第二十六頁――信頼の限界(二)
ざわざわ…ざわざわ…
木の枝が風に揺れて揺れる
陽光があちこちに差し込んでくる
校庭に長く伸びる生徒たちの影
服にびっしょり滲む汗の滴
…
カチカチ…カチカチ…
視線に囲まれた部屋の真ん中
あちこちに広がる写真たち
まだ全部開けていない紙の箱
…
「先輩…どういう意味…?」俺の目が見開いて、頭がゆっくり戻る
…
「鈍すぎるって、後輩くん!」神崎先輩が口元に手を当てて、箱の方をチラッと見る
「だから姉ちゃんが言った通りじゃん。」
…
「ちょっと考えてみなよ…」神崎先輩が首を傾げて、目を大きく見開く
「確かに後輩くんはクラスのみんなを支えてたよね。」
「でもさ、F組って最初から…」
「全員ちゃんと登校してたっけ?」
…
「俺…それ…」俺は周りを見回して、無意識に手を伸ばす
…
ドンッ!
「神崎!」桐生先輩が机に手を叩きつけて、こっちを向く
「そんな言い方したら余計に混乱させるだけだろ。」
…
「だってあんたも全然まともに説明できてないじゃん!」神崎先輩が腕を組んで睨む
「最初からそうやってたら…」
……
むぐっ!
「緋和ちゃん…」セーターの少女が神崎先輩の口を塞ぐ
「こっちおいで。」
…
もごもご…むーっ!
「…」神崎先輩が体をくねらせて、手を振り払おうとする
……
あはは…
「許してやってくれよ。」桐生先輩が優しく笑って目を細める
「神崎は悪気なんてないんだ…」
「ただ、タイミングが下手くそなだけ。」
…
「うん…」俺は肩を落として、首を傾げて視線を向ける
「大丈夫です。」
「でも…さっきの…」
「結局、神崎先輩は何が言いたかったんですか…?」
…
「それ、今から言うところだよ。」桐生先輩が箱に視線を移す
「とりあえず、この写真たちを見てくれ。」
………………
がさっ…がさっ…
赤い紐で縛られた写真の束が引き出される
見慣れた校舎の風景
写真の中では見たことのない顔たち
そしてはっきり写ったクラス名札
…
ぱらっ…ぱらっ…
「まだ入学して間もないし…」桐生先輩が俺を見て、写真の束を指でめくる
「クラスのみんなの顔全部覚えてないのも無理ないよ。」
「でも知らなくても…」
…
すっ…
「…同じクラスの奴なら分かるだろ?」桐生先輩が一枚の写真を抜き出す
「そんなに難しいことじゃないよな?」
……
俺の目が見開いて、指一本動かせない
ぼやけた写真、見慣れた壁
黒髪に赤い筋の入った少女
窓枠より低く体を屈めて、振り返る
窓の向こうの手を必死に覗き込んで
手が止まらずにメモを取ってる
…
とんっ…
「分かったよな?」桐生先輩が写真の少女を指して目を細める
「この子が誰か分からなくても…」
「でもこの子のノートに…はっきり書いてあることが一つある…」
「この子…F組の生徒だ…」
…
「きっと…何か…勘違いが…」俺は膝を強く握りしめて、顔を徐々に下げる
「もしかして…他のクラスの…」
「それとも…罰で外に立たされて…」
「もしくは…違う学年のF組…」
…
ぽんっ…
「そんなわけないよ、後輩。」青髪の先輩が俺の肩に手を置く
「全部確認済みだから。」
…
「確認…した…」俺はゆっくり首を回して、目を瞬かせない
…
「知らないかもしれないけどさ。」青髪の先輩が目を閉じて肩を落とす
「欠席リストも全部調べた…」
「1年F組だけが完全に試験欠席した生徒がいたんだ。」
…
「でも…でも…」俺は周りを見回す
「試験欠席したなら…何でわざわざ…」
…
とさっ…
「後輩ちゃん…」前髪で目を隠した少女が体を低くして俺を見る
「休むって言ったからって…」
「本当に休むとは限らないよ。」
…
こつ…こつ…
「そうなんだよ。」桐生先輩が近づいて、肩に写真を乗せる
「先生たちも記録してる。最初は休むって言ったのに…」
「次の日には試験受けたいって申し出た生徒が何人もいた…」
…
「それに、もしかしたら知らないかもだけど…」青髪の先輩が背筋を伸ばして俺をちらっと見る
「うちの学校でF組って…君たちのクラスだけだよ。」
…
「自治週間中…」力強い先輩が腕を組む
「生徒会は毎日きっちり各クラスを巡回してる…」
「だからどんな小さな変化でも…」
「生徒会が一番先に気づくんだ。」
…
ぷはっ!
「なのにそんなことできる奴がいるなんて!」神崎先輩が顔を上げて手を強く引く
「だったら職員室エリアまで突っ込めばよかったのに。」
…
「ダメだって分かってるでしょ。」セーターの先輩が神崎先輩を引き寄せる
「そこは先生専用のエリアなんだから。」
……
「俺…俺…」俺は顔を伏せて、手をぎゅっと絡ませる
「このこと…俺…」
…
きゅっ…
「みんな余計に悪くしてるだけじゃん!」神崎先輩が胸を俺の頭に押しつける
「後輩くんは何も悪くないのに。」
「そんなに必死でF組を助けてくれたのに。」
「まるで自分が犯人みたいに言うのやめてよ。」
…
「…」俺の視線が床に落ちて、唇が言葉にならない
…
「確かに…」先輩たちが互いに顔を見合わせる
「ちょっと…やりすぎたかも…」
…
すっ…
「俺たち本当にちょっと度が過ぎたかもな。」桐生先輩が体を低くして、目を丸くして微笑む
「じゃあこうしよう。」
…
「これ以上は何も言わない。」桐生先輩が箱に視線を向ける
「この上にあるやつ…周りを見てみて…」
「怪しいのがいたら俺たちに見せてくれればいい。」
…
…
こくっ…こくっ…
「…」俺は小さく頷いて、箱を見上げる
…………………………
すっ…すっ…
足音が箱に近づく
視線が俺の背中に突き刺さる
…
ぱらっ…
ぱらっ…
手が写真をめくり続ける
視線がぐるぐる回る
手のひらに汗がびっしょり
見慣れたシルエットの写真たち
…
「あの…」視線を落として、唇が動く
「俺…一つ…聞きたいんです…」
…
「何か見つけた? 後輩くん。」神崎先輩が手を組む
「さすが期待通りだ。」青髪の先輩がにこっと笑う
「…」力強い先輩が何度も頷く
「やっと休める…!」セーターの先輩が体を伸ばす
「ゆっくりでいいから言ってくれ、待ってるよ!」桐生先輩が視線を向けて、手を差し出す
…
…
ぎゅっ…
「俺…本当に知りたいんです…」俺は徐々に顔を上げて、写真を強く握る
「結局…この事件を起こした人…」
「どんな…罰を受けるんですか…」
…
「退学だよ、それだけ。」神崎先輩が頭の後ろで手を組む
「最悪、この学校には二度と戻れない。」
「他の学校にも入れなくなる。」
…
「簡単に言うと――」神崎先輩が俺に体を寄せて、にやりと笑う
「もう――学校――行け――ないよ。」
「少なくとも公立じゃね。」
…
「個人だけじゃなくて…」前髪の少女が手を伸ばす
「クラス全体にもめちゃくちゃ影響出る…」
「真犯人が見つからなかったら…」
「そのクラスはずっと監視されて、無茶な条件つけられて…」
「試験もずっと難しくなる。」
……
「それに公平のために…」桐生先輩が目を丸くする
「もし本当に犯人を見つける手伝いができたら…」
「君だけじゃなく、クラス全体が疑いから解放される。」
「地位も上がるし、それに…」
「校長がくれるかもしれない奨学金もある。」
…
「もう分かってるだろ?」青髪の先輩が首を傾げる
「F組が周りからどんな目で見られてるか。」
…
「もしF組自身がこの事件を解決したら…」セーターの先輩が腰に手を当てる
「君だけじゃなく、大切な友達たちも…」
「みんな得するよ。」
…
「集団の膿を出す…」力強い先輩が目を細める
「自分が守りたいものを守る…」
「クラス全体の価値を上げる…」
「君はF組のヒーローになる…」
「歴史上、どのF組も成し遂げたことのない偉業だよ。」
…
…
ぱら…ぱら…
「…」手が写真を次々とめくり、視線が下に落ちる
…
こつ…
「…」手が絵に触れて、目が見開く
…
渦巻く文字の真ん中
赤いインクで丸く囲まれた一行
周りに書かれた文字
「はっくんがここ超重要って言ってた。」
「絶対忘れないで。」
……
ぱらぱらぱらっ…
手が次々とめくり
写真を一枚ずつめくり倒す
視線が箱の中をぐるぐる回る
そして、一枚の紙が出てくる
…
太い黒インクの数式
他の数字と違う色の小さな文字
ページ上部に刻まれた名前、白川夏芽
そして下に書かれたメモ
…
「赤インクは十神さんが覚えておきなさいって言ったところ。」
「紫の線は絶対忘れちゃダメな公式。」
「特別マークは一番覚えるべきところ。」
「青インクのところは十神さんがそんなに覚えなくていいって。」
……
するっ…
あの写真が目の前を横切る
窓の下に立つ少女
…
視線が吸い寄せられる
遠くの窓枠
唯一見える腕に
見慣れたブレスレット
蓮がいつもつけてるブレスレット
……
「先輩…」唇がわずかに動いて、目を閉じる
「俺…犯人が…誰だか分かった…」
…
ぱんっ!
「さすが後輩くん!」神崎先輩が手を叩いて、笑みを浮かべる
「早く教えてよ!」
「終わったらみんなでどっか行こうよ。」
「こんな空気ずっと続かないって。」
…
ぎゅっ…
「犯人は…」手が強く握られて、視線が机に落ちる
「この事件の犯人は…」
「試験問題を盗んだのは…」
……
「そんなに緊張しなくていいよ、後輩。」青髪の先輩が顎に手を当てる
「名前を一つ言えばいいだけだ。」
「みんな待ってるから。」
……
ぎりぎりっ…
「犯人は…」歯を食いしばる
…
…
「犯人は…俺です…」唇がわずかに動く
…
「ちょっと待って、聞こえなかった!」神崎先輩が耳に手を当てる
「聞き間違いかも。」
「後輩くん、犯人は誰?」
…
…
「犯人は俺です!」顔を上げて、目を細めて周りを見る
「十神はる。」
…
「ちょっとちょっと、大丈夫かよ?」青髪の先輩が周りを見回す
「今は冗談言ってる場合じゃないぞ。」
「これが何を意味するか分かってるのか?」
…
「十神さん。」桐生先輩が首を傾げて俺を見る
「本気か?」
「なんでそんな考えに至ったんだ?」
…
「馬鹿じゃなきゃ他人を庇うために自分を犠牲にしない!」力強い先輩が睨む
「誰も自分の罪を被るなんてしないよ!」
…
「全部俺のせいなんです…」唇が動いて、手が証拠をめくる
「俺がいなければ…みんな疑われなかった…」
「俺が…書いたんだ…」
「俺が…教えて…だからこうなった…」
「だから…」
…
…
「分かった。」桐生先輩が頷く
「もう帰っていいよ。」
「学校からできるだけ早く連絡する。」
「でも、心の準備だけはしておいてくれ。」
………………………………………………………………………………………………………………
わいわい…わいわい…
まだ人が溢れる部屋の中
白い紙のページをめくる手
互いに視線を交わして、紙を並べて比べる
…
ぺた…ぺた…
誰もいない廊下
太陽はまだ沈んでいない
カバンの紐を握る手
周りを見回す視線
…
ばたんっ…
「今…どうすればいいんだ…」ロッカーの扉を閉めて、視線を下げる
「親父は何て思う…どうやって言えばいい…」
「みんな…どう思うんだろう…」
「これからも…続けてくれるのかな…」
…
こつ…こつ…
「ここにいたのか?」影が俺に手を伸ばす
「探しまくったぞ!」
…
「…」目を見開いて、体がゆっくり回る
「…蓮…」
「でも…なんで…」
「今頃…お前は…」
…
「まあ、色々あったんだよ…」蓮が頭をかいて、笑みを浮かべる
「大したことじゃないけど…」
「でもちょっと知っておいた方がいいかもな…」
……
どんっ!
「ここに隠れてたのかよ!」影が俺にぶつかる
「いきなりいなくなるなって!」
「心配したんだぞ、分かってる?」
…
「つめ子…さん…」俺はバランスを取ろうとする
…
「急に練習来ない、昼飯も食べない、教室にも戻らない…」つめ子さんが腰に手を当てる
「デートでもして俺たち忘れたのかと思ったよ。」
……
「おい。」蓮が腰に手を当てて、顔をしかめて周りを見る
「急に割り込んで何だよ?」
「男同士の話の邪魔すんなよ?」
…
「うるさいわ、小林さん。」
「私もはるくんに話したいことあるの。」
…
「みんな…」唇がわずかに動く
…
「並べよ、ゴリラ!」蓮が体を寄せる
「そんなんじゃ誰もお前なんか取らないぞ。」
…
「待って…」視線が下に落ちる
…
「大勢なんか関係ない!」つめ子さんが顔を背ける
「他人に気を使っても疲れるだけ。」
「はるくん一人いれば十分だよ!」
…
「聞いてくれ…」目を細める
…
「そんな性格じゃはるは相手にしないって。」蓮が俺を振り返る
「少なくとも誰かにつきまとわれるよりマシだろ。」つめ子さんが睨む
……
ぎゅっ…
「もうみんなと一緒にいられない!」拳を強く握って、顔を地面に伏せる
…
「…」蓮とつめ子さんが目を丸くする
…
つー…
「ごめん。」唇が動いて、頬に涙が伝う
「全部…俺のせい…」
「俺のせいで…全部…」
…
あははは!
「なんだそれだけかよ!」蓮が天井を見上げて、腰に手を当てる
「それだけ?」
…
「はるくんも同じ?」つめ子さんが首を傾げて微笑み、手を組む
「じゃあ怖いことなんて何もないじゃん。」
……
くいっ…くいっ…
「はっくん…」手が袖を軽く引いて、唇に笑み
「また同じ道歩くことになったね。」
「また助け合おうね!」
…
「雨宮…さん…」頭がゆっくり回る
「結局…これは…」
…
すっ…
「もう大したことじゃないよ…」雨宮さんが俺の頬に手を当てる
「ただ単に…」
「新しいノートに変えるだけ。」
…
「でも…なんで…」目が見開いて、顔が歪む
「みんな…何もしてないのに…」
「なんで…」
…
「君もそう選んだから。」雨宮さんが目を閉じて、頭を抱く
「これでチャラだよ!」
……
ぽん!
「終わったことは終わりにしようぜ!」蓮が首に腕を回して、にこっと笑う
「大事なのは、これからどうするかだろ?」
…
「俺…それ…」顔が固まる
…
「顔見りゃ分かる、まだ何も考えてないな?」蓮が出口の方を向いて、微笑む
「じゃあ俺たちについてこいよ!」
「クラス委員が俺たちみたいな生徒も受け入れてくれる学校、いくつか見つけた。」
「最初はきついかもしれないけど…」
…
「でも何とかなるさ!」蓮が微笑んで俺を見る
……
ぺた…ぺた…
「まだ未練あんのかよ、はる?」蓮がドアに向かって走って、振り返る
「まっすぐ行こうぜ!」
「合わなかったら別のやる。」
…
たっ…たった…
「いつまでも迷ってられないよ。」つめ子さんが微笑んで、ドアに向かう
「どうせここに残る価値なんてないし!」
「勉強はキツイ、周りもろくな奴いない。」
…
すた…すた…
「はっくん…」雨宮さんが手を差し出す
…
…
きゅっ!
「行こう。」俺は手を握って、彼らの影を追う
………
大きな校門の前
二つの影がまだ待ってる
…
「何やってんの遅いんだよ!」白川さんが額に手を当てる
「めっちゃ日差し強いって知ってる?」
…
「仕方ないだろ。」蓮が俺を振り返る
「こいつが遅れたせいだぞ。」
…
「まあいいよ、どうせ色々あったし。」蓮の唇が微笑む
「どっか遊びに行こうぜ!」
…
はぁぁ……
「こんな時間にどこ行くんだよ!」白川さんが鼻筋に手を当てる
…
「私知ってる場所あるよ…」朝霧さんが腰を曲げて白川さんを見る
「もう知ってるでしょ。」
…
「でも…みんなが嫌じゃなければ…」白川さんが頬に手を当てる
…
「どこでもいいよ!」蓮が明るく笑って、門を見る
「行こうぜ!」
………
たったったっ…
笑顔が顔中に広がる
視線が向こう側へ
…
「…」俺の視線が学校の方を振り返る
…
「はっくん?」雨宮さんが首を傾げて、腰を曲げて俺を見る
…
「今行く!」俺は背を向けて、仲間たちに続く
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校舎の最上階
風が髪の隙間を吹き抜ける
タイルの床に長く伸びる影
手すりに寄りかかって、去っていくグループを見つめる影
…
こつ…こつ…
「会長。」影たちが近づく
「あのグループたち、全部処理終わりました。」
…
「よかった!」背を向けた影が周りを見る
「じゃあ俺たちも急いで準備しよう。」
「遅れるわけにはいかないよな?」




