表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒューマンシステム 〜私たち、マシンに繋がってないと役に立たないの〜 生体兵器はヒトでありたい  作者: みつなはるね
第3章 彼と彼女のDetermination

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/116

第4話 彼女の休暇と先輩

 ――寒い。凄く寒い。頭が痛い。


 休暇初日、ラディウは震えながら自室のベッドで丸くなっていた。


 夜明け前からずっとこんな感じだ。体中が痛くて怠い。早鐘のような動悸が苦しい。


 誰かと何かを話して、その後一瞬だけ眠ったような気がした。人の動きと気配を感じて、ラディウの意識が浮上する。


「ラディウ?」と声をかけられ、薄っすらと目を開くと、スミスが立っていた。


「どうして……? 先生、ラス・エステラルじゃ……?」


 苦しげに呟く。


「こっちに戻ったんだよ。熱が高いね。ちょっと診せてね」


 スミスはラディウを診察すると、看護師に採血の指示をだす。


「疲れが出ちゃったかな? 水は飲める?」

「……明日には治るかな……企画展」


 ラディウがうわ言のように呟く。スミスは怪訝そうな顔をして、端末を操作し彼女のスケジュールを確認する。すると、翌日にティーズとの外出予定が組まれていた。


「今日から休暇だったか。残念だけど外出許可は取り消し。元気になってからだ。大尉には連絡するから心配しなくて良い。寝てなさい」


 看護師が採血のキットを手に戻ってきた。チクリと腕に針が刺され、ラディウは僅かに顔を歪める。


「しっかり水分をとって安静に。また後で様子を見にくるよ」


 そう言ってスミスは検体を手に去っていった。


 ――ちょっと疲れて気が抜けると、すぐこの有様だ。


 ラディウはションボリと布団をかぶって丸くなった。






 結局彼女はこの日から3日寝込み、休暇が後半に入るとティーズは都合をつけて、約束通り彼女を市街地へ連れて行ってくれた。


 夕方前にはアパレルショップや雑貨店のショッパーと、ティーズに渡されたお土産のお菓子を手に居住フロアへ戻り、ラウンジの前を通りがかった時、訓練着姿のスコット・ハートネットが「よぅ」と片手をあげた。


 ラディウは手にした荷物を危うく落としそうになる。


「え? スコットさん!? その格好……まさか」

「残念ながらそのまさかだ。今日からBグループ復帰。よろしくな」


 肩を竦めながらスコットは苦笑する。


「……メリナさんの推薦?」


 微かに眉をひそめたラディウに、スコットは違うと手を振った。


「彼女は関係ないよ。あの戦闘の後、艦で簡易検査を受けさせられてさ、その結果を見たDr.ポートマンの命令。艦を降りれば関係なかろうと無視してたら、ラボから迎えが来て捕まった」


 ラディウは心底気の毒そうな顔をした。


「折角の休暇が全部、検査に潰された」


 ガシガシと頭を掻きながら彼は「観たい映画があったのに」と愚痴を零す。


「な? おかに上がると逃げられないだろ?」


 ラディウは黙ってコクコクと頷く。


「メリナが言ってたタイプのコッペリアを、実戦運用できる人材がいないんだと。俺のスキル値が条件を越えたって事で、再調整と訓練だってさ。よろしく頼むな」


 特にここ数年のラボは、Aグループの件もあって深刻な人材不足なのは否めない。


「こちらこそ……色々教えてください」


 ラディウはそう言いながら、一旦荷物を近くの椅子の上に置くと、スコットの向かい側に座った。


「そっちはどうだ?」

「Dr.ポートマンの指示に逆らったのを、Dr.ウィオラから注意されたけど、その辺りはまぁなんとか。コンテイジョン現象もちゃんと説明してもらったし……」


 逆らって怒られる事はよくあるので、ラディウ自身はそれほど気にしてない。しばらく大人しくしていれば、いずれ嵐は過ぎ去る。


「心配していた例の相手とは、話せたのか?」


 ラディウはうなずいた。


 ヴァロージャは彼女が帰った翌日から、双方向BMIを扱うための、2回目のナノマシンの処置が予定されていた。その為に彼はラボに帰ったらすぐに研究棟へ行ってしまった。その間にラディウはウィオラから説明や許可を取り、戻った彼と昨日ようやくここの屋上庭園で話すことができた。


 その時のことを思い出し、彼女はハァとため息をついた。


「会ってコンテイジョン現象の事を話したら、彼もう知ってた。1回目のナノマシン処置を受ける前に説明を受けたんだって。結局、私だけ知らなくて……大尉が言った通りだった……私が不安定すぎた。あんなに大騒ぎして、馬鹿みたい」


 ソファに座ってガックリと項垂れる。情けなさと恥ずかしさで両手で顔を覆うと、ロージレイザァでティーズに吐いた暴言や、ヴァロージャとの会話を思い出し、ジタバタと1人で身悶え始めた。


 思い出すととにかく恥ずかしくて、耳まで赤くなっている感じがする。


「いや、それについては俺も責任があるから……おい、大丈夫か? 落ち着け。へこむなよ?」


 スコットは腰を浮かせ、センターテーブル越しに彼女の肩をたたいて慰めると、ラディウは大丈夫と顔を上げた。


「でも私……ヴァロージャが許してくれても、まだ自分を許せないんです」

「彼は君を許しているのに頑固だな。まぁでも、君がそう思うなら、今はそれで良い。でもいつかは自分を許すんだ。それができるのは自分だけだから」

「うん……」


 ラディウは頷いて穏やかに微笑すると、スコットは「ゆっくりな」と笑いかける。


 ふと彼女が思い出したように手を叩いた。


「そうだ。私、再来週から月の重力下飛行資格を取りに、ツクヨミに行くんですけど、スコットさん資格持ってますよね?」

「あぁ、持っている。訓練を受けに行くのか?」


 ラディウは心から嬉しそうに頷いた。


「こういうところに行くの、初めてなので色々教えてください」

「いいよ。とりあえず、荷物片付けてきなよ」

「了解。すぐに戻ります……あ」


 ラディウは荷物の山から、ケーキの入った箱を大切そうに取り出した。


「ティーズ大尉がみんなで食べなさいって、持たせてくれたの。スコットさんも後でどうぞ。冷蔵庫に入れてきますね」


 ラディウは箱を掲げて嬉しそうにいうと、隣のダイニングに消えていった。


「”カリマ(ティーズ)”……マメだなぁ」


 スコットはラディウの後ろ姿を見送りながら、小隊長だったティーズとの一ヶ月を思い起こす。厳しい人だったし、腕も立った。そういえば、彼女は彼に鍛えられたのか。彼女とも何度か対戦したが、クセが少し似ているように思う。


 そのラディウは共有の冷蔵庫にケーキの箱を入れる前に、ペンで皆への伝言を書き入れた。


 個人のものと、みんなのものは印をつけないといけないルール。


 ”ティーズ大尉からの差し入れ。食べた人はサインを入れること”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

ランキング参加中です。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ