5話
この前、あのヒミツの場所で、先輩と喋ってから、先輩は、よくあの場所に現れるようになった。
とても近づいた気がする。
今、その場所に向かおうとしている。
昼休みの時間は、いつも、あそこで、先輩と話すのだ。
最近、先輩と話すのも、慣れてきて、友達感覚のように、喋れるようになった。
でも、実際、いつもドキドキしながら喋っている。鼓動は、一向にゆっくりになる気配はない。
そして、行ってみると、
先輩が、本を読んでいた。
「こんにちわっ京助先輩」
「おっ、雪菜っ」
先輩は、本を閉じて、パンを食べ始めた。
「何の本ですか?」
「んーとね、歴史小説」
「ほぉ…。私、歴史は、苦手です…」
「はは。面白いじゃんか。昔でも、恋愛とかのは、すごく面白いよ」
「恋愛っ!?そんな小説あるんですか?」
「ん、まあね」
先輩は、笑顔で、答える。
そして、私も、ストロベリーパンの袋を開けて、一口食べた。
「んふっおいしぃ」
私は、食べながら、笑顔で呟いた。すると先輩が、ストロベリーパンを指差して、
「いつも、それ食べてるよね」
「はぃっ、おいしいんですよ~これが」
「購買で、いつも、端っこに置いてある奴でしょ?」
「知ってるんですか?」
「うん。まあね」
「知ってる人少ないんですよー!」
「雪菜が、よく買ってるの見てたからね」
「え?見てた?そうなんですかっ」
先輩は、一気に顔が赤くなる。私は、手を止めた。
「いや、俺が買いに行くとき、よく見かけてたから…」
先輩は、照れながらそういう。
なるほどっ。納得。
「そっかー!」
私は笑顔で、またパンをかじった。
いつの間にか、この場所は、先輩と私だけの場所になっていた。
他愛もない話で、いつも昼休みを過ごしている。
隣に先輩がいる事は、とても心が緩やかになった。
「そういえば、先輩、告白された事あります?」
興味本心で、聞いてしまった。
最近、先輩のことが知りたくてたまらないのだ。
趣味や特技。誕生日も全て知り尽くしたいという気持ちが芽生えてきている。
先輩は、また顔が赤くなり、ゴホッて咽てしまった。
「大丈夫ですかっっ!?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。ちょっと咽ただけ」
「す、すみません。変な質問して」
「いや、いいんだよ。…あるよ。されたこと。40回ぐらい…」
「よ、よ、よんじゅっかい!?ごほっごほ」
今度は、私が咽てしまった。
「す、すごい!!」
やっぱり、先輩は、モテるんだなぁ…。すごい人と、私喋れてるんだ…。
「照れるなー。雪菜は?」
聞き返されてドキッとする私。
体制を崩していたのを戻して、
「えと…。ですね。」
「ん?」
「んーっと…」
「あるの?」
「いちおー…あるんですけど…。」
「おおっ!何回?」
「2回です…」
「すごいじゃん!!2回でも!」
「先輩とは比べ物にならないですよー」
すると、先輩は、微笑みながら、私の頭を撫でて、
「比べるものじゃないでしょ。ちゃんと好んでくれる人がいてくれるって事だけで十分じゃん」
先輩の手は、とても大きくて、温かかった。
いつも、私は、先輩に教えてもらうことばかりで、申し訳ない気持ちになった。
すると、私は、良い案を思いついた。
「あ、もう、こんな時間だ。いかなきゃ」
「あ、先輩っ!ちょっと待ってください」
「ん?」
「あの…先輩、いつもパンでしょ?」
「うん」
「私、明日作ってきます!!ちょうど、明日、久しぶりに弁当作ろうって考えてて…」
「本当?」
「はいっ!!」
「じゃあ、頼もっかな。よろしくね」
「はい!ぜぇぇぇったい、おいしいの作りますから!」
そういって、手を振り、別れた。
恩返し出来ると思うと、やる気がぐんぐん湧いて来た。
明日、絶対おいしいの作って、先輩に喜んでもらおう。
先輩の喜ぶ姿が、目に浮かぶ。
明日が楽しみ♪