エピソード6 初めての会話
「課長、只今戻りました」
「お、お帰り。どうだった?」
タイピングの手を休め三ノ宮が顔を向ける。
「問題なく終えています。変更箇所もないので、後は当日ですね」
「そうか、ご苦労さん。先方さん南條君だろう。彼はやり手だから、雨宮君も顔繋ぎできておいて良かったよ」
ふぅん。課長が他社の社員をそこまで手放しで褒めることは滅多にない。
「そんなに優秀な方なんですか?」
好奇心には勝てなかった。
「そうだね。元々R社にいた時から知ってるけど、ちょっとした有名人だったよ。仕事は勿論だけど、あの顔で人当たりまで良いからね」
課長の言葉に納得だ。
人当たりか。確かに。リップサービスうまいよな。
祐希は、気分良く帰ってきた心が急に萎んでいくのだった。
「南條さん、何か不具合でもございましたか?急にとにかく来てくれだなんて。
3日後、祐希は南條の会社に急ぎで呼び出しを受けた。
「うん。ここなんですが」
ファイルを指差し説明され、返答する。
「なんだ、そうでしたか。これしきの事で雨宮さんに来て貰って悪いことしちゃいましたね。お詫びにご馳走しますよ。今晩お時間ありますか?」
「えっ?!いえ、とんでもありません。説明が悪くてこちらこそ申し訳ありませんでした」
気を使って誘ってくれてるのだろう。こんな好みのタイプと飲みだなんて嬉しくないわけないが、ここは社会人として遠慮しておく。
「雨宮さんと一度一杯飲みたかったんです。19時ではいかがですか?週末ですし」
「ええと、今週の内にやらなきゃいけない事がありますので、またこ…」
「そうですよね、さすがに19時は早過ぎたか。雨宮さんにはご足労ですが、この近くに良い店があるんです。仕事を終えたらうちの会社に集合にしましょう。それまで私も仕事ができますし」
推しの押しに負けた祐希は、仕事が終わり次第、南條の会社に来る事で了承していた。