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ヒューマンシステム 〜私たち、マシンに繋がってないと役に立たないの〜 生体兵器はヒトでありたい  作者: みつなはるね
第2章 彼女のResolution

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第20話 8月11日 会議室 1

 アーストルダムラボの小さな会議室で、スミスはラディウがロージレイザァで見た同じ報告書のファイルを読んでいた。


 彼の隣にウィオラが座り、机を挟んだその向かい側に、情報部1課のスクラート少佐、マクロゴル大尉が座っている。


 マクロゴルの前に置かれたアイスコーヒーの氷が、カランと音を立てた。


「2年前のあの失踪事件がこんな事になっていたとは……」


 スミスはそう言って絶句する。


 彼はかつて、消えたAグループに所属していた上級研究員だった。






 スミスがラボに在籍していた当時、Aグループは安定したリープカインド育成を目的とした研究を行っていた。


 事件が起こる6年前、Dr.アクサナ・ヤロシェンコが主任研究員の地位に就くと方針が変わり、マシーンと完璧に調和するパイロットの育成、コンテイジョン現象の応用によるリープカインドの大量育成と安定供給が研究テーマとされた。


 遺伝子調整を受けて年間多くても20人弱程度しか誕生しない候補の子供たちは、養父母に育成された12歳の段階で、彼らの意思や希望に関係なく、リープカインドとして育成される者、HESとして育成される者、14歳まで経過観察をする者に選抜される。


 選抜された対象者がラボに集められ、リープカインドはそこから半分近くが、能力不足や精神的な問題で脱落する。ラボは育成コストに見合わない状態を改善する必要があったので、ヤロシェンコが掲げた育成と供給のテーマ、特に能力不足で外される者の救済は、ラボ上層部で支持された。


 彼女の手法はスキル値に伸び悩む被験者を、双方向型BMIを使うレベルまで引き上げて見せた。


 その功績で彼女はラボの主席研究員に昇進し、彼女の主導で新しいリンクシステム”ウィリ”の開発研究が始まると、数少ない候補者が優先的にAグループに集められるようになった。


 しかし問題もあった。彼女の手法を本格的に取り入れたわずか数年の間に、育成中のリープカインドの多くが、短期間で再起不能状態になるケースが多発するようになった。後で調べると損耗率も当時最多を記録する。


 ラボも倫理感を疑うような事をするが、ある一定の線引きはあった。ヤロシェンコの研究と実験は、そんなラボの倫理のギリギリを攻めており、さらにその先を求める彼女は常々不満を漏らしていたのをスミスは覚えている。


 Aグループの中でも穏健派と言われていたスミスは、ヤロシェンコとは被験者の扱い方や、研究方針などで意見が合わず対立していた。それを見かねたBグループのウィオラが、何度か移籍の話を持ちかけた程だ。


 事件当日、彼はアーストルダムラボでいつも通り仕事をしていた。そして練習艦失踪事件が発覚したとき、アーストルダムに残っていたAグループの他の研究者や被験者と一緒に拘束され、徹底的に取り調べを受けた。


 失踪当時のAグループに残っていた被験者は、Dr.ヤロシェンコに使い潰された者か、彼女が求める基準に満たないとされた者達だった。研究者も彼女に協力的で有能と認めたものを選抜して連れて行ったようだ。


 取り調べから解放された後、スミスは除隊する事を考えたが、機密性の高いラボの上級研究員を野放しにする事は出来ないと判断した上層部は、彼をアーストルダムメディカルに異動させ、情報部付きとして後にエル・エステラルへ派遣した。そこで開業医を装いながら、現地諜報員の支援活動をする任務に充てたのだ。






 スクラートはまた別のファイルをスミスに渡して中を見るように促した。


 そこには1ページに1人ずつの顔写真と名前が記され、詳細情報やデータのファイル名、画像が表示されていた。


「それでシュミット大尉、これを見て知っている名前はあるか?」


 スミスは渡されたファイルの中身をざっと見る。


「そうですね……チェックを入れても?」

「あぁ、もちろん。構わない」


 今度はじっくりとリストを見直す。何人か知っている名前があったが、半分以上は新しいメンバーと思われた。


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