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第8章 見えない距離
再会しても、毎日会うわけではない。
同じキャンパスにいても、距離というものは意外と具体的だ。
廊下ですれ違うたび、目が合って、軽く会釈して、
そのまま通り過ぎる。
それが、再会の正しい形なのだと思った。
ある日、図書館でばったり会った。
理央はノートを広げて、静かに線を引いていた。
湊は向かいの席に座る。何も言わない。
沈黙は、もう“練習”ではなく“会話”になっていた。
ふと、理央が顔を上げる。
「ねえ、秋月くん。あのとき、どうして何も言わなかったの?」
その“あのとき”が、どの場面を指すのか、聞かなくても分かった。
「言ったら壊れそうだった」
「壊してもよかったのに」
「……そう思えるようになるのに、時間がかかった」
理央は笑った。
「それ、今の秋月くんらしいね」
その“らしい”が、少し嬉しかった。
彼女がまだ、自分を見てくれている気がしたから。




