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第7章 再会の音
春の午後。
大学の構内を抜ける風は、どこか高校のグラウンドに似ていた。
歩くたびに、靴底の下で小石が乾いた音を立てる。
その音を聞きながら、湊は思い出した。
——沈黙を共有できる人がいたことを。
講義棟の自動ドアが開いたとき、聞き慣れた声がした。
「秋月くん?」
その一瞬で、時間が重なった。
声の質は変わっていない。けれど、間の取り方が違う。
高校の頃よりも、言葉の“前”に呼吸があった。
理央が立っていた。
大学の制服ではなく、私服の柔らかい色に包まれて。
少し驚いて、少し笑って、少し困った顔。
「久しぶり」
「……うん」
言葉が短くても、沈黙は痛くなかった。
それは、再会の証拠みたいだった。
理央は、大学の劇団サークルのパンフレットを持っていた。
「入るの?」と聞くと、「見学」と答えた。
その声が、あのときの「練習」と重なって聞こえた。
彼女の笑顔は、少し薄くなっていた。
でも、奥にあった“焦りの影”は、もう見えなかった。




