10話
「それでね、今日、昴にお礼言っといたんだー!」
私は、京助に笑いかける。
昼休み、いつものところで、二人、のんびり昼食だ。
「へぇ。確かに昴のおかげだね」
「うん。もう、昴良い奴だよね」
「うん」
「もう、12月だよね。来年のバレンタイン昴に義理チョコ渡そっかな」
私は、笑いながら、そう言うと、京助が、いきなり私の、腕を掴み、
「俺は?」
私は、ハッとする。
「ご、ごめん。当然、京助にも渡すよ?」
「本命?」
「と、当然じゃんかぁ!」
私は、笑いながら、答える。京助は、私を真剣な目で見て、
「目、閉じて」
私は、驚きながらも頷いて、目をゆっくり閉じる。
すると、なぜか、私は、震えがとまらなくなった。
京助は、顔を近づけてキスをしようとすると、雪菜の異変に気づく。
「なんで、怯えてるの?」
私は、ビクッとする。
私が、そっと目を開けると、目の前に、辛そうな顔をしている京助がいた。
「どうしたんだよ。雪菜。おかしい」
私は、涙腺が緩んで、涙が溢れてくる。
あれ…?何でだろう。
何が悲しいの?
私は、京助をすごく傷つけた事に気づく。
「ご…ごめん。なんか、急に怖くなって…」
「怖い?」
「わかんない…。なんでだろ…。涙が…止まんないよぉ…」
私は、目から出てくる涙を、必死に止めようと、手で拭く。
「目元が真っ赤になってる。あんまり、キツくこすらないほうがいい」
「ごめん…ごめんね京助」
「良いから。何があったの?昴と何かあったのか?」
「あの…あのね…。あたし、昴にキスされたのっ…。それで、今日、謝ってた。昴が…キスしてごめんって。でも、あたし、昴のキスは無かった事にした…悲しかった…」
京助は、私の涙をハンカチで拭いている手がピタッと止まる。
「嘘…だろ。なんで悲しいんだよ」
「ごめん。この前、屋上で、昴に、好きだって言われて…。キスされた…っけど、密かに嬉しいって思ってたあたしがいたのっ」
「それって…雪菜は、昴が好きって事か?」
「だけどっ…京助も好きなのっ!もうわかんないょぉ…自分で自分がわかんないのっっ」
私は、泣き崩れる。
涙が、どんどん増してくる。自分の情けなさのために流れているのかもしれない。
分かってたんだ。最初から。昴が好きって気持ちが密かにある事が。
でも、その気持ちを消そうとしてた。
「俺と、昴だったら、どっちが大事?」
「ど、どっちも大事…」
京助は、ゴホンッと咳払いして、
「じゃあどっちの方が好き?」
私は、答えが出なかった。
どっちも五分五分に好きなのだ。
「答えられない?」
雪菜は、もうすでにいつものような、明るい目は消えていた。
私は、そっと頷いた。
京助は、微笑み、私の頭を撫でながら、
「じゃあ、距離を置こうか」
「…え?」
「このままでいても、雪菜は、苦しむだけだろ。ちょっとは、選ぶ機会与えないとな」
「いいよっ別れなくて!!」
「お前は、自信あるのか?自分は、大丈夫だって。昴への気持ちを消すって」
「…。」
「だろ?じゃあ、距離を置こう。まあ、俺は、お前の真の好きな人になれるように、アタックするけどな。昴にも、伝えとく」
京助は、立ち上がり、校舎の中に入る。
あぁ…せっかく、念願の京助と付き合えたのに。なんなのさ。一日で、揺るぐなんて。
雪菜のばかぁっ。
てゆうか、なんで、言っちゃったんだろう。隠しとけば、こんな事には…。
どうしようもないなぁ…。
私は、自分で、自分の頭を一突きした。
「すみませーん。昴くん、ちょっといいかな?」
京助は、昴の教室のドアで、昴を呼ぶ。
「あ、はい。なんでしょうか」
昴は、こちらに向かってくる。
京助は、廊下の端っこに、昴を連れて行く。用件を話す。
「俺さ、雪菜と別れた」
急な発言に昴はえっ!?と驚く。
「な、なんでですか?」
「雪菜は、俺の事も好きだし、お前の事も好きらしい」
「えぇっ!?でも、俺、振られたし…」
「密かに好きだったってよ」
「ま、まじですか…」
昴は、下に俯く。
「だから、俺と昴、勝負しよう」
「へ?」
「そうだな。雪菜が、どっちか選ぶまで、アタックしまくるって事で」
「え、そんな、難しいでしょ」
「その方が、お互いの事知れるし、ちゃんとけじめが付けられると思う」
「む、無理です」
「お前は、雪菜の事、本気で好きじゃないのか?」
昴は、顔を上げて、
「好きです!」
「じゃあ、決まり」
「頑張ります」
「うん、じゃあね」
「はい」
昴は、一息つく。
まさか、雪菜が、俺の事をちょっとでも、見ていてくれたなんて。
信じがたい事だけど、信じるしかない。
くそっ雪菜の奴。俺を振り回しやがって。
俺は、フッと笑った。