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ヒューマンシステム 〜私たち、マシンに繋がってないと役に立たないの〜 生体兵器はヒトでありたい  作者: みつなはるね
第2章 彼女のResolution

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第3話 彼と彼女のDirective 1

 アーストルダム基地本部棟の情報部特務3課のオフィスで、ティーズは上官のウィリアム・オルブレイ大佐からファイルを受け取った。


「ラディウ達が持ち帰ったIDの人物の詳細だ。シャトルの件はもう少しかかるそうだ」

「ありがとうございます」


 ティーズはパラパラと書類を捲る。


「ユモミリーの諜報部員で確定ですか。それが何故ロバーツ少尉を?」

「さあな。それはこれから調べるが、ロバーツ少尉は確か……今はこっちか?」

「はい。現在はラボの管理下に。ラディウとのコンテイジョン現象が確認されたので、それの影響の検査だと聞いています」


 オルブレイは手近のコンソールを叩いて、目の前のディスプレイにヴァロージャのデータを呼び出していた。


「ヴァロージャ・ロバーツ、94期卒業……今年で2年目に入るか。コールサインは"ラルス”。出身はセクション2 アヨガン。セクション4ラス・エステラルでホビーレースの入賞歴多数。FA操縦を含め成績も良い。卒業席次は3位。優秀だな」


 ティーズは読んでいたファイルから顔を上げてオルブレイを見ると、ちょうど画面を見ていた彼と目が合った。


「ラボが調べているということは、この青年はリープカインドなのか?」

「Dr.ウィオラの話ですと可能性はあるようです。結果は回して欲しいと依頼済みです」


 報告書に付箋を貼り、ティーズは一旦ファイルを閉じた。


「よろしい。確定したらウチで引っ張れるかな?」

「こちらには既にラディウが居ますから、簡単に寄越してくれるかどうか……彼の原隊も手を挙げるでしょう」

「ウチの方が運用実績があるし、良い経験を積ませてやれると思うが……」


 オルブレイは再び画面上の評価シートに目を落とし、もう少し考えた後、


「彼の上官はステイフィル中佐だったか。彼は昔馴染みだ。彼とは私が交渉する。君はラボを説得してくれるか?」


 気が早いなとティーズは思ったが、使える人材は多い方がいい。


「了解しました。やってみます」

「ところで、ラディウはどうした? 少し前まではオフィスにここに居るのを見かけたが」


 オルブレイは画面を閉じ、上体を起こしながら訪ねる。


「休憩に行きましたが、呼び戻しますか?」

「ん、頼む。君たちに新しい命令が来ている。彼女が戻ったら声をかけてくれ」

「了解」


 そう言ってオルブレイは自分のオフィスに戻って行った。






 それから十数分後、オルブレイのデスクの前に、ティーズと呼び戻されたラディウが立っていた。


「来週、新造の航宙母艦が、運用試験で4週間の試験航海に出る。大尉と少尉には、このロージレイザァの飛行戦隊の一員として参加するように、との命令だ」


――飛行戦隊の一員!


 その一言にラディウの瞳がキラリと輝いた。


 ラディウは神妙な顔をしてオルブレイの話を聞いているが、その実は無表情を装いながらも喜びで口の端が動き、にやけそうになるのを必死で堪える。


 今までも情報部の仕事やラボでのテストで艦艇に乗った事があるが、その艦の戦隊の一員とは扱われることは無かった。だから、初めて一人前のパイロットとして認められ、扱ってもらえているように感じて嬉しかった。


 ここにオルブレイもティーズもいなければ大声で喜びを顕し、部屋中を飛び跳ねていただろう。


「リプレーの使用機材はリウォード・エインセル。ラボの承認は降りている」


 オルブレイはそう言って2人に命令書を手渡す。


「エインセルを使うということは、私達……私と<ディジニ>の運用試験も兼ねるという事ですか?」


 ラディウは極力いつも通り冷静であることを装いつつ、胸を高鳴らせながら命令書の中を確認する。


「そういう事だ。その辺りのことはDr.ウィオラが説明してくれる」

「了解」

「詳細は端末に送る」


 手にした命令書を手に、僅かに口角を上げているラディウを見て、オルブレイはふっと表情を緩めた。


「ラディウ、君にとって良い経験が積める事を願っている」


 お前の我慢はお見通しだぞ? と言うようにオルブレイがラディウに笑いかけた。


 もう隠せない。

 

「はい! ありがとうございます」


 ラディウは最高の笑顔で答えた。

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