7話
「そっか、じゃあな」
俺は、雪菜に、手を振った。
雪菜は、先に、部活を終わるっぽい。
雪菜は、どうやら、雪菜の好きな奴「京助」って奴と一緒に帰るらしい。
俺、「昴」は少し、やきもちを妬いているのかもしれない。
俺は、雪菜の事が好きだ。
小さいときからずっと。
でも、雪菜はちっとも、俺の事を男として見てくれない。
京助が、少し羨ましいのだ。
きっと、京助も、雪菜の事が好きなのだろう。
両思いか…。幸せにな。
それにしても、雪菜の姉、「由美」が最近うっとおしい。
ずっと、ベタベタしてくる。
ルックスは良いのだが、俺は、決して好きじゃない。
好きか嫌いかと聞かれたら、もしかして、嫌いと言うかもしれない。
うっとおしい女は嫌いだ。
ああ。最近雪菜と喋ってねーな。
喋りてぇ。
昼休みも、最近全然教室にいないし。
多分、京助と会ってるんだろう。
もしかして、もう、デキちゃってるとか?
ありえるー…。
てゆうか、俺もいい加減諦めないといけないのだが。
叶わないし。
告白する勇気もない。
どうせ、告白したって、「えー?嘘ー?」
で終わりそう。
今度、雪菜を、水族館にでも誘うか。
そうすれば、話す機会なら、できるだろう。
あいつ、水族館好きだし。
そんな事を考えていると、もうすでに制服に着替えた由美が、話しかけてきた。
「早く♪一緒にかえろ?」
ああ、めんど。
「はいはい」
俺は、マイペースに更衣室に向かった。
2年女子のボスのお誘いを断るとめんどくなるから、しょうがなく一緒に帰る。
「あのね、昴くん、雪ちゃんと、京助くん、お似合いだと思わない?」
由美が、帰り途中に、直球質問。
はぁ。
「そおっすね」
俺は、適当に答える。
「じゃあさ、応援しようよ」
はぁ!?俺が応援?
「無理っすね」
俺は、即座に断る。そんなめんどくさい仕事、やってられっか。
「なんでょぉ?」
「だって…」
急に、俺の足と言葉が止まる。
めんどくさい…?いや、そんな理由じゃない。
めんどくさいが理由じゃないんだ。
そうだ。俺は、雪菜が好きだから応援ができないんだ。
「だって?」
由美は聞き返す。
「だって…めんどいし」
俺は、ごまかし笑いをする。そして、また、歩き始める。
ちょっと不自然だったかな。
「昴くん、おかしいよ?なんで止まったの?」
そうだよ。俺はおかしい。
「え?おかしくなんかないっすよ。ふつーふつー」
ああ、不自然すぎる。
なんだ、この演技力のなさは。
「昴くんさ、もしかしてだけどね?もしかしてだけど…」
俺はドキッとする。そして、次、一番言われたくない言葉が由美の口から出た。
「雪ちゃんが、好きなの?」
ああぁ…。どうしようもなくなった。
俺は、目の前の世界が、灰色に見えた。
2人とも、足を止め、沈黙が続く。
そして、由美が、声を出す。
「そうなんだ…。薄々気づいてたけど…」
俺は、じっと、由美を見つめる。
由美は、俯いている。
すると、由美が、パッと俺の方を見て、口を重ねる。
分厚くて、温かい唇が、俺の唇にキスをする。
俺は、何も考えられなくなる。
一瞬の事だった。
俺は、よける間もなかった。
俺はただ呆然とする。
「ごめん。あたしね、昴くんが、大好き。雪菜の代わりで良いから、付き合わない?」
俺は、返事が出来なかった。
あまりの、展開の速さに。
「良いのなら、今度は、昴くんから、キスして?」
そういって、由美は目を閉じる。
良いのか?ココでキスをして。
でも、いつかは、雪菜を諦めなければいけないのだ。
ちょうどいいのかもしれない。由美には、悪いが、俺は絶対お前の事を好きにはならない。
ただ、雪菜の代わりなんだ。代わり…。いつか、心に余裕ができたら、別れて、そのまま一人で生きていこう。
俺は、そう、心の中で念じながら、キスをした。
そして、舌を巻き入れ、由美の口の中で、暴れる。
「…っんっ」
由美は、甘い声を出す。
俺は、由美が、声を出した途端に、唇を離した。
お前じゃない!!お前の声じゃないんだ!
俺は、とんでもない事をした事に気づく。
お前の声なんて聞きたくないんだ…。
雪菜の声が欲しいのに…。
やっぱり、雪菜じゃなくてはダメなのだろうか。
俺は、かがんだ。そして、激しく後悔する。
由美が、俺の異変に気づく。
「大丈夫?どうしたの?」
「ごめん…。俺、やっぱ無理…。雪菜じゃないとダメなんだ…」
「無理矢理させてごめん。代わりと思ってくれれば…」
「だから、ダメなんだ!由美の声が聞きたいんじゃない!俺は雪菜の声が良いんだ…」
俺は、思わず大きな声を出してしまう。
由美は、驚いた様子で、俺を見る。
俺は、立ち上がり、
「ほんとごめん」
そういって、足早に、家に帰った。