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混沌呼び込み系幼馴染と居てまともでいられる理由の話

作者: アオニシキ


「ねーねー、面白いこと何か無いの?」


 のんびりスマホでネットの海を泳いでいると、不意に声をかけられた。ただ甘いだけじゃない、独特の色気と歪みを感じる声だ。耐性が無ければ『面白いことをします! 何しましょう!』と叫んで言うことを聞いてしまいかねない、そんな声。


 だから、僕はいつも通りにゆっくり顔を上げて


「そこになければ、ないねぇー」


 いつも無茶振りする幼なじみと顔を合わせ、ふんにゃり答えた。




~~~~




 僕の幼なじみである  は人によって見え方が異なるらしい。あるクラスメイトは儚げな雰囲気が庇護欲をそそるといい、別のクラスメイトは胸の大きさなどのスタイルに興奮し、女子からは顔が良すぎて嫉妬も出来ない、美しさに冒涜的なんて言葉を使う日がくるなんて……と言われている。


 そんな  は、僕からすれば暇つぶしに幼なじみに絡んでくる普通の女の子なんだ。


 普通の女の子……だと思うよ? うん。


「ならさー、せめてアタシにかまってよ。暇なの!」


「今は海外の人のリアクション集を見るのに忙しいんだよー」


「限りなく暇じゃん! 見てて楽しいけどさー、あんまり放置すると無実の学園で遊んじゃうよー。明日から学園の七不思議混沌風味の強制体験コースだからね!」


 それはそれで楽しそうだけど、一週間前に地を這う旧校舎(物理)の体験をしたばかりだからなぁ。もう少し平穏な日常を楽しませて欲しい。


「うーんメジャーな七不思議ってどんなのがあったかな? 楽しみ楽しみ!」


 ニッコニコで良からぬ計画を立てる  。その顔はかわいいけどこのペースじゃあ週一で振り回される。それは流石にメンタルがきついのよ。せめて月一くらいにして欲しい。やめろとは言わないからさ。


 ぼんやりと動画を見ていたスマホに目を落とすと使えそうな動画があった。これで気を引けると思う。


「えー、でも次は某鬼畜ゲーに挑むリアクション集でも見ようと思ってたのに……」


「ちょっとマイナーな七不思議も入れてー って、それ私のお気に入り!」


「だと思ったよ」


 知ってた。こういう発狂手前の人を見るの大好きだもんね。よく正気を保つギリギリのラインで狂気と混沌のマリアージュぶつけてくるんだもん。


 人を飲み込むような笑顔で迫ってきた  を見ながらそんな言葉を飲み込んだ。そんなこと言ったら次の異変でレトロなアクションゲーム特有の理不尽にさらされかねない。


「良かったー。暇つぶしに学園に七不思議の種を撒くところだった」


「なんの種なの? どんな花が咲くのかな?」


「んーとりあえず混沌」


「とりあえず生みたいに言わないでほしいなー」


 お通し感覚で狂気体験は勘弁してほしい。これでも必死で正気を保ってるんだからさ……


「あ! あと音楽室のピアノが勝手に鳴る! 人知れず鳴り響く!!」


「おぉー定番だぁ……」


「もちろん聞いたらどんどん頭おかしくなるよ! 最終的に他の人を誘ってコンサートを開きたくなる!」


「定番だと見せかけてアカンやつだったかぁー」


 まあ、  のことだし、物騒なことを言ってても、なんだかんだで心さえ折れなければ、何故か大丈夫なんだろうなぁ……


 心が折れたら? 多分狂気を広げる側になっちゃうんだろうね……それはそれで楽しそうだけど。隣で嗤う■■■と一緒に狂気と混沌を集めて広げて……あれ?


「……なにかおかしい」


 気が付いたら  に顔を見られてた。  の柔らかい手でほっぺたを掴まれて動けない。彼女にしては珍しく本気の目でこちらを見つめてる。


「ねぇ、私の起こした異変って直近でいつだったかな?」


「急におかしなことを聞くねぇ……■週間前だよ?」


「ふーん、そう」


 彼女にしては珍しく、つまらなさそうだった。


「じゃあー、私の、名前は?」


「えっ? そんなの……あれ?」


 思い出せない。記憶に空白が出来たように、彼女の名前が思い出せない。困惑して  を見るとわずかに悲しそうな、つまらなそうな顔をしていた。  の顔を見て気が付くいた。この現象はきっと彼女か、それに類するモノが原因だ。だからこそ、非力な自分には何もできない。きっと、このまま忘れてしまうのだろう……




  ~~~~




 僕は幼いころから、おかしな異変に巻き込まれることが多かった。正気を疑うようなおぞましい怪物や、ありえない超常現象。僕はまとめて混沌とか狂気なんて呼んでるけど、ある意味正しかったらしくて、そんな異変に触れるとまともではいられなくなるらしい。


 僕はマイペースだからか案外まともなままでいたらしくて、おかしくならない僕に興味を持った彼女が幼馴染になった。混沌の中で会った彼女が隣に引っ越してきたときは、ついに僕もおかしくなったのかと思っちゃったよ。


「君は面白いから、しばらくそばで見ることにしたんだ!」


 そんな無茶苦茶な君に僕はひかれていった。それで、一年くらい前の異変で、過去世界に飛ぶ羽目になって、未来を選ぶことになった。アタシと会わなかった未来も選べるって言った彼女は僕の選択を見て大爆笑してたっけ。


「こんな異変だらけの未来を選ぶなんて、おかしくなってるとしか思えない! なのに、君は正気のままだ! 本物の愚か者だ! ああ、これだから人間は面白い!!」


「ちょっと失礼じゃない? 別にいいけど」


「別にいいのかーい!」


 そんなやり取りの後、普通に「だって好きだし」って言って、告白したんだっけ? あんなに驚いた君の顔はそうそう見れるものじゃないけど、ものすごく、かわいかったっけ。




 ──だから、君のことを忘れるのは、いやだなぁ……




  ~~~~




 ふと気づくと、楽しげに姫鏡ききょうが笑っていた。愚か者を馬鹿にするような、狂気の前で正気を繕う無力な足掻きを愛しむような、そんな笑顔だった。


 どうやら僕のちっぽけな抵抗にも意味があったらしい。


「思い出せたよ。ありがとねー、姫鏡」


「フルネームで、ちゃんと呼んで?」


「えーなんか恥ずかしいなぁ…、乃上のがみ 姫鏡。これでいい?」


「バッチリよ! 夏歴なれき 響太きょうた


 改まると恥ずかしいかもしれない……なんて嘯いている彼女を見て何とかなったらしいとホッとする。


 いつも通り、大好きな彼女の隣に戻るためを思えば、何とか僕はまともでいられるのだ。


「良かったー! 響太が不調じゃあ、混沌を呼ぶ意味ないもんなー」


「ははは……」


 まあ、そんな彼女が混沌を呼んでるのだけれど……そんなところも丸々好きになったのだから仕方ない。


 取りあえずヤバそうな七不思議がないか調べておこう……いつ巻き込まれてもまともなままの僕で、姫鏡の所にたどり着くためにね。




















  ~~乃上 姫鏡side~~


 夕暮れになって、響太と別れた私は少し寄り道をすることにした。昼の響太のことを思い出して、ドキドキする心を必死で鎮める。


 ふふふ、響太っていつ見ても飽きないなー。ちっぽけな存在のくせに、どうしようもない愚か者のくせに、魔術や呪いへの耐性もないくせに、思い一つで踏ん張り続けてるんだもん。面白すぎるよ。


 そんな響太は私のモノ、私のオモチャで……彼氏なんだよ。人のものを横取りするような悪いヤツにはオシオキが必要だよね?


 そう、そこの君だよ? 一週間前に響太に旧校舎で襲い掛かってた君。響太に『孤立の呪い』をかけてたみたいだね。対象者が親しい人のことを順々に忘れて、認識できなくなっていく孤立の呪い。解かれちゃって、びっくりして出てきたのかな?


 アタシはそこら辺にいたぽっと出の下級の神を捕らえる。バタバタとうごめいて、何か喋ってるけど聞こえない。おおかた精神汚染の類でしょう。アタシに効くわけがないのにね?


「あーあ、こいつのせいで一週間延期だよ。ツマンナイ! まあ、こいつにはキャストになってもらおうかな? せいぜい見下していた響太にやられる役くらいには、なってほしいものだね」


 私はいつも万全の状態で挑んでほしいから、二週間は猶予を上げてるのに! 二週間も我慢してるのに! それをこいつは台無しにしたんだ。許せるわけないよね!


「さて、帰って響太のメンタルチェックしないと。今日の出来事でどう揺れ動いてるのか、彼女としても、混沌をつかさどる神としても、気になるところだし!」


 一週間後の異変でも思いの強さを見せてくれるであろう響太の勇士を妄想しながら、アタシは家路についたのだった。




人物設定

夏歴なれき 響太きょうた

名前の由来「きょうきなれ」

 幼いころからおかしな異変に巻き込まれることが多かったけど、マイペースだったためか正気でい続けるおかしいやつ。

 そんな彼は姫鏡に出会い、正気でいることが彼女の気を引く条件だと気が付く。彼女にひかれていた響太は正気を保つように今日も頑張っている。姫鏡に狂っているともいえるかもしれない。


乃上のがみ 姫鏡ききょう

名前の由来「きょうきのかみ」

 人に試練を与え、正気でいられたなら加護を与える系の神様。性質は悪より。

 はじめは不運な人間もいるもんだと思って異変を仕掛けたが、その精神のずぶとさに感心。人間の強さを感じて爆笑。興味深くて観察するうちに好きになっていった。幼馴染になったのは響太が小学生のころ。監視を始めたのはそれよりも前。

 つまり響太には加護ではなく寵愛を与えている。独占欲もごつい。


下級の神

 地を這う旧校舎(物理)の異変を起こし、響太に止められた。響太に嫌がらせで『孤立の呪い』をかけたらとんでもない地雷を踏んでしまった。


『孤立の呪い』

 前半で姫鏡ききょうの名前が消えていた原因。誤字脱字ではなく演出。

 姫鏡の名前を決めてなかったから空白にして書いてたら、キャラ設定とかみ合ってしまい、そのまま演出として採用した。

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