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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢、婚約破棄シリーズ

願いの聖女の婚約破棄と、新しい婚約。 ~三つの真実の愛~

作者: 巫月雪風

私、ルーナは願いの聖女と言われている。

そんな私の婚約者は王太子であるガイウス様なんだけど……

建国記念祭で婚約破棄されたあげく無実の罪を押し付けられちゃいました。


ところがその直後、婚約破棄なんかどうでもよくなる大波乱が起こったのです。


これは、私達の真実の愛の物語。

「願いの聖女、ルーナ。貴様との婚約を破棄する。そして、マリア・サーヴァイン公爵令嬢を新たな婚約者とする!」


 こう私に告げたのは、私の婚約者で、この国の王太子でもあるガイウス・オルタヴィア様。

 そしてガイウス様の隣にいるのは、新たな婚約者(と、ガイウス様が勝手に言っている)マリア・サーヴァイン公爵令嬢。

 美男美女が並んでいるので、はっきり言ってすごく絵になる。

 

 ちなみに私は元平民なので、家名は無い。

 顔立ちは、まぁこの二人に比べればブスだろう。

 世間一般的には並み以上だと思いたい。


 現在、オルタヴィア王国建国記念祭に参加した私は、婚約者であるガイウス様にエスコートされなかったので一人でパーティ会場に入ったのだが……まさか、いや、やっぱり婚約破棄だったか。

 私はガイウス様に元平民だからと言う理由で嫌われていたから、いずれこうなるかもと心の隅で思っていた。

 ガイウス様は正直嫌いだったから、私的には別にいいんだけど……

 でも、ガイウス様はいいのかな?

 聖女と王族の婚約、そして結婚は伝統かつ王命なのに。

 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、まさかここまで馬鹿だとは思わなかった。


「そもそも、願いの聖女と言うのがこの国には不要なのだ。一年に一度、小さな願いしかかなえられない聖女に、いったい何の意味がある!」


 これに関してはガイウス様の言う通りだ。

 願いの聖女は、一年に一度小さな願いをかなえる事が出来る力を持っている。

 願いは物理法則すら無視して何でもかなうのだが、叶えられる内容はあくまで小さな事、そして一年に一度だけ。

 裕福なこの国にはほとんどいらないと言うのも、あながち間違いじゃない。

 実際私はもう何年もこの力を使っていないし。


 で、この力を持つ願いの聖女は二、三百年に一度現れるのだが、誰がその力を持つかは完全ランダム。

 そして今回この力を得たのが、一般庶民だった私と言うわけだ。


「まして、貴様は聖女の地位をいい事に、マリアを虐めたな!その罪、万死に値する!!」

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな事していません!!」


 婚約破棄はいいが、無実の罪を押し付けられるのは嫌だ。


「嘘を言うな!既に証拠は挙がっている。今読み上げるからな!!」


 そうして、ガイウス様は私の罪状を次から次へと読み上げた。

 全部嘘ばっかりだ。

 しかも、目撃証言ばっかり。

 つまり、いくらでも偽装できる内容というわけだ。


「どうだ。もう逃げられないぞ!」


 私はあまりの内容に思わず反論しようとしたが、その時

 バンッ!!

 音がした方を見ると、入り口の扉が開いていて、一人の男性が入って来た。


「リ、リーンハルト様?」


 入って来たのは、ガイウス様の兄、第一王子のリーンハルト・オルタヴィア様だ。

 ガイウス様以上のイケメン高身長、さらに馬鹿なガイウス様とは比べ物にならない天才。

 普通だったら間違いなく王太子になるはずだったのだが、とある事情により王太子じゃない。

 ちなみに過度な人付き合いも嫌いらしく、仕事での関係を除けば友人などは少ないらしい。

 さらに婚約者もいない。


 で、そんな人がこの会場にいきなり入って来たのにも驚いたが、何よりその恰好。

 王族らしく高価な服を着ているのだが、かなり乱れている。

 さらに、体も少し赤くなって、ほてっている様にに見える。

 つまり……ついさっきまで誰かと体を合わせていた、つまり事後に見える。


「ふん、出来損ないの兄上が何の用だ?」


 服装に関しては気にしていないのか、いや、多分気付いていないのだろう、ガイウス様がリーンハルト様をあざ笑って言った。


「ガイウス、家来から聞いて大急ぎで駆け付けたのだが、婚約破棄をすると言うのは本当か?」

「もちろんだとも。聖女なんて胡散臭く、しかも成り上がりなんて泥臭い奴とは結婚なんてしたくないからな」

「聖女との結婚は国の決まりであり、そして国王である父上の命令なのに、か?」

「ふん。父上の命令など、王太子である私には関係ない。まして、そんな決まりなど私が王になったらすぐ無くしてやるわ!」


 王太子が陛下の命令無視していいわけないでしょう。

 あと、聖女と王族の結婚制度は宗教組織の意思でもあるんだけど、そっちも敵に回すの?

 その事実を他の貴族も感じているらしく、ざわついている。


「ふむ。ガイウス、本気かね」


 今まで黙っていた陛下が喋り出した。


「はい、父上。私はマリアとの真実の愛に生きたいと思っております。まして彼女は公爵令嬢。地位も申し分ありません」

「なるほど……」


 陛下は黙って何かを考えているようだ。


「父上。ガイウスの話も大切ですが、その前に私の願いも聞いてくれませんか?」

「ほう、珍しいな。お前が私に願い事を言うなんて。で、いったい何だ?」

「はい。私もガイウス同様、真実の愛に目覚めました。その相手との結婚をお許しいただきたく」


 し、真実の愛?

 あのリーンハルト様が?

 超イケメン高身長で性格もいい女選びたい放題のリーンハルト様が?

 なのに過度な人付き合いが嫌いなせいで婚約者がいないリーンハルト様が?

 

「ほぅ。珍しい事もあるものだ。どんな相手なのだ?その恰好を見ると、どうやら近くにいるようだが」


 さすが陛下。

 リーンハルト様の姿から真実の愛の相手が傍にいる事を感じ取ったようだ。


「いいよ。さぁ、おいで」


 リーンハルト様はそう扉に向かって優しく言った。

 すると、そこに隠れていた人が出て来た。


 多分、行為の最中に大急ぎで連れてこられたんだろう。

 かなり服が乱れている。

 まぁ、隠れていた間にある程度は直していたんだろうが、それでも完全には直っていない。


 出て来たのは、すごい美人さんだった。

 肩まで伸びた髪は美しく、体はすごく細い。

 思わず抱きしめたくなるような、守ってあげたくなるような外見だ。

 胸がほとんどないのが残念だけ……ど…………


 ん?

 ……

 …………

 ………………


 あの人って、すごく可愛いけど……男の人…………だよね?

  

「彼の名前はクリス。私が愛する人です。彼は男ですが、私は彼と結婚したいと思っております」


 う、嘘でしょ!

 まさか、リーンハルト様のお相手が男?

 そりゃ、めちゃくちゃ可愛い人だけど!


 まさかの事実に、会場中の皆が唖然としている。


「皆さん、聞いてください。私は女性を妊娠させる事が出来ません」


 リーンハルト様のいきなりのカミングアウトに会場中がざわついた。

 私は知っていたのだが、これはほとんどの人が知らないのだ。

 リーンハルト様が王太子になれなかったのは、これが原因だったりする。


 妊娠させる事が出来ない=王子が産まれない。

 それゆえに、無能なガイウス様が王太子に選ばれてしまったのだ。


「ですから、私はただ愛する人と結婚したいと思っております。無論、王族としての地位を捨てる覚悟は出来ております」


 そう言ってリーンハルト様はクリス君の肩を抱いた。

 クリス君もまんざらではなさそうだ。


 私はいきなりの事態、婚約破棄なんて吹き飛ぶような大事件に、唖然としてしまった。

 だけど、そこは聖女として、そして次期王妃としてある程度の教育を受けたから、落ち着きを取り戻した。

 そして、私はリーンハルト様とクリス君を見て、この二人はどうなっちゃうんだろう、と思ったのだが……


 ん?


 私は、改めてクリス君の顔を見た。

 ……

 …………

 !!


「リック!あなた、リックでしょ!!」


 クリス君、いや、リックはいきなり近寄って来た私に驚いてリーンハルト様の陰に隠れた。


「ルーナ殿。彼はクリスだ。間違えないでもらいたい。それに、彼は見ず知らずの人が苦手なのだ。いきなり近寄らないでもらいたい」


 リーンハルト様はそう言ってリックを守るように私の前に立ちふさがった。


「申し訳ありません。ですが、彼は間違いなくリックです。私の幼馴染であり、幼い頃行方不明になったリックです」

「証拠は?幼い頃誘拐されたという事は、長年会っていないのだろう?」

「彼の首筋に見えるほくろです。さらに、彼のおへその右、彼から見てですが。そこにも小さなほくろがあるはずです」

「……確かに、私もそのほくろは知っているが……」


 ああ、やっぱりリックなんだ。

 私の初恋の人。

 幼いながら、将来の約束をした人。

 私が聖女になる前、彼の両親は盗賊に殺され、彼自身は攫われてしまった。

 良くて人身売買、悪くて殺されたのだろうと言われた。


 彼は……そう、私にとっての真実の愛の相手だった。

 その愛を失い……私は茫然自失になり、絶望のまま生きていた。 

 その後、私は聖女に選ばれ、ガイウス様と婚約したが、リックと会えないと思っていた私にとっては、正直もうどうでもよくなっていた。



 ……だけど、生きていた。

 生きていてくれた。

 嬉しい!


「ルーナ?」


 リックは不思議そうな顔をして私の方を見て来た。


「ルー、ナ、ルーナ、ルーナルーナルーナルーナ……」


 リックは私の方を見つつ私の名前を小声で連呼した。

 その目は、徐々に見開いて行った。


「ルーナ!」


 リックは私の方に勢いよく向かって来て、私の手を掴んだ。


「思い出した。思い出したよ!ルーナ!久しぶり!!」

「リック!」


 彼の私を呼ぶ声に、私は大喜びで思わず彼を抱きしめてしまった。


「クリス。記憶を取り戻したのかい?」


 リーンハルト様はそう驚いて声を掛けて来た。


「はい、リーン様。やっと、過去の記憶を取り戻す事が出来ました。」


 そう言ってリックは笑った。


「リック、記憶を取り戻したって?」

「ルーナ殿。その話は後で」


 リーンハルト様はそう言って話を遮った。


 後日聞いたのだが、リックは盗賊に誘拐された後、彼らに長年暴行を受けていたらしい。

 そして、リックはその影響で記憶喪失になっていたそうだ。

 だから、二年前にリーンハルト様に助けられた際には、彼はボロボロだったのだ。

 心も、体も。

 そして記憶を失っていたのだ。


 そんなリックや、一緒にいた誘拐された人々を憐れに思ったリーンハルト様は彼らを掃除等をする使用人として雇い入れたそうだ。

 そして、その中でも人一倍頑張っていたリックに目を付けたリーンハルト様は、リックに勉強を教え始め、そうしている内に二人の間には愛が生まれたそうだ。


 まぁ、悲惨な過去の話を大勢の人がいるここで言えるはずもないわけだ。


「ふむ、中々面白い事になっているな」


 黙っていた陛下が、再び口を開いた。


「ルーナ殿、クリス殿との関係は、幼馴染と言ったな」

「はい。そうです」

「ただの幼馴染かね?」

「……はい。おっしゃられる通りです」


 言えない。

 リックと幼い頃とはいえ結婚の約束をしていて、ずっと思っていたなんて。

 私の真実の愛の相手だなんて。

 今幸せを手に入れている彼の邪魔をするわけにはいけないから。


 そう、もう彼はリックではない。

 彼はもうリーンハルト様の恋人、クリスなのだ。

 私にとっては、生きていたという事実だけで十分だ。


「なるほど、おおよその検討はついた」


 陛下はそう言って笑った。


「さて、これでガイウスとマリア公爵令嬢。リーンハルトとクリス殿の二つの婚約の申請が出たわけだが……」


 あ、そうだ。

 ガイウス様の事忘れていた。

 って言うか、私だけ余っちゃった。

 まぁ、いいけど。


「まず、ガイウス」

「はい、父上。今後は、マリアと共にこの国を支えて……」

「この……馬鹿者が!」


 陛下はいきなり怒鳴り声をあげた。


「貴様達の事は、既に王家の影から聞いている。決められた婚約を身勝手に破棄し、しかも無実の罪を着させるとは言語道断!」

「う、嘘など言っておりません!」

「ほぅ。王家に忠誠を誓い、嘘を付けば即死刑となる王家の影が嘘をついたと?もちろん証拠もある。言っておくが、貴様のような口だけの証言ではないぞ!」

「……く、くそっ。せっかく、せっかくあんな女じゃなく、マリアと結婚できると思ったのに!」


 ガイウス様は悔しそうにそう叫んだ。

 マリア様も同じように唇を噛んでいる。

 表情から見て、どうやらこの偽装にはマリア様も関わっていたのだろう。

 馬鹿同士、ある意味お似合いだ。


「しばらく貴族用の牢屋に入って、頭を冷やしてこい!」


 陛下が手を叩くと、控えていた兵士がガイウス様とマリア様を連れて行った。


「さて、ガイウスの件はこれでいいとして、次はリーンハルト、お前の番だ」

「はい、覚悟は出来ております」

「リーンハルト、お前の王族としての地位を剝奪する。今後は一市民として生きるがいい」

「かしこまりました。父上」

「安心するがいい。次期王太子には、マリア公爵令嬢とは違う公爵家から養子をもらう。お前が気に病む心配はない」

「ありがとうございます」

「お、お待ちください!」


 私は二人の話に割って入った。


「ルーナ殿。何か意見でも?」

「はい。私は、二人に幸せになってもらいたいと思っております。その為に、私の聖女としての力を使いたいと思っております」

「なんと。聖女としての力を」


 陛下が驚いた声を上げた。

 無理もない。

 私から力を使いたいと言うなんて、初めてだからだ。


「陛下。よろしいでしょうか?」

「いいだろう。使ってみなさい」

「ありがとうございます」


 私は、深呼吸すると、


「我、願いの聖女ルーナの名の元に、願いを申し立て祀る。この者達、リーンハルト・オルタヴィアとクリスの未来に、幸多からん事を」


 所詮聖女が叶えられる願いなんて小さな物だ。

 でも、私はこの二人に幸せになってほしい。

 だから、私は数年ぶりにこの力を使う事にした。


 願いが通じたのか、私の体から力が抜けていく。

 大分前に使った時もこんな感じだった。


 よかった、ちゃんと使えた。

 そう思った時、私の前が急に光り、美しい女性が現れた。


『この世界に現れるのも数百年ぶりかしら?』


 声が直接脳内に響いた。

 私だけじゃない、周囲の人達も驚いているから、皆にも聞こえているんだろう。


『初めまして、私はあなた達に精霊王と呼ばれる者よ』


 せ、精霊王?

 この世界の創造主と言われているお方じゃない!


「精霊王様、なぜこの世界に現れたのですが?」

『あら、知らないの?私が現れる為には二つ必要なの。一つは、五年以上聖女の力を使わず、力を貯めている事、二つ目は願いが聖女が心から他者の幸せを願って行われたという事。これらがそろった時、私はこの世界に現れる事が出来るの』


 そうか……

 私は何年も願いを使っていなかった。

 そしてこの願いは、初恋相手と私にとっての恋敵の幸せを願う物、つまり他者の幸せを願った物だ。


 だから、精霊王様が現れたのね。


『ところで、あなたの今の願い、そこの二人に幸せになってほしいという事ね』

「はい、精霊王様。どうかその願いを叶えて頂きたく」

『ええ、では叶えましょう』


 そう言って精霊王様はリーンハルト様とクリスを指さすと、二人の体は光に包まれた。


『二人に祝福を与えたわ。でも、それだけじゃ不足よね』

「これ以上、何かをして頂けるのですか?」

『そうよ。と言うか知らないの?願いの聖女はね、一年に一度、小さな願いしか叶えられないけど、願わなければその力は蓄積して、どんどん大きな願いを叶えられるのよ』


 そんな事、初めて知った。

 恐らく、陛下も知らなかったのだろう。


 でも、それで分かった。

 願いの聖女が王族と結婚する理由。

 国に対し悪意を持つ者が聖女の力を悪用すれば この国をのっとる事すら簡単に出来るだろう、

 聖女に長年力を使わせず、力が溜まったらこの国の王になりたい、と願わせればいいのだから。


 だから、王族と結婚させて近くにいてもらう、悪く言えば監視すると言うわけか。

 いざとなれば国の為に力を使わせる事も出来るわけだし、一石二鳥。

 納得。


『さてと。それじゃぁ、こんな力を与えましょう』


 そう精霊王様が言うと、再度リーンハルト様とクリスの体か光った。


「あの、精霊王様、今度は何を?」

『リーンハルト君は女性を妊娠させる事が出来ない、そもそも相手のクリス君は男だから子供を産めない。だからね……』


 精霊王様は楽しそうに笑って話を続ける。


『クリス君には、リーンハルト君限定で、妊娠出来る体にしてあげました!もちろん、リーンハルト君もクリス君限定で妊娠させる事が出来るようにしてあげたわよ』


 ……へ?


「それは、つまりクリスは女性になった、と?」

『違うわよ。男のままで妊娠できる事になったの。だから、当然クリス君は女性を妊娠させる事が出来るわよ』


 リーンハルト様の質問に、精霊王様が答えた。


 えーっと、つまり……

 クリスはリーンハルト様限定とはいえ妊娠する事が出来て、さらに他の女性を妊娠させる事も出来るって事?

 何それ!!


『さらにー!』


 今度はクリスの体だけが光った。


『勝手に体を改造して悪かったから、彼には精霊の巫女の力を与えたわ』


 精霊の巫女!

 それって、精霊王に認められた人に与えられる称号じゃない!

 ある意味王族クラスの高貴な人に彼はなったのだ。


『じゃぁ、これで願いは叶ったわね。じゃーねー』


 そう言って精霊王様は帰っていった。

 私達に混乱だけを残して。


「リ、リーン様。ぼ、僕……あなたの子供が産めるようになったようです」

「そのようだな。精霊王様、そしてルーナ殿に感謝しないと」


 リーンハルト様は愛おしそうにクリスを抱きしめている。


 周囲の人々はポカンとしたり混乱したり……

 プチパニックである。


「皆の者、落ち着きなさい」


 陛下の落ち着いた声が響いた。

 さすがは陛下、もう落ち着いたようだ。


「願いの聖女、そして精霊王様の力により奇跡が起きた。これにより、新たな王命を下す」


 陛下の言葉で、周囲がシンとなった。

 なんだろう?


「まず、リーンハルト・オルタヴィア」

「はっ」

「お前を王太子に任命する」

「し、しかし私は」

「お前の問題点は子供を望めない事。だが、その問題は無くなったではないか」

「よ、よろしいのですか?」

「もちろん、クリス殿との婚約も認める。これで問題あるまい」

「あ、ありがとうございます、父上。必ず二人でこの国を支えてまいります」


 リーンハルト様は涙を流して喜んでいる。

 一方クリスは、あまりの内容に呆然としている。


「ああ、三人でこの国を支えてくれ」


 ……ん?

 三人?


「さらに、精霊の巫女クリス殿と願いの聖女ルーナ殿の婚約を発表する」


 は、は~~~~~?!


「あ、あの……陛下?クリス、いえクリス様はリーンハルト様と結婚されるのでは?」

「そうだ。だが、残念な事に聖女と王族が結婚するのは国の決まりなのでな。リーンハルトはクリス殿としか子供を残せない、だから、クリス殿と結婚してもらおうと思ってな」

「そ、そんなの有りなんですか?」

「国法には禁止されていない」


 陛下は楽しそうにそう告げた。


「そ、それに、リーンハルト様は嫌がるのでは?」

「それが国の為になるのなら、私は構わない。ルーナ殿は恩人でもあるからな」


 私の質問にリーンハルト様が答えた。

 彼的にはいいんだ、この婚約。


「では、これにて新たな婚約は結ばれた。諸君、この三人に拍手を!」


 パチパチパチ……!

 周囲から大きな拍手が私達に送られた。


 こうして、婚約破棄から始まった、私達の新たな婚約お披露目パーティは終わった。

 というか、婚約破棄なんかどうでもよくなるくらい波乱のパーティだった、


 かくして、私達三人は婚約し、リーンハルト様は王太子になった。


 そして数年後、リーンハルト様とクリスは精霊王に祝福された夫妻として国民に祝福される中結婚した。

 さらにその数年後にリーンハルト様は国王になった。

 そうして、二人の間には子供が産まれた。

 もちろん、私とクリス王妃も結婚し、私達の間にも子供が産まれた。


 ああ、そうそう。

 ガイウスとマリアは、結局別れたそうだ。

 ガイウスは一庶民になったし、マリアは男爵と結婚させられたそうだ。

 庶民を馬鹿にしていたガイウスにはひどい苦痛だろう。

 まぁ、どうでもいいか、あんな奴ら。


 あれから何年も月日が流れたけど、今でも時々思う事がある。

 あのパーティでは、三つの真実の愛があった。

 

 私を陥れて結ぼうとした、ガイウスの真実の愛。

 同性でありながら、自身が王族でなくなる事を覚悟しながら、それでも愛を貫いたリーンハルト陛下の真実の愛。

 そして、二人の幸福の為に引こうとして、結局叶ってしまった私の真実の愛。


 叶った私とリーンハルト陛下と、破滅してしまったガイウスの真実の愛の違い。

 ガイウスが失敗したのは、他者を傷付けてその愛を実らせようとしたからだろう。

 もし、人を陥れての婚約破棄なんかしようとしなければ、もっと別の未来が待っていたかもしれないのに。


 一方で、リーンハルト陛下はあの時自身の破滅を覚悟しても愛を貫こうとした。

 私は、二人の幸せの為に、真実の愛を捨てようとした。

 その違いが、今の私達の幸福に結びついたのかもしれない。


 だって、そうでしょ?

 真実の愛って、誰かを傷付けてでも結ぶものではないのだから。

お楽しみいただけましたでしょうか?


この小説は、今書いてある長編小説のある部分(現在未アップ)を元に作った作品です。

……人気が全然出ないんですよね(笑)

設定を流用したけど、あれこれ付け加えたら全くの別物になりました。

(聖女設定とか精霊王とか)


よろしければ、ご意見ご感想、レビュー以外にも、誤字脱字やおかしい箇所を指摘していただけると幸いです。

いいねや星での評価もお願いいたします。

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