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鏡の王国

作者:

合わせ鏡 一枚目


  深夜2時、鏡の前に立つ。伸ばした手の先には、

 私を見つめる何十人もの“私”


__合わせ鏡の正面の硝子。映す姿は未来の私。

 後ろの鏡は過去の私。_十三枚目は死に姿

      本当の“私”はどこにいる?_______


 「琉璃、朝ごはんよー。朝から勉強に精が出てる

 わね」

 「ありがと、今行くね」

教科書を閉じて席を立つ。あの子にも、琉璃の爪の垢でも煎じて飲ましてやれたら良かったのに。_私の部屋の隣、かれこれ一年は閉ざされたままの部屋の扉を見て母が呟いた。

 その部屋の主は去年、夢を追いかけ去っていった。まだ買って間もないわりに随分と使い込まれたギターケースを片手に。“あなた志望校そこにしたんですって?何言ってるの。通うならもっと進学校でなくては” “ー向かいの家の誰々さんなんて、あの有名校の推薦取ったらしいのに” “学生時代の一時の夢なんかに縋らず、資格のある仕事を選びなさい。その方が安定した幸せな生活を送れるんだから” 夢を追いかける兄と、幸せのカタチを観念として持つ母。交わらない2つの道では、きっとこんな結末を迎えるのも、ある意味自然なことだったのだろう。

 

「そう言えば今日琉璃、なんか観たい番組あるって言ってなかったけ?録画しとこうか?」

 半熟卵と肉汁溢れるベーコンエッグトーストをかじりながら、母の話に相槌を打っていたらそう聞かれた。

 「あ、そうなんだ。今日確か音楽番組の特番やってて」

それがプロ・アマチュア問わないロックフェスの番組なんだ。という言葉はそっと胸の内にしまい込んだ。

あの日この無機質で守られた鳥籠から、どこまでも自由で波乱な世界へと飛びったっていった兄はこちらを振り向きもせず去っていった。碌に見えもしなかった筈なのに彼の人の横顔が輝いて見えたのは、それを写す私の瞳のせいだろうか。案外、夢を見ているのは私なのかも知れない。

 ふと静かになったことに気がついて目線を上げると

黒く澄んだ、どこかがらんどうな瞳と目が合った。

 

    「琉璃もギター、やりたいの?」

 口元だけ薄ら微笑む母の瞳は光が無い。

_深淵を覗く時、深淵もまた此方を覗いている_

そんな言葉が脳に過る。


   「ううん。私はそんなこと興味ないよ」

私は見るのが好きなだけだから。

がらんどうな一対の丸い鏡に写る私はそう言って笑みを浮かべる。


___合わせ鏡、一つ目の鏡は娘の“私”。 母の瞳に映る良い子の私は、優しく囲われた鳥籠で笑む。外の風吹き荒れる自由な空など知らない。_知らなくて良いことだ。


  どこか後方で一つ。別の鏡がわれる音がした。

深夜2時、鏡の前に立った。

___ 少女にはわからない。割れた過去が自分なのか、目の前の一対に映るのが私なのか。

___ 少女は気づかない。鏡の深淵を覗く彼女の瞳も深淵に染まっている事を。

 

【合わせ鏡は2枚鏡がないと成立しない。一枚は目の前の鏡。ならもう一枚は?】

 

〜あとがき〜

自分が思う「自分らしさ」も知らず知らず相手の求める姿に合わせていたり、他人からの評価でそう思い込むようになっているのかも知れない。自分が優しい人なのかどうかだって、人にいって貰うか、他の人と比較することでしか確かめられないのだから。「本当の自分」ってなんなんでしょうね。

そんなこと思いながら書きました。

拙い文ですがお読み頂きありがとうございました。

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