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第6章 噂と別れ
文化祭の翌週。
教室に漂う空気が変わった。
“理央が他校の男子と一緒にいたらしい”
その噂は、何の根拠もないまま広がっていった。
湊は何も言わなかった。
噂を否定する資格が、自分にない気がした。
「見てるだけだった」自分が、彼女の何を知っているというのか。
放課後、教室に残っていた理央が、湊に近づいてきた。
机の上に手を置いて、少し震えながら言う。
「……信じてくれる?」
「信じるとか、信じないとかじゃない」
「じゃあ、何?」
「俺には、聞く資格ない」
理央は笑った。
でも、その笑いは守るための笑いだった。
「……そうだね。
秋月くんはいつも、優しいところで止まる」
湊は何も言い返せなかった。
沈黙は、いつも彼の味方だった。
でもこの日ばかりは、沈黙が刃物のように鋭く感じた。
理央は鞄を持ち直して、出口へ向かう。
「ありがとう、今まで“練習”してくれて。
……本番、いつかちゃんとできるようになるといいね」
その背中を、湊は追わなかった。
追えば、何かが壊れる気がした。
ただ、彼女の影が消えたあと、机に残る指の跡だけを見つめていた。
外はもう暗く、窓に自分の顔が映っていた。
——沈黙で守れるものは、意外と少ない。
湊はその夜、初めてそう痛感した。




