰を低くする
…
「だ…大丈夫…」私はテーブルに突っ伏し、顔を少し歪める
「ただ…足がつっただけ…ちょっとだけ…」
…
コトッ。
「そう?」あいつは皿を置き、ゆっくりテーブルに近づいて座る
「やっぱりあんな座り方してると長時間でつりやすいよね?」
「少し体を楽にして。遠慮しなくていいよ。」
…
「それが目的だったの?」私は唇を噛み、後ろに体を倒し、服を強く掴む
「あんた、そういうの見たいんでしょ?」
………
トン。
「さっきから何も飲んでないよね?」あいつはオレンジジュースのグラスを私の近くに置く
「勉強中に喉がカラカラだと集中できないでしょ。」
「とりあえずこれ飲んでおきなよ。」
…
アハハ…
「いいよ…」私は背中を大きく反らし、目を閉じ、口元が歪んだ笑みを浮かべる
「気にしないで。」
「まだそんなに喉乾いてないし。」
「それに、」
「勉強中にトイレ行きたくなったら面倒でしょ。」
……
「じゃあ計画終了ってことね。」私は頭の中で呟く
……
「確かにね。」あいつは顎に手を当て、にこにこ笑う
「それは確かに面倒だ。」
「でも少なくとも喉カラカラになるよりマシでしょでしょ。」
…
「とにかく…」あいつは目を細めて私を見る、顎を手に乗せて
「水分不足だと勉強効率落ちるよね?」
……
「そこまで本気なの!?」私は顔を歪め、目をぎゅっと閉じ、顔を背ける
「そんなに見たいの!?」
…
「でもそう簡単にはいかないよ。」私はグラスを睨みつける
……
サッ。
「…」片手がグラスに伸び、体を低くし、もう片方の手でお腹を強く押さえる
…
ゴクゴク…ゴクゴク…
「…」グラスがだんだん空になり、同時に目を固く閉じる
………
コトン!
「これでいいでしょ?」私はコップをテーブルに置き、あいつをまっすぐ見る
…
「もう待つのやめなよ。」私は目を閉じ、時計の方に手を向ける
「明日も朝早く学校あるんだから。」
…
スッ。
「確かにそうだね。」あいつはお菓子の皿をどかし、本がテーブルを埋めていく
「遅刻するわけにはいかないよね。」
………………………………………………。
カリカリ…カリカリ…
白い紙の上に黒いインクが徐々に広がっていく
ページが次々とめくられる
二人の視線は自分のノートから離れない
…
「何も起こらない…」私は目を大きく見開き、ノートを見つめ、手の動きが遅くなる
「結局あいつ何もしないつもりなの?」
「私が言うのを待ってる?」
「それとも何か別のタイミングを待ってる?」
……
カリカリ…
「ねえ。」あいつが顔を上げ、私を見る、手の動きが止まる
「質問あるなら教えてよ。」
「午後、助けてって言ってたよね…」
「でもよく分からなくて、結局…」
「今結構順調に進んでるじゃん。」
…
ポリポリ…
「実は…」私は片手を頭に当て、背中を丸めたまま、顔を逸らす
「言うの恥ずかしいんだけど。」
「私、ちょっと苦手なとこあるんだよね…」
…
「教えてくれない?」あいつは首を傾げて私を見る
「どこが弱いか分からないと助けられないよ。」
…
「あの…」私は顔を背け、視線を左に泳がせる
…
スッ…
「大丈夫だよ。」あいつは手を私の方に差し出す
「笑わないから。」
「言ってみて。」
…
スッ…
「実は…」私はそっと本をあいつの方へ押す
「ここらへん…あんまり得意じゃなくて…」
……………
パラパラ…パラパラ…
「なるほどね。」あいつはページをめくり続け、口元に笑みを浮かべる
「予想通りだ。」
……
「へ?」私はあいつの方をチラッと見て、顔色が青ざめる
「あいつ知ってたの?」
「最初から分かってた?」
「私が言うのを待ってただけ?」
「冗談でしょ?」
…
ギリッ…
「何様のつもり!?」私は歯を食いしばる
「ちょっと知ってるからって…」
「それで一番偉いわけじゃないでしょ。」
……
ハハ…
「分かってる…よね…」私は目を閉じ、唇に薄い笑みを浮かべる
「私ほんとダメだね。」
「みんな最初からできるわけじゃないもんね。」
…
パタン…
「そんなつもりじゃないよ。」あいつは本を閉じ、目を丸くして私を見る
…
「え?」私は体を起こし、呆然とあいつの顔を見る
…
「いや、確かにこの部分難しいよね!」あいつは本をくるくる回す
「他の学校に比べたらうちの学校って…」
「カリキュラム進むの異常に早いよな。」
…
「あんた…何言ってるの…」私の目が少し震え、あいつから視線を外せない
…
「ほら、見てよ。」あいつは指を上にあげる
「普通の学校の生物なんて大抵ここまでやらないよ。」
「うちはもうDNA分岐までやってるんだから。」
…
ペラペラ…
「それだけじゃなくて…」あいつはページをめくり続ける
「分岐構造とか変異とか組み合わせとかも覚えないといけないし…」
「まだ1学期終わってないのに全員…」
「AaA’a’とBbB’bの遺伝子組み合わせ図描けって。」
「誰がそんなの分かるのよ!」
…………
ギュッ。
「じゃあなんで…」私は顔を伏せ、両手でお腹を強く抱える
「なんであんたは全然苦労してないの?」
「それに他の科目も同時にたくさんやってるじゃん?」
…
「だって全部結構シンプルだから。」あいつは首を傾げ、本の向こうから私を見る
「公式通りにやればいいだけ。」
「何が難しいんだろうね。」
…
「じゃあ教えてよ!」私はあいつの目をまっすぐ見て、体をテーブルに投げ出す
「なんでクマ科が地域ごとに違うの?」
「なんで近縁種なのに全然似てないの?」
「なんで血のつながった兄弟は恋しちゃダメなの?」
「なんでカモノハシって生き物がまだ存在してるのよ!」
…
「…」あいつは固まり、目を丸くして私を見る
…
ハァ…ハァ…
「どう…」私の頬が少し赤くなり、口が半開きになる
「まだ簡単だって言う?」
…
「そうか。」あいつは微笑み、首を傾げる
「じゃあ一つずつ答えるね!」
…
「まず動物について。」あいつは本を見上げる
「この惑星、場所によって全然環境違うでしょ。」
「極端に暑いところ、極端に寒いところ。」
「水が極端に少ないところ、水が極端に多いところ。」
「そして住むのに理想的なところもある。」
…
「動物はただ環境に適応してるだけ。」あいつは私のノートを指す
「人間だって地球全体でみんな同じ顔してるわけじゃないじゃん?」
…
「…」私の目が大きく見開き、手が凍りつく
……
ヒョイ。
「で、二番目の質問。」あいつは二つのグラスを手に取る
「これはちょっとデリケートで面倒なんだけど…」
「簡単に考えればいいよ。」
…
コポコポ…
「炭酸飲料のペットボトルを二つのグラスに注ぐとする。」あいつはグラスに水を注ぎ続ける
「しばらく経って、短くても長くても、二つを混ぜる。」
…
トン
「最初はほとんど違い分からないかも。」あいつはグラスをボトルの横に置く
「同じ飲み物、同じ色、同じ味。」
…
コン…コン…
「でもよく見ると…」あいつはグラスを軽く叩く
「そのグラスの炭酸、結構速く抜けていく。」
「最初に君が注いだグラスに比べても。」
…
「あれって…」私は目を泳がせる
……
「で、カモノハシについては…」あいつは天井を見上げる
「人生ってほんと予想外だよね。」
…
バラバラ…
「…」私はページをめくり続け、視線を泳がせる
…
「そんな単純なこと…?」唇が震える
「そんな簡単な理由なの?」
「ふざけないでよ…」
「あいつこれで私を圧倒する気?」
………
ガタッ。
「それだけなら。」あいつはゆっくり立ち上がり、遠くのテーブルに視線を向ける
「ここにいて。」
「ちょっと個人的なこと書かなきゃいけないから。」
「何かあったら呼んでね!」
…
「え?」私の目が固まり、顔を上げて後ろ姿を追う
………………………………………………………………………
カリカリ…カリカリ…
黄色いランプの下、小さな机の上で
周りを本が埋め尽くす
あいつはそこに座り、手が止まらない
耳には光るヘッドホン
…
ムッ…
「何考えてんのよあいつ!!」頬を膨らませ、両手をだらんと下ろす
「そういう意味だったの!?」
「あいつの目には私ってそれだけ!?」
…
「ふん!」私はベッドの方を向き、目を細める
「見てなさいよ。」
……
ボフッ!
体をベッドに投げ出す
両手を伸ばし、足をまっすぐ伸ばす
服が少しずつ捲れ上がる
…
「ほら、来なよ!」私は唇を軽く動かし、目を閉じる
「これが見たいんでしょ?」
「何躊躇ってるのよ!」




