時代遅れのマッチ棒
一昔前の“唄”に毒されたオトコ達へ投げ付けてやれ。
立つモノに汚されてしまって、とにかくシャワーで流した、涙と一緒に。
自分勝手なカレは先にシャワーを浴び終えて、今頃は自分の身だしなみを気にしているのだろう。
髪も洗わざるを得なかったので鏡の前で慌ただしくドライヤーを当てていると、ベッドサイドの電話がけたたましく鳴り、受話器を取ったカレの「しない!出る!」というぶっきらぼうな声がした。
何か言われる前に私はコートを羽織って、マフラーの上に生乾きの髪を零し、先に部屋を出てエレベーターに乗り込もうとするカレの後を追った。
エレベーターの中では無言だったカレは扉が開くと、ホテルに併設の喫茶店へ入って行く。
「コーヒーでいい?」
座るのはカレが先で、こう尋ねるのはいつも私。
カチャン!とコーヒーが置かれてウェイターが離れた後、カレはようやく口を開いた。
「オレ、お前を泣かせてばかりだからよ! 別れよ!」
「どうして今、そんな事言うの?!」
「ん、オレ、自分自身にアイソ尽きたからよ! そしたらお前にワルイなって! 早く別れてやんなきゃってさ!」
こう言いながらカレはタバコを咥えながらポケットをまさぐる。
「ライター……」と口走って私は自分のバックを開けると
「いいよ」と手で制してカレはウェイターを呼ぶ。
「兄ちゃん!マッチねえか?」
若いウェイターがレジの下をまさぐって店の名前の入ったブックマッチを持って来た。
カレは1本折り取って火を点けようとするが点かない。
点かないのが3本続いて舌打ちするカレ。
見かねた私は黙って“自分では使わない”ライターをカレの目の前に置くと、カレはうるさそうにそれを手で跳ね、ライターはテーブルを滑って私のコーヒーのソーサーにぶつかり床に落ちた。
「おい!このマッチ点かねえぞ!!」
すると、年かさのウェイターが別の店の名前の入った箱マッチを持って来た。
「こんな古いのが点くのかよ」モゴモゴ言いながらカレがマッチを擦るとパッ!と炎が上がり咥えタバコに火が点いた。
「ヤッパ ちゃんとしたヤツじゃねえといけねえな!」
そう言いながらカレは……
屈んでライターを拾い上げた私の首筋に煙を吐き掛けた。
「じゃあ行くわ! オレの名前、アドレスから消しておけよ!」
テーブルに残された伝票。
飲みかけのコーヒーに平気でタバコを投げ入れて行ってしまう様なヤツを……
どうして好きになってしまったのか?
分からない。
どうして付き合い続けたのか?
それは……
それはきっと、注いだ気持ちが、時間が、お金が?……無になるのが怖かったから。
なのに私は……今、涙じゃない他のモノが零れ出て
席を立てなかった。
カレを追えなかった。
私は灰皿に残された燃え尽きたマッチ棒を見た。
燃える事が出来ずにうち捨てられたブックマッチを見た。
どちらも用無し。
私が席を立てたら
途端にゴミ箱行きだろう。
それは遠くない未来の“アナタ”の姿。
でも私は今、テーブルの上に置き忘れられた古い箱マッチをそっと手の中に隠す。
アナタはきっと忘れてしまっているのだろうけど……
付き合い始めの……アナタのやる事なす事すべてが新鮮に思えた頃に、摩擦マッチの作り方を教えてもらった事を、私はちゃんと覚えている。
だから、私はこのマッチ箱を使って
私だけの摩擦マッチを作る。
そうしたら私は
独りで燃える事が
できるんだ。
まあ、黒楓の月曜はこんなのがお似合いですよ。どーせ!
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