通り雨のあとで
それに気づいたのは偶然だった。
夏の日、さっきまで明るかった空が不意に暗くなり雷雨となって世界を包んだ。
「あー! もう最悪!」
叫びながら僕は走る。
折り畳み傘は今日に限って鞄に入っていない。
制服はもう雨をすっかり吸ってまるで海に落とされたように重い。
鞄の中の教科書は大丈夫だろうか?
「ちくしょう!」
世界はすっかり濁った雨で満ちて視界はもう夜のように暗い。
だけど通学路は頭の中にすっかり入っている。
伊達に二年も同じ高校に通っちゃいない。
走り続ける。
家までもう少し――。
「は?」
雨が段々と弱まり白々しく灰色の雲から太陽が覗いた。
――完全に通り雨って奴だった。
これなら雨が降り出した時にでも木陰に隠れれば良かった。
「なんだよ! ちくしょう!」
足から気が抜けて駆け足が段々と速足に変わり、やがて立ち止まる――はずだった。
「うわっ! やべ!」
突如声が聞こえた。
だけどここには僕しかいない。
「ん?」
思わず辺りを見回した時、僕は確かに見た。
――数歩先に居る僕の影が慌てて僕の方へと戻って来るのを。
「は?」
ゾッとして僕は再び駆け始める。
しかし、当然ながら影は僕から離れたりしない。
「おい! おいおいおい!」
馬鹿みたいだと思いながら僕は必死に駆ける。
雨の重さなどもう気にもならない。
だけど、影は僕から離れることはなく――置いていくことも出来なかった。
夏の日差しは世界を照らし、僕と影が決して離れられないことを残酷に告げていた。