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雷の如く猪の如く駆けるバカ  作者: 神崎愛架
2/2

一歩

「帰れ」


私の冒険者ライフ、開始1秒で終わりました。

いや、登録すらしてないからむしろマイナスか。


聞いてくれよ、君たち。

私はレヴィア、Sランク冒険者を夢見る女の子だ。目標は高く、っていうしSランクって無条件でかっこいいからなりたい。

その第一歩を歩むべく、冒険者の登録をしようとギルドを訪れたんだけど…。


はい、そこで冒頭に戻ります。

受付嬢でもない方、それも入口付近でぐうたらしているおじさんにくそなげぇ足で道を塞がれた上に門前払いされました、なぜ。


「ここはガキが遊びに来る場所じゃねぇんだ、帰りな」


うわ、この人もう1回同じこと言った、ちょっと詳しくなったけど同じこと言った。

というか、私ガキじゃないんだけどな。背が低いと幼く見られて大変不愉快ですわよ??


「あなたに用はないので失礼します」


私はおじさんを素通りして受付へ立つ。


「受付嬢さん、冒険者登録をしに来ました。よろしくお願いします!!!」


ギルド中に響き渡る声量で言ってしまった、あらヤダ恥ずかしい。


「はい、こんにちは。登録に必要な書類の記入をお願いしますね」


笑顔で優しいお姉さんに紙とペンを渡されました。このお姉さんすごく美人、いいな。私もこうなりたい。


「登録にあたって検査をするのですが、説明を致しましょうか?」


紙に名前を書いていると聞かれたので、お願いしますと頷いた。


「まず、こちらで用意する魔力水晶に手をかざしていただき、ステータスボードを作成します。ステータスボードには魔力の有無、その種類、体力、知力、五感、固有スキルの詳細等の情報が記載されています。こちらの情報をもとに冒険者としての資格、該当のランクを決めさせてもらいます」


うんうん、このステータスボードはすごく大事なんだよね。今の自分の状態をよく知れるし、これをもとに今後どこを鍛えればいいのかとか、自分が得意とする戦い方とかを勉強できる。


「次に実戦をして頂きます。現在どのくらいの実力があるのか、この検査で戦闘におけるランクを決めます」


元から実力があるなら最低ランクのEからじゃなくて実力相応のランクから始められるんだね。ランク上げって結構面倒くさそうだからありがたい制度だよね。


んじゃ早速ステータスボードの作成からいきますか。


透明色の水晶に手をかざす。透明なはずの水晶はその人の魔力に反応して様々な色に光る…のだけど。


「あ、あれ?魔力水晶のバグ…?いえ、そんなはずは」


受付嬢のお姉さんもびっくりしてるね。水晶が光ってくれないとボードが作成中なのか、反応してないのか、故障してるのかわかんないし。

まぁ、なんとなく想像できていたけど。


しばらく待ってみると水晶に文字が映し出される。きちんと作成はできたみたい。

どれどれー?

「魔力なし、体力D、知力D、五感D、固有スキルなし!!うーん、微妙!」


ここまで特筆することがないと笑えてくるなぁ。


私の声を聞いて後ろでどっと笑いが起きる。


「おいおい、魔力もなけりゃ固有スキルもねぇのかよ。今時そんなやつ田舎でもいねぇぜ」


先程のおじさんにすごくバカにされてます。うん、ムカつくから殴っていい??未来有望な新米冒険者の種になんてことを言うんだね。

おじさんを思いっきり睨んでいくと受付のお姉さんが申し訳なさそうに言ってくる。


「このステータスでは冒険者にはなれないかもしれません」


えっ、冒険者になれないとかあるの?聞いたことないんだけど。


「冒険者は命を賭ける危険な仕事です。初期ステータスが優秀な方でも死んでしまうのに魔力も固有スキルもない方を冒険者にする訳には……」


えええええええ!?

お、お姉さん!!!救済の余地は!!!!


「冒険者は実力主義です。ですので次に行う実戦で証明するしかありません」


非常に難しいでしょうが。と語尾に付いてませんかお姉さん、少しは私に期待してくださいお願いします!!!


「ならとっとと実戦させてください!!!相手は誰ですか、叩きのめしてやりますよ!!!」


涙目で訴える私にお姉さんはちらり、と私の後ろを見る。お姉さんの視線の先にはニヤついた顔のおじさんがいた。


「Bランクのシャルフだ。あんたの実力楽しみにしてるぜ、お嬢ちゃん?」


「冒険者にすらなってないお嬢ちゃんに負ける覚悟はできてる、おじさん?」


「お、お二人とも。ここではなく外に出ましょう。ね?」


今すぐに喧嘩が始まりそうな険悪ムードにお姉さんが仲裁に入る。お姉さんに連れられて私たちは近くの森に来た。


「ここは場所も広くひらけているので実戦にもってこいなんです。」


お姉さんはひと息ついた後私の方を見る。


「本当に受けますか?シャルフさんは手加減しないで有名なんです。怪我をおってもこちらで責任は負いかねます」

それでも貴方は冒険者になりたいですか?


お姉さんはすごく優しい人だ。めっちゃこっちの事心配してくる。


「お姉さんには私がか弱い子供でわざわざ冒険者になる必要も意味もないと思うのかもしれません。もっと他の選択肢があると思うかもしれません。でも、私にはこれしかない。冒険者になれないなら死にますよ」


真心には真剣に。確固たる意思が伝わるように。


「分かりました、ルールを説明します。シャルフさんに一発入れてください。ただそれだけです。"己の実力を示せ、汝の意思が万物より堅いのであれば"」

お姉さんが少し離れたところに位置したのを確認しておじさんと向き合う。


「お嬢ちゃん、武器は?ねぇなら素手で行かせてもらうぜ」


うーん、おじさんめっちゃ筋肉質なんだよね。全体的にバランス良く鍛えてるっぽい。おじさんが魔法を打つようには見えないし、身体強化系のスキルかな。

そうだねぇ、私別に素手が強いわけじゃないし、生身でおじさんの攻撃受けられるほど頑丈でもないから、これを使わせてもらおうかな。


私はそう言って近くの木の枝を1本手折る。


「これでいかせてもらうよ、だからおじさんも剣でも何でも使いなよ」


おじさんは目を見開いて豪快に笑った。ひとしきり笑うと何もない空間から剣を1つ引き抜いた。

え、いいなそれ。四次元ポケット?持ち運びちょー楽じゃん。欲しい。


「剣を抜いていいって言ったのはそっちだ。冒険者なら自らの発言に責任をもてよ?」


まるで私がおじさんに剣を持たせて後悔するみたいじゃんか。後悔するどころか土下座で感謝できるレベルでありがたい話なんだけどな。素手でこられた方が負けそうだし。


「先手はおじさんに譲るよ。私後手に回った方が強いからさ」


このくらいのハンデは許して欲しいなー。


「そうか、なら遠慮なくいく」


おじさんは一気に私との距離を詰めると大振りに剣を振るう。

大振りに見えて第2撃にも備えてる。一撃で仕留める想定はしてない、か。嬉しいことだ。

なら私も応えようか。


木の枝を斜めに構え、剣を、正確には刃のついていない側面を押し返す。


たかが木で、鋼の剣を弾き返したように見えたその動きにおじさんの動きは少し固まる。

ほんの少し、それで勝敗は決まる。

『固まった』

その事実は揺るがないし、私のように速さで勝負するようなやつには命取りだ。


-ヒュッ


気がついた時にはおじさんは尻もちをついていて、私の持っている木の枝は的確に頸動脈に当てられていた。

私が真剣を持っていたならおじさんは死んでいる。


「こりゃ参った。いったいどうやったんだ?俺の剣は木にすら負けちまうほど軟弱だったわけじゃないよな?」


それはないでしょう、鋼が木に負けるだなんて話聞いたことないよ。


呆れたようにおじさんを見ると、おじさんに睨み返された。事実を言っただけなのに酷い。


「私はただ如何に相手との腕力差を覆すか知っているだけだよ。それに今回、おじさんは一切スキルを使わなかった。使われてたら私が負けてたさ」


「はっ、舐めずに始めからやっていれば……か。敗因は俺の慢心か」


いやいや、どんな方法であれ、スキルを使わせなかった私の作戦勝ちだってば。


「ハハハハハ。そうか、どのみち俺の負けだったわけか、完敗だよ」


おじさんは立ち上がるとこちらに手を差し出してきた。


「ようこそ、冒険者の世界へ。先程は失礼な態度を取ってすまなかった。改めてよろしくな」


「別に気にしてないよ。おじさんなりに冒険者の適性があるか否か選別していただけでしょう。あんな態度を取られたら腐れなく諦められるだろうから」


そう言って私はおじさんの手を握り返した。


「そこまで見抜かれてたか、こりゃ有望な人材が入ったもんだな。合格だ合格」


ここまで完全に負かされるとはなー、俺も鍛え直さないとな、だなんておじさんがぼやく。


少し離れていたお姉さんがこっちに戻ってきて、おめでとうと言ってくれた。


よかった、冒険者になれるみたいだ。

-拝啓親友よ、私は今日冒険者になります。貴女が繋いでくれたこの世界を、もう一度見て回ります。どうかそれまでお元気で-

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