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高嶺の彼  作者: みしま晴子
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高嶺の彼

蝉が五月蝿い。


ジワジワ鳴いたり、ミンミン鳴いたり。本当に耳ざわりだと、文香は思う。今日はそんな小さなことにすら苛つきを覚える。


部活動をやっていない文香は放課後、いつものように麗華やみなみと教室に残り会話をしていた。二人の彼氏の話、もうすぐ実施される林間学校での持ち物の話。会話が盛り上がってきたころ、突如教室に現れたのがクラスメイトの桜井芽衣だった。


「お話し中ごめんね。文香ちゃん、ちょっといい?」


遠慮がちに言う芽衣に文香は尋ねた。


「いいけど…どうしたの?」


「小瀧くんが、文香ちゃんに話があるって。いま体育館裏で待ってる。」


それを聞いて文香は嫌な予感がした。麗華とみなみは色めき立つ。


「うっそもしかしてもしかしてー?」

「愛のコクハクー?!」


文香は茶化す二人に苛立ちながら、仕方なく体育館裏に向かった。全く行きたくはなかったが、桜井芽衣に悪いと思ったのだ。


体育館裏に着くと、神妙な顔つきをした小瀧黎人が立っている。


生ぬるい風が吹き、湿気が肌にまとわりつく。暑い。本当に今日は暑い。はっきり言って不快だ。


「日高、俺おまえのこと好きだ。」


出た…


小瀧の第一声を聞き、思わず口に出して言いそうになるが、踏みとどまる。そして自分のことを好きだと言う目の前の少年をぼんやりと見つめる。少しつり気味の細い目、ツンツンした固そうな髪、文香と同じぐらいの背丈。


私、この人とまともに話したこと、あったかな?


考えても思い出せない。


「日高?聞いてる?」


まともに話したこともないのに呼び捨てにする粗雑さも気に入らないし、気弱そうな女子を使って呼び出すやり方もいけ好かない。


「うん、聞いたよ。」


「じゃあ、俺と付き合ってもらえる?」


冗談じゃない


また思わずそう言いたくなる衝動を抑えながら、文香は無理やり笑みを浮かべた。

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「ごめんなさい。私、好きな人いるから。」


入学してすぐに上級生の市川から告白された時にもこう答えた。これが一番てっとり早いと思うからだ。


「誰?」


「え・・・?言わないよ」


「教えてよ」


しつこく食い下がる小瀧に、うっすら恐ろしさを感じる。一気に不快な気分が増す。


「そう言うことだから・・・さよなら!」


そう吐き捨て、足早に立ち去ろうとする文香の手を咄嗟に小瀧が掴む。


力強く、汗ばんだ手。小瀧のねっとりとした体液が文香の中に沁み込んでくるような感覚に、鳥肌が立つ。


文香は無我夢中でその手を振りほどき、逃げるようにその場を後にした。



蝉の声が耳に響く。蝉はなんであんなに五月蝿いんだろう。メスを誘うためだけにあんなに必死で音を出すなんて、バカみたいだ。


文香には、必死で異性を求める気持ちがわからない。


息を切らしながら教室に戻ると、麗華とみなみが待ち構えていた。


「で、で?」

「愛の告白だった?」


目を輝かせながら質問してくる二人を睨みながらこっくりと頷く文香にさらに大きなリアクションが返ってくる。


「うっわーさすが文香!入学して半年もたたず、もう二人目?!」

「うらやましー!モッテモテ。」


騒ぎ立てる二人に苛つき、文香はピシャリと言う。


「よく言うよ、ちっとも羨ましいなんて思ってないくせに。」


「そんなことないよー、私もモテてみたい。」


そう言うみなみに、文香は嫌味を言う。


「じゃあみなみや麗華は、小瀧くんと付き合えるの?」


「それは…ほらぁ、私彼氏いるし、さ。」


「私も先月できたばかりで、ラブラブだし。」


麗華とみなみはバツが悪そうな顔をしてお互いを見つめ合う。


「好みじゃない人から告白されても、モテるとは言わないでしょ」


文香はそう言いながら椅子に座り。机に突っ伏す。

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