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9/9

9・不器用



新歓ライブの日。授業が終わり、部室へ向かう。


部室はライブ用に装飾され、ライブハウスのような雰囲気になっていた。


ライブの開演を待つ1年生達と先輩達で部室は一杯になっている。


一年生もそこそこ人数がいるようだった。初めて部室に来た時に見たギャルもいる。それ以外の一年生は雰囲気で大体同学年だろうとわかる。


…人が多くて落ち着かない。帰りたくなってきた。


早くライブが始まってくれ、と思っていると、BGMが切れて最初のバンドが演奏を開始した。


いわゆるロックバンド、フェスに出てるバンドのコピバン。俺も少しだけ知ってる。


初めて目の前でライブを見て、俺は感動していた。

曲と曲の間のMCは無く、プロっぽい感じが出てる。

観客側もあったまっていて、「すごい」「カッコいい」と聞こえてくる。


それでもやっぱり俺の心はなんとなく違う方を向いていた。先輩達が下手な訳ではない。むしろ聴いた感じではCD音源を聴いてるのとそこまで変わらないほど上手だと思う。


すごいな、上手いな、カッコいいな。だけど…


この気持ちはまさにストフルの曲を聴いている時の自分の気持ちだった。


なんとなく違う。なんとなく好きになれない、明るい前向きな曲…


そうしていると最初のバンドが終わった。一番手らしく場を盛り上げ、強烈な印象付けを出来たのだろう。一年生同士で「あの先輩超カッコいい」とか「絶対入部するわ」なんて声が聞こえていた。


ライブが続く。2組目、3組目…どのバンドも上手いけれど1組目のバンドほどインパクトのあるバンドは無かった。


「どうだい、未成年。盛り上がってるかい?」


俺に話かけてきたのはユウタさんだった。どうやら今来たところみたいだった。


「はい…どのバンドも、上手で…すごい、です。」


俺は笑顔を作ってどうにか答える。


「そっか、そりゃよかった。印象に残ったバンドはあったかい?」


「えっと…最初のバンドが…一番上手だったなぁ、って。」


「おぉ、奴らね。あいつら上手いからね。この後の飲み会、来るなら直接言ってやりな。きっと喜ぶよ。」


「え、あぁ…はい。」


なんて歯切れの悪い返事をしてしまう。正直飲み会とかはすごい行きたくない。


「…?まぁ、次で最後のバンドだからそれ見て決めなよ。一年生はタダだし。絶対後悔させないよ?」


「はぁ…。とりあえず、ライブ終わってから決めます…。ユウタさん、頑張ってください。」


「おぅ。よく見とけ。」


なんて言ってユウタさんはギターのセッティングを初めた。


よく見とけ、か。


たぶん、ユウタさんは俺とは違う人種の人なんだろうな。俺はそんな自信に溢れるセリフは絶対言えない。俺は人の目を見て話せない「下」の人間だ。


そして、そんな俺にも気さくに話かけてくれるユウタさんは本当にカッコいい人なんだろうな、と思った。


トリを飾る、【アヴァロン】のコピバン、ユウタさんのバンドのライブが始まった。


ユウタさんがイントロのギターを弾き始め、メンバーが入っていく。そしてユウタさんが歌う…というよりは叫ぶ。


音の壁が迫る、そんな感じの演奏。


………すごい。ユウタさんもメンバーの先輩達も段違いで上手かった。シンプルな曲なのに上手いって伝わるほど完成されていた。


長い髪を振り乱し、暗いギターをかき鳴らして、混沌を叫ぶように歌うユウタさん。


……その姿が少しだけ綴のイメージと重なった。

見た目も声も綴とは違うのに、とにかくカッコよかった。


曲が終わった。

MCはしないのかと思っていたけれど、意外にもユウタさんが喋り始める。


「俺達が今やってるのは所詮コピバンだ。だから言いたいことは全部MCで言わせてもらう。」


そう前置きすると、ユウタさんはフロアを見て言う。


「えー、コミュ障、メンヘラ、根暗、オタク、不適合者、ボッチ、クズ…たぶんこの中にもたくさんいるだろう。バンドなんてやりたがるのはそういうやつらだ。」


……ゾワッとした。


全部俺のことだった。全て当てはまる。それを責められるのかと思って身構えしまう。


恐る恐るユウタさんの顔を見上げると…笑っていた。


「今自分かもって思った奴!………俺はお前達を待っていた!俺がこのサークルの中で一番当てはまる人間だ!不器用で、バンド以外は何も出来ない!このサークルにいるのはそんな奴らばっかりだ!………だからこそ俺は不器用な人間が好きだ!不器用な人間の不器用な言葉で作られた不器用なロックが大好きだ!」


……またゾワッとした。さっきとは違う震え。




あっ、これだ。この感覚だ。


俺が欲しかった言葉。


"そのままでいい" "ここにいてもいい"と言うメッセージ。


俺が好きなロック。リベリオンを好きになった理由。



コピバンだろうと、大学のサークルだろうと。


俺から見えるユウタさんはまさに「ロックスター」だった。




他の先輩たちは笑って「また言ってるよ」なんて言ってるけどそこに馬鹿にする意図はないようだった。


「じゃ、改めて…」


そう言ってユウタさんが次の曲のイントロを弾き始める。


そして叫ぶ。


「一年生、入学おめでとう!そしてようこそ軽音楽サークルへ!!」


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