第二十九頁―戸上ハルという人
カツ…カツ…
陽光が窓ごとに差し込んで
周りの葉っぱがピタッと止まる
黒板に白い文字がだんだん埋まっていく
…
サラサラ…
周りの顔がみんな黒板をまっすぐ見上げ
唇は固く閉じ、目が大きく見開く
白い紙に黒いインクがゆっくり広がる
……
コト.
「ここを見ての通り…」先生がチョークを置いて、体を回して教室を見回す
「化学反応って、いつも自然に起きるわけじゃないんだよ…」
「温度が必要なものもあるし、積分が必要なものもある…」
「そして、自分で条件を作り出して反応させるものもある…」
「方程式書くときは、このポイントをしっかり押さえてね。」
…
「反応条件書き忘れて無駄に減点…」先生が目を閉じ、手を後ろに回して、にこっと笑う
「それは本当に惜しいよね。」
……
サラサラサラ…
その人の手が止まらずに動き続ける
視線がページを素早く行き来
頭を深く下げて、時々黒板をチラ見
…
すっ…
「結局…」唇が小さく動いて、視線をそっと横へ
「何を企んでるの?」
「頭の中、何考えてるの?」
…
…
ピタッ.
「君…」その人が体を起こし、ペンを止めて、私の方を見る
「何か手伝ってほしい?」
…
ふいっ!
「ただ景色見てただけ!」慌てて顔を逸らして、顎を手に乗せる
…
「ふーん?」その人が微笑んで、首を傾げる
「なんかノート追いつかなくて困ってるのかと思ったんだけど。」
…
「そんなの別に難しくないし。」私は出口の方に首を傾けて
「見て写すだけじゃん。」
…
「まあ、そうかもね?」その人が黒板の方に顔を戻す
………
つんつん.
「トガミさん…」学級委員が袖を突いて、体を低くする
「ちょっと迷惑かもしれないけど…」
「ノート、ちょっと貸してくれない?」
「何カ所か書ききれなかったんだ。」
…
「もちろんいいよ。」その人が振り向いて、ノートを差し出す
「どうせもう全部書いたし。」
「間違ってたら後で教えてね!」
…
そっ.
「ありがと。」学級委員がノートを受け取って
「何かあったら言うね。」
……
チッ.
「…」歯をギリッと噛んで、視線をキョロキョロ
………………………………………………………………………………………………………………
「リーン♪」
がやがや…ざわざわ…
みんな徐々に出口に向かう
顔に笑みが浮かんで
机の上に弁当箱が本の代わりに並ぶ
………
こつ…こつ…
「ハル。」オレンジ髪が手を挙げて近づいてくる
「もう終わった?」
「急がないと今のうちに売り切れちゃうぞ。」
…
ガサッ…ガサッ
「ちょっと遅れても大丈夫じゃん。」その人が本をカバンにしまい、顔を少し回す
「どうせあそこいつも暑いし。」
…
チッ…チッ…
「違うって、ハル。」オレンジ髪が顔を伏せて、片手腰に、もう片方で指を振る
「今日に限っては…」
「ケーキがめっちゃ割引中なんだよ!」
「しかも新作の限定品もあるんだぜ。」
…
「でもまあ…」その人が手を差し出して
「普段遅くても買えるよ。」
…
たっ…たっ…
「今日はそうはいかないかもよ。」学級委員が腕組みして、周りを見回す
「聞いたら今日100個限定らしい。」
「しかも全部動物の形だって。」
「まるごと猫一匹みたいなやつとか。」
…
「それなら…」その人が顎に手を当てる
「もう今頃売り切れてるんじゃない?」
…
シュッ!
「信じろよ、ハル!」オレンジ髪が拳を高く上げて、にっと笑う
「俺たちが間に合ったらどうだ?」
「試さないと分からないだろ!」
…
「売り切れても別にいいじゃん。」学級委員が目を閉じて、手を振る
「どうせ他にも種類たくさんあるし。」
…
ズズッ.
「じゃあ一緒に行こうぜ!」その人が椅子から立ち上がる
「最後まで諦めないのが大事だろ?」
…
「それでこそハルだ!」オレンジ髪が拳を肩の高さに下ろす
………
「猫ちゃんの丸ごとケーキかぁ…」私は両手で頬を押さえて、目を閉じ、顔を上向ける
「絶対かわいいよねぇ!」
「他にどんな動物あるんだろう…」
…
ガーン!
「ちょっと、私何考えてんの!?」目を見開いて、体がカチッと固まる
「あれ今日の目的じゃないでしょ。」
「しっかりしなさいよ、私!」
…
きょろっ.
「 」視線をぐるぐる
…
きょろっ…きょろっ…
「え?」唇が小さく動いて、体が凍る
「私だけ残ってる!?」
…………………………………………………………….
ダダダダ…
廊下はまばらな人影
髪が目にちらつく
目を見開き、唇を強く噛む
「間に合って…お願い…!」頭の中がそれでいっぱい
…
はあ…はあ…
「どこ…どこ…」壁に手をついて、ガラス越しに必死に見る
「まさか…」
…
パンッ…
あははっ…
「よかった…間に合った…」唇が緩んで、手がガラスに張り付いたまま
「まだある…猫のケーキ…」
……
「何かお手伝いできる?」エプロンのおばさんが近づいて、にこっと笑う
…
とん…とん…
「おねがいします…」指を何度も差して
「これください!」
…
「ごめんね、お嬢ちゃん。」おばさんが頬に手を当て、目を細めて
「そのケーキ、さっき男の子に予約されちゃってるのよ。」
…
「じゃあ他の種類にしたら?」おばさんが別のショーケースを指す
「今日もかわいいのたくさんあるわよ。」
…
ずるっ…ずるっ…
「だめ…か…」顔を深く伏せて、肩を落とし、手がゆっくり滑り落ちる
……
「あ、そうだ。」おばさんが私の名札を見る
「あの男の子、1-Fのクラスよね…」
…
「お願い、名前教えてください!」体をぐっと近づける
…
「それは困るわね。」おばさんが首を何度も振る
「お客様の名前は言えないのよ。」
…
「そう…ですか…」手がだんだん縮こまる
「そっか…そうだよね…」
……
すっ…
「あら!」おばさんが遠くのテーブルを見る
「もうあの男の子、行っちゃったわ。」
…
ばっ!
「 」視線を合わせて、唇が開く
…
一つのテーブルに男の子二人
オレンジ髪が膝をバンバン叩いて
学級委員がゆっくり食べ物を口に運ぶ
…
タッタッタッ…
「ありがとうございます!」私は出口に向かって走り出す
………………………………………………………………………………………………………………
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
トレーニングルームは人でいっぱい
サンドバッグが揺れっぱなし
目を見開き、汗が飛び散る
……
ぺたっ.
「よし。」ガラスに顔を押しつけて、部屋を見回す
「どこにいるの?」
「結局何してるの…」
…
「そこか…」唇がにやりと歪む
「今度は何企んでるの?」
………
すっ…
「これ、あげるよ。」その人が紙の箱を赤髪の女の子に差し出す
…
「そんなことしなくていいよ!」女の子が体を揺らして、視線を泳がせる
「毎日助けてくれるだけで十分なのに。」
…
「嫌い?」その人が首を傾げ、目を丸くする
…
「違う! 違うってば!」赤髪の女の子が手をブンブン振る
「もちろん欲しいよ。」
…
つんつん…
「ただ…」赤髪の女の子が顔を伏せて、指を突き合わせる
「いつも君がそうなんだもん…」
「私は…何もお返しできないのに…」
「しかも君を巻き込んでばっかりで…」
…
「大丈夫だよ。」その人が微笑んで、箱に手を向ける
「それくらいなら…」
「いつかお返ししてくれればいいから。」
……
がしっ!
「じゃあ遠慮なくもらう!」赤髪の女の子が箱を抱きしめる
「でも中身何?」
…
「開けてみて。」その人が手を引く
…
ぱかっ…
「ハムスターこんなに!?」赤髪の女の子が目を見開き、口を大きく開ける
「ハルくん…今日何したのよ?」
…
「今日購買で売ってたんだ…」その人が指を天に
「練習で疲れてるだろと思って…」
「だからこれ買っただけ。」
…
「全部ケーキなの?」赤髪の女の子が目を離さない
「本物みたい…」
……
ビリッ…
「待って…」赤髪の女の子が震えて、箱を押し返す
「こんなの…絶対すごく…」
「結局いくら使ったの…」
「私が返すから…」
…
「大丈夫だって。」その人が微笑んで、肩を軽くすくめる
「そんなことしなくていいよ。」
「そんなに高くないし。」
…
「そんなわけないでしょ!」赤髪の女の子がその人に飛びつく
「私たちまだ生徒なんだから。」
「どこからそんなお金出してるのよ!」
…
「だから大丈夫だってば。」その人が後ずさって、顔を逸らす
「もらっても受け取らないから!」
…
きゅっ…きゅっ…
「じゃあ…」赤髪の女の子が体を揺らして、顔を赤くして、箱を胸に抱く
「次は…私から何かあげるから…ね。」
「断らないで…分かった?」
「ハルくん?」
…
「うん。」その人が微笑んで、軽く頷く
「楽しみにしてるよ。」
………
「ハムスターちゃんかわいすぎ…!」私は両手で頬を押さえて、目を閉じる
…
ガーン!
「また私…!」目を見開いて、体が固まる
…
「そういうことか…」私はその人を睨みつける
「他人助けるのも結局そのため?」
「女の子の弱点狙って…」
「待ってなさいよ!」
…
「ねえそこの子。」向かいのグループが言う
「昼間にそこで突っ立って何?」
「何する気?」
…
「誤解ですって…」私は後ずさって、首を振る
「私はただ…」
……
すっ…すっ…
その人の背中が武道場から出て行く。
……
びしっ!
「あ!」私は校庭に向かって指差す
「あれ、学校の2年間の花魁じゃない?」
…
「そんな簡単に騙されると思ってんの?」グループが睨んで、腕を組む
「 「体が固まる」
……
こつ…こつ…
「ここで何してるの?」金髪の男の子が近づく
…
「キリュウ先輩!」女の子たちが振り向く
「どうしたんですか?」
「誰か探してるんですか?」
…
「いや…」金髪の男の子が顔の前に手を当てる
「生徒会でちょっと用事があるだけ。」
……
ダダダッ…
「 」私はその人の方向へ走り出す。
……………………………………………………………
廊下は誰もいない
風が髪の隙間を通る
影が空間を覆う
…
はあ…はあ…
「よし…」顎に手を当て、周りを見回す
「結局…どこ行ったの…」
……
「かわいい!」下から声が響く
…
ばっ!
「 」身を乗り出して下を見る
……
「このうさぎちゃん!」金髪の女の子が周りを見回す
「どうやって買ったの?」
…
「実は…そうでもないんだけど…」その人が頭に手を当て、校庭を見上げる
「レンが一緒にいなかったら…今頃…」
…
くすっ…
「ハックンも苦労するんだね。」金髪の女の子が口に手を当て、箱を差し出す
「じゃあ一緒に食べよ!」
…
「見ての通り…」その人が周りを見回す
「僕もう食べちゃった…スプーン一つしか残ってない…」
…
すっ…
「大丈夫だよ。」金髪の女の子がスプーンを差し出す
「私…気にしないから…」
…
「でも僕は気にする…」その人が手を出し、階段を見下ろす
…
ぷくーっ!
「食べないなら…」金髪の女の子が頬を膨らませ、スプーンを握りしめる
「次から君のもの受け取らないからね!」
…
「じゃあ…一口だけ…」その人が体を起こす
………
ぎりぎり…
「うさぎちゃん…なんでよ!」歯をギリギリ噛む
「なんでそんなにたくさん買うの。」
…
「せめて他の人に分けてあげなさいよ。」両手をだらんと下ろす
「バカ…」
………………………………………………………………………………………………………………
「リーン♪」
夕陽が道を染める
部屋は誰もいない
足音が出口へ向かう
…
はぁぁ…
「もしかして私が間違ってる?」視線を細めてその人を見る、肩が落ちる
「もしかして…あの子はただ…」
……
「じゃあね!」その人が周りに手を振って、箱を持って
「明日また。」
……
ぴたっ!
「待って!」足が止まって、唇が動く
「なんで…普段はそんなんじゃないのに…」
「今日に限って…急に…」
…
タッタッ…タッタッ…
「捕まえた!」私はその人を追いかけて、カバンの紐を強く握る




