エピソード17 告白
片付けも終わり、テレビの前の低いソファに並んでお茶を飲む。交わしていた会話が途切れがちになってきた。
流れているニュース番組に顔を向けている南條は、手にしたお茶も減らずに微動だにしなくなっている。
俺も、何を喋ったら良いかわからないので、チビチビとお茶に口を付けながら黙っていた。
テレビでは、海外で大活躍する野球選手のハイライト映像と成績を写し、解説者の声で語られているのだけが部屋の中で流れていた。
「祐希さん。そろそろ眠くなりましたか?」
顔をテレビからこちらに向けた南條が、沈黙を破り発する質問に、答えが口に出せない。
これって、何て答えれば正解なんだろう。結局、心の声がそのまま口から出た。
「南條さんは一緒に寝ないの?」
「一緒に寝に行ったら、祐希さんは寝れなくなりますよ」
妖しく口元に笑みを浮かべ、瞳は強い意志を秘めたように煌めきを帯びている。眉目秀麗な南條に見据えられて、動けずに座ったまま固まる。
祐希は自分が蛇に睨まれた蛙のようだと思った。「そんなに怖がらないで、聞いてくれる?
祐希さんを今夜抱きたい。だけど、その前に話しておきたいことがあるんだ」
いつの間お茶を置いたのか、南條の両腕が伸びてきて、俺の手からもお茶を取り上げ、祐希を包み込んだ。
南條からふわっと自分と同じソープや柔軟剤の匂いがする。でもいつもとは少し違い南條の男らしい匂いが混ざっていて、包み込む腕が南條のものだと思い知らせる。
安心感を纏わせる腕に抱きしめられ、好きな人の匂いに包まれる。祐希はこのまま時が止まればいいと思う。
だが南條は、不意に両肩をベリっと引き剥がして、祐希の顔の真正面で真剣な表情で話し出した。
「祐希さん。俺、今までは男女問わず、気に入った人とはその場限りのお付き合いをしてきた。無節操にね。今考えると恥ずかしいよ」
眉を顰め辛そうな顔をした南條の告白に、何の告白なんだと、耳を塞ぎたくなる。
「でも、祐希さんのことは本気で大切にしたいんだ。自分でも信じられないくらい、こんなに好きになることがあるんだって思ってる」
南條はそう一気に言うと、冷めたお茶を取りぐいっと飲み干した。
「男同士で何言うんだって思ってるかもしれないけど、俺、生半可な気持ちで祐希さんを抱きたいって思ってるんじゃない。それをわかってて欲しくて」
真面目だなぁ。祐希は緊張した表情の南條を見つめ返しそう思う。もちろん聞きたくない部分もあったけど、俺を思って、俺とそうなる前に言葉を尽くそうとしてくれている。
森下や課長から聞いた女性との婚約については触れてはいないが、過去を全部説明する義務は南條にはないのだ。もう充分だ。
今度は自分の番だ。俺だって、と伝えるつもりで、祐希はそっと南條の脇から腕を伸ばし背中を抱きしめる。
すぐ横にある南條の頬に自分の頬を擦り付けてみた。
南條にもちゃんと伝わっているかな。
「俺も佟慈郎さんが好き」
祐希は、腕と言葉の両方に力を込めて、自分からする生まれて初めての告白を南條に捧げた。




