表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/116

第17話 彼と彼女の夜

 深夜にふと目が覚めて、ラディウはそっと起き上がった。


 1人で眠るキングサイズのベッドは、隅っこで寝ていても、広すぎて落ち着かない。


 天井の火災報知器が放つ、小さな緑色のパイロットランプの僅かな光が、うっすらと室内の様子を浮かび上がらせる。


 部屋の窓際に据えられた、1台のエキストラベッドに目をやる。そこにはこちらに背を向けて、しっかりと毛布を被って眠るオサダの、こんもりとした後ろ姿が見えた。


 ラディウはじっと目を凝らし、彼の寝息と黒い影が、規則正しく動いているのを確認すると、そっとベッドから滑り降り、できるだけ物音を立てないようにリビングに出た。


 リビングルームはルームランプが一つだけ灯されて、夜中に起き出して来る者を迎え入れる。


 おかげで不慣れな室内を手探りで進む必要がなく、ラディウはキッチンに行って水を1杯飲むと、寝室に戻らずに居間のソファに座り、膝を抱えてうずくまった。


「ラグナスの人たち、完全に巻き込んじゃったな……今日、ユキさんにも謝らないと……」


 それにヴァロージャもだ。ティーズがラボの端末を貸し与えた。本当にそれしか無かったのかわからないが、自分と関わった事で彼のキャリアに影響を与えない事を願うばかりだ。


 全て自分の杞憂で終わればいい。


 そう思い膝の間に顔を埋めると、背後からカチャリと静かにドアが開く音がした。顔を上げて振り返ると、寝室からのっそりとオサダが出てきた。


 彼もまた、ラディウと同じようにキッチンで水を飲んでからひと息つき、ソファでうずくまるラディウの隣に座ると、小さな声で「どうした?」と尋ねた。


「ちょっと考え事……起こしてごめんなさい」

「そうか……」


 オサダはラボがラディウにつけた、軍警備隊所属の護衛官だ。普段は任務や規則に忠実で厳しく、怒らせると怖い。


 さらに普段からむっつりとした表情も相まって無愛想な男に見えるが、昔からラディウが困っている時や挫けている時に、黙って側にいたり、アドバイスをくれたりする優しい人だということを、ラディウは知っているし、そんな彼を信頼している。


「作戦の事か?」

「それだけじゃないけど……ラボと大尉はこの作戦を利用して、ヴァロージャのデータを取ろうとしてる……」


 それでもし、彼がラボに見出されたとしたら、彼が築いてきたキャリアも思い描く未来も、大きく変わることになってしまう。


 ラディウは何よりそれを恐れていた。ラボに関わるとロクな事がないと、彼女は自身の経験でそう思っている。


 気に病むラディウに対して、オサダは楽観的だった。


「大尉が貸したラボのタクティカル端末の事か? 考えすぎだろう」


 ラディウは抱えた膝に額を乗せる。


「……それならいいけど」


 内に秘めた罪悪感を表に出さないように、小さくなる。


 オサダはこうして起き出して気遣ってくれるが、彼からすれば、ラディウが外にいる時は、常に仕事中である事に気がついた。


 自分がここにいる限り、彼も一緒にこの場に居続けるだろう。彼はそう言う人だ。それは明日の彼の仕事に響くかもしれない。


「ごめんなさい……ダメだなぁ私」


 ラディウは弱々しく苦笑すると、オサダはそっと肩を抱き、慰めるようにポンポンと2回叩いた。


「他の者を起こしてしまう。寝室に戻るぞ」


 オサダの囁きに、ラディウは黙って頷いた。

次回18話は11月3日公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

ランキング参加中です。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ