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ヒューマンシステム 〜私たち、マシンに繋がってないと役に立たないの〜 生体兵器はヒトでありたい  作者: みつなはるね
第2章 彼女のResolution

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第15話 彼と彼女の対立 3

 神妙な顔をして、ステファンと二人でティーズの前に立つ。


 意外な事に怒られはしなかった。ただし注意を受けた。さらにあの飛行の講評が始まった。


 これは長くなると、ラディウもステファンも覚悟する。


「それと”エルアー(ラディウ)”、メテルキシィでこの戦い方だが、敵機が2機編成だったら、コレと同じ事ができるか?」

「いえ、できません」


 ラディウは即答した。コッペリアとリンクしていれば良いが、ノーマル機で相手をするのは無理だ。ステファンを捕まえ続けていられたのは、場所がシミュレータールームだったからだ。


「なぜメテルキシィではできない戦術を取る? 乗る機体に合わせた戦い方をしろといつも言っている。”ラスカル(ステファン)”となら、充分普通にやりあえるだろう。手を抜くな。相手に失礼だ」


 彼女にとっては勝つために必要な作戦だったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()というには、ティーズの言うように「手を抜いた」とも言えた。だから彼女は反発せずに「申し訳ありません」とだけ言う。


「次に”ラスカル”、君のここからの機動(マニューバ)だが…」


 理由はどうあれ私闘は厳禁だ。評価に影響するし、事と次第によっては懲罰房行きだ。


 ティーズがコールサインで呼ぶのは、この騒ぎを「訓練」として処理するためだろうとラディウとステファンは判断した。


 という事は、この後は訓練報告書の作成が待っている。


 今日の模擬戦を含めると、今夜は何枚書き上げればいいのかと思い、ラディウの気持ちがげんなりするが、講評と報告書の提出は、勝手な行動のペナルティなのだろうというのは想像がつく。それで許してもらえるなら、幸運なのかもしれない。


 そして、ティーズとステファンのやり取りを聞きながら、そっと周囲を伺う。


 シミュレーションのリプレイをモニターに表示させるために、管制のエンジニアが付き合わされているのは少し気の毒だった。彼の今日の勤務時間は既に終わっているだろう。


 ラディウは講評を聞いているうちに、どっちが勝ったとか負けたとかよく分からなくなってきた。むしろもうどうでも良い。


 疲れきっていた。とにかくヘトヘトで空腹だ。


「……以上だ。最後に、今後はこう言う事でシミュレーターを使うんじゃない。いいな?」

「Yes, Sir!」


 2人で声を張り上げて返事をする。これでやっとティーズから解放され、シミュレーター管制室から退出することができた。


 閉じた扉を背にして、ステファンと2人で大きなため息をつく。


 どちらともなく顔を見合わせて苦笑すると、「悪かったな」とステファンが軽くラディウの肩を叩いた。


「私の方もムキになってごめんなさい。でも私、手なんて抜いてない。ゼルニケ少尉が強かったから……」

「はぁー! そう言うとこが可愛くないんだよ」


 そう言ってラディウの頭をくしゃっと撫でる。


 ラディウがムッとした表情を浮かべながら乱れた髪を手櫛で整えると、それを見てステファンはニカッと笑った。


 それはコールサイン通りやんちゃ坊主(Rascal)の顔だった。


「ハラペコだ! 一緒に飯行こうぜ! 報告書作りはその後だ」


 ラディウは苦笑しながら肩をすくめると素直に「はい」と返事をして、大股で歩くステファンの後を追った。






 ルゥリシアたちが言う「実力を見せつけろ」は本当だったと、ラディウは思った。


 あの一件以降、距離を置く者は変わらず居たが、少なくともラディウにあからさまにな悪意を向けて、絡んだりする者がいなくなった。


 ただしステファンは違う。


 顔を合わせれば変わらず絡んでくる。ただ当たりがマイルドになった。


「とんでもないのに気に入られちゃったわね。これが通常運転の”ラスカル”よ。ほんっとうにウザいけど! こう言う奴だから諦めて」


 同期のルゥリシアが言うのだからそうなのだろう。以前と比べたら全然付き合いやすくなったのは間違いない。


「あんまりシツコイようだったら言って、殴りに行くから」


 そう言って握り拳を作って笑うルゥリシアと、二人の後ろで話しを聞いていたジェニファーが肩を叩いて声をかける。


「その時は私も誘って、一緒に締め上げてやるわ」


 3人は声を上げて笑う。大変なこともあるけど、ここに参加できてよかったなと、ラディウは思った。






 シミュレーションルームでの騒動以降、ラディウはロージレイザァでの生活にもすっかり順応し、気の合うパイロット仲間も増えて、充実した日々を過ごしていた。


 非戦闘時の艦内では時々息抜きの催し物が開催される。有志によるダンスパーティーだったり、映画鑑賞会やゲーム大会などが開催されると、誰かしら彼女を誘って連れ出し、一緒に楽しんだ。


 飛行戦隊の少尉だけが自主的に集まってやる勉強会も、様々な意見や考え方に触れる事ができて、とても有意義な時間だった。


 特別なイベントがなくても、艦内のオフィサーズサロンで、仲間のパイロットからダーツやビリヤードなどのゲームも教えてもらった。たまたま近くにいたアトリーが、キューの構え方や狙い方を直々に教えてくれる事もあった。


 もちろん、楽しいことばかりではない。


 ロージレイザァは現在、試験航行中の艦だ。特に今はクルー同士の連携を深め、様々な事態に対処する必要がある。そのため通常の日常業務と並行して、ほぼ毎日どこかで訓練が設定されていた。


 ラディウ達パイロットも宙域の哨戒任務や、アラート待機などの通常シフトが組まれ、その合間に訓練が入る。飛行スケジュールが無い日はデスクワークもある。時には役割がふられたタバードをつけて、他所の訓練に駆り出されることもあった。


 忙しい日々ではあるが、彼女は今、ロージレイザァでの生活を心から楽しんでいる。

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