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第19話 彼と彼女とDr.スミス

 ラグナス1の各ハッチが閉鎖され、船はゆっくりとバースを離れた。


 外壁のエアロックを抜けて宇宙へと漕ぎ出す。


 いつ当局に気づかれて乗り込まれるか心配だったが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。


 オニールシリンダー型コロニーの全景が見えるぐらい離れた頃、船内の格納庫では、ドラゴンランサーの整備は既に終わり、メカニック達はロナウドの機体の整備に移っていた。


 ドラゴンランサーのコクピットのコ・パイ席では、スミスとラディウが増設したレーダーと、彼女が使うシステムの調整を行っていた。


「レーダー感度は限界値いっぱいまで設定してある。簡易型リンクシステムは、ラボから提供されたデータを元にラディウ側だけを設定した。だが……」

「フォローする支援システムが無いから、無理するな……でしょ?」


 ラディウの言葉にスミスは頷く。


「御明察。君はよくわかっていると思うが、こんな使い方は想定外なんだ。正直なところどうなるかわからない」

「提案したのは私です。使うなら実戦データを持ち帰れ……ですよね。大丈夫です。それが私の仕事ですから」


 ラディウはチェックリストの画面を開く。


「借りているこの端末は、後で後部コンテナのケースに固定しておくから、帰還したら大尉に渡してくれ」

「わかりました。あの、質問……よろしいですか?」

「何かな?」


 ラディウは手を止めてスミスを見上げる。


 「先生は昔ラボにいらしたんですよね? どこのグループだったんですか? 私のいるグループではお会いしたことないなって思って」


 スミスは暫し思いを巡らせる。表情に一瞬だけ悲しげな陰がよぎった。


「……今はもう存在してないグループだよ」


 ラディウは少し考えてから「……2年前の」と呟いた。


「……申し訳ありません。余計な質問でした」

「いや、まぁ色々あったからな」


 スミスは苦笑する。


 ラディウはタクティカル端末を操作し、投影された空中ディスプレイに表示されるチェックリストに従って、機能チェックを始めた。


「チェックリスト完了。そちらどうです?」

「ん、正常動作確認。OKだ。あと、他に分からないことはあるかい?」

「今のところ大丈夫です。この機体の操作を確認したいので、もう少しここにいます」


 ラディウは隣で浮いているタブレットを捕まえた。


「わかった。何か困ったことや異常があったら教えて」

「了解です」


 スミスは端末とケーブルを一纏めにして抱えると、ドラゴンランサーから離れた。


「さて……次は彼か……静かなうちに終わらせてしまわないと」


 船内に作業を終えたメカニックが集まる前に、作業を済ませておきたいとスミスは考えている。





 ラディウはコクピットレイアウト図と、計器類を指差ししながら確認する。


 随分久しぶりのファイヤーストームタイプのコクピットだが、ホビーラリーという競技用にカスタマイズされているので、そのまま同じとは言えない。特に割り振られた新しい機能を覚えておかなくてはならない。


 それに左のパイロット席、右のコ・パイ席というシート配列。複座は前後配置という価値観の中にいたため、初めて見たときは、よくもまぁ戦闘機のユニットを上手く載せ替えたものだと妙に感動した。


「火器管制が無い分、シンプルだけど……」


 後でヴァロージャとシミュレーションモードを試す時間を作ろうと、ラディウは考えた。






 このクラスの船になると小さいが、居住ブロックに人工的に重力を発生させる機能がある。


 スミスは無重力区画から慎重に重力区画に移ると、船内のリビングでマニュアルを確認していたヴァロージャに声をかけた。


「ヴァロージャ、ちょっといいかい?」

「なんです?」

「左手首のソレ、調整が必要なんだ。今のうちに君のキャビンでいいかな?」

「いいですよ」


 ヴァロージャはティーズから借りたタクティカル端末を一瞥し、読みかけのマニュアルを持って席を立った。






 割り当てられている4人用キャビンのベッドに腰掛け、スミスに手渡されたヘッドセットを着ける。


 スミスの手で、デバイスとヘッドセットのケーブルが端末に繋げられた。


 スミスがカタカタとキーを叩く。


 空調の低い音とキーボードの音だけが響く静けさに耐えかねたヴァロージャが、口を開いた。


「これは、ラディウが使うというシステムに関連するんですか?」

「うん。ヴァロージャ側は安全装置の側面が大きいけどね」

「彼女が使うのは……BMIの補助デバイスか何かですか?」


 スミスはチラリとヴァロージャを見ると、またすぐに端末のディスプレイに目を落とした。


「簡易的なものだけど、まぁそんなところだよ。ところで、頭の中でイメージするのは得意かい?」

「イメージ…ですか?」

「そう、例えば…そうだな、格納庫に居るラディウを想像してみてくれ」


 言われるまま目を閉じて、ドラゴンランサーのコクピットで何か作業をしているだろうラディウの姿を想像する。


 今、何をしているのだろう。少し無理して大人のフリをしているように見える少女だと、ヴァロージャは思っていた。


 昨日、滞在したフラットでした、メテルキシィの機体談義は楽しかった。よく勉強しているようで知識も豊富だった。時折見せる笑顔や、オサダと気さくにやり取りをする姿が、彼女の素の姿なのかもしれない。


 もう少し、彼女の事を知りたいなと思った時、イメージの中のラディウが、不意に驚いたように顔を上げた。






 同じ頃、ラディウはファイヤーストームのインフォメーションパネルから顔を上げた。


「今の何?」


 立ち上がって振り返ると、弾みでタブレットが浮き上がった。


「ヴァロージャ??」


 ドラゴンランサーの近くには誰もいない。少し離れたところにあるトルエノのメカニックの中にヴァロージャの姿はない。


 ラディウはタブレットを捕まえてシートに座り直す。


「まさかね。考えすぎよラディウ……」


 そう呟いて、再び画面に向き合った。


 それにしても……


「今の、なんだったんだろう」

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