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ヒューマンシステム 〜私たち、マシンに繋がってないと役に立たないの〜 生体兵器はヒトでありたい  作者: みつなはるね
第2章 彼女のResolution

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第7話 彼と彼女のジンジャーエール 2

 彼はここにいるリープカインド達が日常着として使っている薄いブルーグレーの訓練着と、左手首にラディウ達と同じ、白い管理タグを身につけていた。


 それを見て、ラディウは目を閉じて深いため息をついた。気持ちがさらに落ち込む。


「他の人の部屋を訪問してはいけないルールだそうだから、ここで戻ってくるのを待っていたんだ。少しいいかな?」


 ラディウは小さく頷くと、彼が座るソファの向かいに座った。


「私も、話がしたかったから……こんな事になって、本当にごめんなさい」


 うなだれた彼女の表情を髪の毛が隠す。


「謝るような事じゃないだろう?」


 ヴァロージャは苦笑する。


「私の行動の結果、あなたをラボに繋いでしまったもの……ここはリープカインドの保護を名目にした軍の実験施設よ……」


 ラディウは揃えた脚の上に置いた両手をぐっと握った。


「そのようだね」


 読んでいた雑誌を傍のラックに戻して、ヴァロージャはラディウに向き直る。


「私は……あなたのキャリアを台無しにしたかもしれない。あなたの自由さえも……」


 じわりと涙が溢れてくる。


「本当に……ごめんなさい……」


 ラディウはポケットからハンカチを出して目を抑えた。


「おいおい、泣くなよ……」


 声を殺して泣き出すラディウを前に、ヴァロージャは狼狽し、困ったなと頭をかく。


「ラグナス1で、『その時に考えれば良い』って話ししたの覚えてる?」


 ラディウは鼻をすすりながら頷く。


「この仕事してるんだ、命令されれば拒否はできない。だから受けた以上はベストを尽くす。これが俺のやり方」


 ヴァロージャはそっとラディウの様子を伺う。彼女は鼻から下をハンカチで押さえて少しだけ顔をあげた。


「リープカインドの事なんて、俺はほとんど何も知らないから、これからの事に不安が無いわけじゃない。でも君がドラゴンランサーで見せてくれたような事ができるようになれば、戦術に幅が出る。俺の武器になる」


 そう言ってニヤリと笑う。


「何より、新しい事への挑戦は、いつだってワクワクするだろう?」


 ヴァロージャが強がりで言っていないのは明らかだった。子供みたいな笑顔が眩しいと思ったから、ラディウは涙を拭いながら「そうだね」と頷く。


 ヴァロージャの言うように、新しい挑戦はいつだって楽しい。試行錯誤してできた時の喜びが格別だということは、ラディウも知っている。


「俺は大丈夫だから心配するなよ。士官学校1年時の、とんでもなく理不尽な状態を思い出せば、だいたいなんだって乗り越えられる」


 彼の話を聞いて、ラディウはもし自分が、12歳でここに来ることなく、かつて思い描いていた通りに進学してたら、そう言う経験をしていたのかもしれないと、あり得たかもしれない未来を思い浮かべた。


「行きたかったな。今もまだ諦めてはいないけど」


 そう独り言のように呟くとラディウは、ちょっと待ってて、と断りを入れて立ち上がった。


 ラウンジ隣の小さな食堂ダイニングに行くと、供用の冷蔵庫からジンジャーエールを2本持ってきて、1本をヴァロージャに渡した。


「再会のお祝い。私のとっておきをあげる」

「名前が書いてある」


 洒落たボトルのラベルデザインを台無しにする、油性ペンで書かれた彼女の名前に、フフッとヴァロージャが笑う。


「気をつけて、自分で買って入れたものにしっかり名前を書いてないと、本当に誰かが食べちゃうから」


 栓をひねるとプシッっと炭酸が抜ける音がする。一口含むと冷えて弾ける炭酸と、生姜の辛さに蜂蜜の甘さのバランスが喉を潤す。


「ヴァロージャ、検査期間中にスミス先生に会った?」

「いや、会ってないよ? 先生こっちにいるの?」

「4日前かな? 偶然、研究棟で会った」


 ヴァロージャはグイッと二口ほど飲んでから、「何か…言ってた?」と少し不安げに尋ねた。


「うん、ラグナスのみんなは大丈夫だって。いつも通りだって」

「そうか……良かった。今日1番のニュースだ」


 ヴァロージャは心の底からホッとした笑顔を見せて、ジンジャーエールのボトルを掲げて「乾杯」と言って笑った。

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