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第6話 彼女の事情 1

 もう何年も宇宙では3つの勢力が、水面下で小競り合いをしている。


 1つは地球と宇宙を統括する地球政府と最も繋がりが強いセクション4コロニー群。ここはその繋がりの強さから首都「ヴェルダッド」は各コロニー群の中でも唯一地球直行便のシャトルが発着する港を持つ。


 セクション2とムーンセクションのコロニー群は、コロニー連合を名乗っていて、地球政府を中心とする地球経済圏からの完全独立を目指している。ラディウとヴァロージャはこのコロニー連合軍に所属している。


 セクション5コロニー群の首都「デアトラウム」では、この8年ほどS5を掌握する政権政党「インテグリッド党」が急速に台頭し、全体主義的な政治が推し進められている。このコロニーの防衛軍は現在ではユモミリーと称し、セクション5の治安維持を行なっている。

 コロニー連合とはお互い仮想敵として長年対立している背景がある。


 そして、このセクション1コロニー群が採った道は、どこにも属さない軍事的中立の道だった。中立とはいえその独立性を守るためには独自の軍隊をもっている。その首都コロニー「エスペランサ」の名を取り、通称「エスペランサ軍」と呼ばれていた。





「セクション1が中立とはいえ、連合軍の私が保護を求めると、色々と面倒な事になりますから……」


 ラディウの説明に、面々は「あ……」という顔をする。


 いくら中立と言えど、なんらかの事情で漂流してきた連合のパイロットを保護して、速やかに所属部隊に帰してくれる保証は全く無い。


 むしろ中立であるが故に少女の身柄は徹底的に調べるだろうし、セクション1は各勢力のエージェントが、情報収集のために活動拠点にしているコロニー群でもある。


 そして自身を調べられる事は、ラディウにとって最も避けなければならない事だった。だから可能な限り身を隠していたい。


「ラス・エステラルで下ろしてくれたら、後は自分でなんとかします」


 少女は強い意志を持ってそう告げる。


「なんとかするって、その格好のままウロウロしてたら、すぐに見つかっちまうぞ」


 ヤマダの指摘は的確だ。ラディウは押し黙り、少し考えると


「不躾を承知でお願いします。何か着る物だけお借りできませんか?」


 ヤマダはペチンとその広い額に手をやるとハァ……と溜息をついた。


「お嬢さん歳は幾つだ?」


 ラディウは戸惑いながら答える。


「……17です」


 ヴァロージャは、ん? と片眉をあげた。若すぎる。


 連合宇宙軍の士官学校入学資格は17歳からだ。学生の階級は准尉。17で正規の飛行徽章を待ち、尚且つ少尉なんて普通では()()()()()


 そんなヴァロージャの戸惑いも他所に、「あのな」と前置きをして、ヤマダがグイッと身を乗り出した。


「未成年の女の子を、はいそうですかと知らないコロニーにほっぽり出せるか? 居候が1人増えて2人になろうが関係ない。会社に空き部屋があるから、暫くそこを使え」

「え? あ、ありがとうございます」


 ヤマダの勢いに押されてラディウは思わず申し出を受けてしまう。


 彼女の返答を聞いたヤマダは、満足そうにうなずくと身体を翻した。


「ロナウド、この子に予備のツナギを出してくれるか?」

「はいよ!」


 そう言って2人はキャビンの方へ流れていく。


「本当に、ありがとうございます」


 遠ざかる背中に向かってそう礼を言うと、2人はヒョイと手を上げて奥へ消えていった。


「彼らは信用できるから、心配しなくていい」


 ラディウはちらりとヴァロージャを見上げる。僅かに抱いている不安を、彼に見透かされたように感じた。


「ごめんなさい、疑っているわけでは……」

「俺だって君と同じ状況なら、同じ事を考えるさ」


 ラディウはバツが悪そうに苦笑すると、コンソールパネルをパパッと叩いた。


 この状況下でやることは後一つ。


「ロバーツ少尉、今から情報破棄の操作をします。危ないのでコクピットから離れてください」


 気持ちを切り替えて告げるラディウに、ヴァロージャは「あぁ」と短く返事をして、コクピットから離れる。


「パターンB、最終シークエンス スタート」


 そう小さく宣言すると、正面の小さなモニターが1分のカウントダウンを始める。


 ハーネスを外し、コンソールパネルから二つのデータメディアを引き抜く。一つはFDRフライト・データ・レコーダーのコピー。もう一つはパーソナルセッティングデータ。最後に左腕の端末についているケーブルと、ヘルメットからシート裏に繋がるBMI用の2本のケーブルを引き抜く。


 カウントダウンタイマーの下に、文字が現れた。


《GOOD LUCK see you again -D》


 ラディウは悲しげな微笑を浮かべると、そっとモニターを一撫でして、シートを蹴りコクピットから流れ出た。


 カウント00と同時に、バシッと機器がショートする音がして、わずかに焦げ臭い臭いが漂う。


 これでコクピットユニットのあらゆる電子機器は使用不能になり、 エイリアス・コッペリアのユニットやFDRやCVRコクピット・ボイス・レコーダーも復元不可能になった。


「へぇ……」とヴァロージャは感嘆した。

 

 訓練や教科書で手順は頭に入っているが、実際に見るのは初めてだった。それにしても一切の手順を淀みなくこなすこの少女は何者なんだ? という疑問が湧いてくる。


 そのラディウは「汎用機のコクピットで良かった。このまま捨てていける」と独り言を呟くと、天井近くで器用に向きを変え、もう一度コクピットに戻ると、シート裏からサバイバルキット一式を取り出した。多少の私物も入っているので持ち出しておきたい。


「手伝うよ」


 ヴァロージャはそう言って、彼女が引っ張り出したキットを受け取った。


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