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ヒューマンシステム 〜私たち、マシンに繋がってないと役に立たないの〜 生体兵器はヒトでありたい  作者: みつなはるね
第2章 彼女のResolution

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第37話 彼らと彼女のAlert Situation

 CDC(戦闘指導センター)に、ウィザーと一緒に今回の試験航行の評価を担当する准将が入ってきた。


「状況」

「セクター4で”アグーダ(エルヴィラ)”小隊がアンノウンを捕捉。数4。現在”アグーダ”小隊が急行中」


 若い男性オペレーターが淡々と報告する。


「訓練中止。第2戦闘配備発令。アラートスタンバイ」


 ウィザーの命令を受けて、デシーカが飛行戦隊の指揮を取る。


「飛行小隊各機、こちら戦隊長。現在位置で警戒にあたれ。即時実行」


『CDC、”アグーダ”、”エルアー(ラディウ)”を情報収集に専念させたい。増援を要請』


 エルヴィラからの要請を受けたオペレーターが後ろを振り返る。


 ウィザーが頷く。


「要請を承認」

「スタンバイ中の”カリマ(ティーズ)”小隊を増援に出せ。2ndをアラートスタンバイ」


 デシーカが発進担当に指示を出す。


「近くに母艦がいるはずだ。探れ。偵察機を上げろ」


 ウィザーが索敵を指示する。


「了解。”ズールー1”、”ズールー2”へ出動命令」






 ラディウは素早く各データをチェックする。通常レーダーがまだ探知できていない。ステルス機だ。


 そう判断すると、ラディウと〈ディジニ〉は小隊と艦隊それぞれに、位置情報と観測データを送り続けた。その間も未確認機は急速に距離を縮めてくる。


 IFFの応答はまだない。(bandit)なら新型艦である母艦に接近させることも、それを探られるわけにもいかない。敵機を母艦に近づけさせるのは飛行戦隊失格だ。


「復帰早々、ハードね」


 そっとスティックとスロットを握る。恐れより先に闘志が湧いてくる。いつからそうなったのかはわからない。ラボにそう仕向けられたのかもしれないが、実戦を前に怖気づくよりは良いと常々思っている。


「<ディジニ>、操縦権を。I have」


 You haveの応答の後、主導権が自分に戻る。機体の反応を確認し、接近する獲物を定めようとしたとき、エルヴィラから通信が入った。


『”エルアー”あと数分で増援が到着する。そうしたらあなたは後方に下がりなさい』


 やる気になっていたところに水を差す命令を聞いて、ラディウは思わず叫んでいた。


「そんな!」


『あなた復帰したばかりよ。下がってこのまま情報収集に専念するの。今日はリハビリ! いいわね?』


「りょ……了解」


『復唱!』


 エルヴィラの緊張感に満ちた厳しい声が響く。ラディウは苦々しく思いながら復唱する。


「”エルアー”了解。 増援を確認後、後方へ離脱。情報収集を行う」


『よろしい。”ティオ(トルキー)”、この子をよろしく』

『Yes ma’am ほら、増援が見えた。”エルアー”ついてこい 』


「了解」


 スクリーンに味方機接近のマーカーと情報が流れ、ティーズとスコットのコールサインが表示されている。


「”カリマ”小隊。ティーズ大尉が来てくれた……」


 なら大丈夫という安堵感が湧き上がる。彼女の意識がティーズ機を捉え、それを受けたディジニがマルチモニターに2機のメテルキシィを投影する。それを確認し、先行する”ティオ”の後を追う。


「〈ディジニ〉、情報収集開始。特に未確認機を警戒して」


 仲間を残して後方に下がるのは強い抵抗があるが、命令だから仕方がない。


 共通無線周波数でエルヴィラが侵犯してきた4機に警告と退去を通告する。


 彼らはこの命令には従わないと、ラディウは予見していた。


 それでもここはムーンセクションの管理宙域。大人しく従わなければ追い出すための行動を取るまでだ。






 エルヴィラの退去命令を無視し、4機の未確認機(Unknown)は散開すると、各小隊のエレメントに取り付いた。敵1小隊に対してこちらは倍の2小隊が対応しているが、2機に対して1機で挑むなど、余程自信があるのだろう。


『ロックされた! ロックされた!』


 そうルゥリシアの声が聞こえた時は心臓が鷲掴みにされた気がした。


 ルゥリシアの後ろに1機がピタリと貼り付いている。振り切ろうとしてもがくように飛ぶルゥリシア機の映像を見たとき、彼女の声を聞くことしかできない自分に歯噛みした。


『”ルックス(ルゥリシア)”カバーする!』


 すぐさまエルヴィラが引き剥がしにかかる。しかしこちらの動きを読むように飛び、かつルゥリシアをマークし続けている。


「まるでラディウを相手にしているみたい」


 ひょっとすると、とても厄介な相手かも知れない。エルヴィラは背筋がゾクリとした。




 艦内はすでに第1戦闘配置に移行し、CDCは緊張感に満たされていた。


 室内は人と機械が一体となった一つの戦闘システムとして機能している。


「敵の母艦位置は?」

「現在ズールー1とズールー2が調査中」


 状況と指示が短い単語で、素早くかつ静かに飛び交う。


「グラトニ、デカルトより各2個小隊が直掩に上がりました」


 出港時から随伴しているグラトニと、監査役を連れて合流したデカルトも、戦闘体制を整えて警戒状態にいることが知らされた。


『CDC、こちら”アグーダ”! 敵にロックされている。撃許可を要請』


 オペレーターが振り返ってデシーカを見る。


「Negative。 もう少し堪えさせろ」



 少し離れた位置で、ラディウは観測を続けていた。Hi-EJPはまだ散布されていない。


 あれが散布されれば、本格的な戦闘になる。こちらはそれを望んではいないし、今のところ敵もそのつもりがないらしい。 それにCDCからの指示もない。


 エレメントが1機に追いかけ回される様を視て、ラディウはまるで敵が遊んでいるようだと感じた。


 その時、不意に()()()()()がラディウに刺さった。


 わざわざ離れていたラディウを狙うように、一機こちらに向かってくる。


「”ティオ”! マークされた!  1機くるよ!」


 トルキーに警告し、共有されている敵機情報から命名された、ボギー4をマークする。


「下がれ”エルアー”!」

「ダメ! 穴を開けたら抜かれる。ここで食い止めないと!」


 ラディウはボギー4の進路を妨害するコースを取る。


 すぐにトルキーがカバーに入ってきた。


 2人はボギー4が艦隊に向かうと予測をつけたが、真っ直ぐに艦隊に向かうわけではなく、目の前を横切ったラディウを追い回しに来た。


「艦隊じゃない!? 何が目的?」

 他の機と何かが違う。


 ――どうしてこの機だけこんなに私に敵意を向ける?

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