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ヒューマンシステム 〜私たち、マシンに繋がってないと役に立たないの〜 生体兵器はヒトでありたい  作者: みつなはるね
第2章 彼女のResolution

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第38話 彼と彼女のRequest

 ボギー4はぴったりとこちらの動きを追尾してくる。相手の動きを予測しつつ振り切るよう機動するが、何かがおかしい。


 ここ暫くやっていないが、ラボで同じフルスペックを使うリープカインドの、レーンやトム達とやる模擬戦のような感じがする。それにとても似ているとラディウは感じていた。


「”エルアー(ラディウ)”、こちら”ティオ(トルキー)”。下からカバーに入る。避けろよ」


 ラディウは機首を少し上げてロールしながら急減速。ボギー4を無理やり前に出す。


 オーバーシュートしたボギー4は機首を上げて、急角度でループを描こうとするが、その後ろを下からトルキーがマークする。


 これで敵の追尾をなんとか剥がす。続いてトルキーが追いかけるボギー4を、今度はラディウが逃さないように側面からカバーする。


 ティオが相手機にガンガンプレッシャーをかけてミスを誘う。しかし、1対2の癖に相手からそれほど焦りを感じさせない。


「この野郎、ロックオンしているのに逃げも避けもしやしない」


 鳴り響くトーンを聴きながら、トルキーは輪を小さくして敵機を追い詰める。


 普通のパイロットならとっくに逃げ出すHES(強化兵)パイロットの機動を、この敵機はまだ持ち堪えている。


 ラディウもまたフック呼吸を繰り返し、骨を軋ませる強烈なGに顔を歪めて堪えながら、目と意識を敵機から離さない。意思を常にロックオンし続けることを意識する。


 間違いない。このパイロットも”ティオ”と同じHESだ。


 後方と側面のオフボアサイトの、それも2機からのロックオンを受けても、意に介していないのが透けて見える。


 敵機のコクピット内は、ロックオンアラームが喧しく鳴り響いているのを容易に想像できるが、その騒々しい音の中で一切動じる事はなく、そしてこの相手の動きを予見するような飛び方も含めて、導き出される予測はシンプルだった。


「HESのリープカインド?」


 もし、相手が同じリープカインドで、こちらを読んでくるとしたら、形だけの脅しは彼らには効かない。


「〈ディジニ〉、許可をするまで私の攻撃イメージは無視」

 ≪Copy≫


  ラディウはマスターアームスイッチを入れた。


 大きく息をついて気持ちを切り替える。兵装選択を確認。Mode Missile


 ステックのセレクターを操作するまでもなく、思考がそのまま反映されて、ステータスが戻される。


 意識を集中させて相手を見据える。頭の中に明確に撃墜するイメージを作り出す。


 すると、相手の余裕のある気配がなりをひそめた。


 飛び方が変わる。向こうが察知したようだ。間違いない。


CDC(戦闘指導センター)、”エルアー”攻撃許可を要請。敵はリープカインドの可能性がある。形だけの脅しは効きませんよ」


 少し遅れてスコットがCDCに呼びかける通信が聞こえた。


『CDC、”ガルム(スコット)”。俺も”エルアー”に同意見。敵機はリープカインドだ』


 デシーカはウィザーを見た。


 ウィザーは「厄介な敵だな」と呟いて、不敵な笑みを浮かべる。


要請を承認(Affirm)。敵を追い払え」


 すぐにオペレーターが各機に命令を伝える。


「戦隊各機、CDC。ボギーを(Bandit)と認定……」


 決断してからの動きは早かった。ラディウはすぐに武装をビームガンに変更する。


 ボギー4はトルキーの追跡をかわすと、かなり強引な機動でラディウの後ろにつこうとする。ラディウもそれを避けるべく自分の限界まで機体を捻りあげる。


「くぅ……フッ……」


 視界が暗く狭くなりかけるのを、呼吸で逃し気合で抗う。スーツの耐G機能で脚が痛くて動かなくなるほど締め付けられる。


 相手がHESでかつ同じリープカインドだとすると、取れる手はそれほど多くない。






『CDC、"ズールー1"。敵母艦と思われるキャリアーを発見。隻数1。位置データを送信』


 偵察機からの報告を受け、デシーカは位置データを確認する。


「宙域外です。どうします? 艦長」


 デシーカがチラリとウィザーに目をやる。ウィザーはじっとメインスクリーンを見つめ、暫く思案する。


「一番近い小隊は?」

「”グルース(アトリー)”隊です」


 アトリー隊なら、こちらの意図を汲んで上手く立ち回るだろうとウィザーは判断した。


「彼らを回せ。可能なら敵艦の足を止めさせろ」

「制圧部隊の手配は?」

「脅しだよ。あの4機をこちらの宙域から追い払えればいい」

「了解」




 ラディウがボギー4と揉み合っている頃、ティーズ小隊の1機が直撃を受けて爆散した。


『くそっ!”テキサス”がやられた! ”テキサス”がやられた!』


 ティーズ隊4番機のレオン・”チップス”・ブラウン中尉の声がスコットの耳を叩く。


 ティーズをカバーしながら、スコットはすぐさま意識をテキサス――ガストン・”テキサス”・ユボー大尉――のコクピットコアに向け、彼のユニットを捕まえてシグナルをロックする。


 宇宙で行方不明にするわけにはいかない。予測される漂流ルート上にラディウがいる。彼女も手一杯なのはわかっているが、スコットでは追いきれない。彼女に手伝ってもらう必要がある。


「”エルアー、”ガルム”だ!。コッペリア使いの方が適任だ。”テキサス”のシグナルを送信する。トレースを引き継げ」


 少し置いて、苦しげな息遣いの彼女の声が応答する。

『”エルアー”了解』


 ラディウは内心でこのクソ忙しい時に……と毒づきながらも、スコットからの依頼を〈ディジニ〉に投げる。


 スコットのリンクシステムでは、フルスペックのコッペリアほど自由度は多くない。カバーできる範囲も限られている。


 ≪”ガルム”より”テキサス”機のシグナル情報受信。捕捉。CDCと情報共有≫


 今は自分のリソースを割くことはできない。〈ディジニ〉側が自身のリソースを使ってシグナルを追尾してくれる。早く終わらせて遠くに行き過ぎる前に、ユボー大尉を捕まえなくてはならない。


 耐G能力に優れたHESの飛び方は総じて荒っぽい。


 対するこちらは、肉体の限界を超えてくるような動きで、体力がガンガン奪われる。ましてや相手はリープカインドだ。一緒に精神力まで奪ってくる。


 こちらの限界を悟られるわけにはいかない。何より集中を切らすと相手の攻撃を避ける事ができない。


「”ティオ”! 私ではHESに追いつけない。自由に動いて! 避けるから!」


『おう! 剥がしてやるから安心しろ』


 斜め下からトルキーがボギー4に威嚇射撃を入れた。

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