表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

3・"後悔させないから"



翌朝、俺は昼頃に目が覚めた。


真っ先に頭に浮かんだのが「やばい、遅刻!」だった。

今日は土曜日で会社は休みなのにな、と自虐的な笑いが浮かぶ。


昨日のサツキからのメッセージを返信しなきゃ、と思ってスマホを開く。


新しいメッセージは来ていなかった。


昨日は俺の誕生日だったのに結局俺に連絡をくれたのはサツキだけだった。嬉しくなんてないと思っていたのに、それと矛盾する寂しさを感じた。


サツキのメッセージに返信を打ち込む。


彼女のライブに行くつもりはそもそも無かった。


「行かない」と返信することも出来ない俺は、「今度っていつ?」と打ち込んで返信する。

どの日だろうと「その日は仕事があるから無理」と返信するつもりだった。


俺は臆病だな、と思う。


友達なのに。せっかく誘ってくれているのに。


俺にとって彼女は"俺がなりたかったカッコいいロックスター"で、俺は眩しい彼女の姿を見ることが怖かった。

そして28歳になる前に一緒に死ぬという約束を守れないことを責められるのではないかと思った。


そんなことを考えていたら、すぐにサツキから返信が来た。


メッセージの内容は彼女らしい。そこにはただ「来週の土曜」とだけ書かれていた。


人の気も知らないで…相変わらず急なことを言う奴だ。


すぐに俺は「その日も仕事だから」と打ち込む。

送信ボタンをタップする前にサツキからもう一通のメッセージが届いた。


「28歳になったアズマに今の私のライブを見て欲しくなった。急だけどヒマなら来て。」


そのメッセージにはそう書いてあった。

俺は送信ボタンをタップする指を止める。


28歳になった俺に見て欲しい?

カッコよくライブする輝く姿を見せたいってことか?


"惨めな俺をより惨めにさせたいってか"そんな黒い感情が浮かぶ。


しかしすぐにその感情は消えた。サツキから来たもう一通のメッセージに「来ればわかるよ。絶対後悔させないから。」と書いてあったからだ。


やっぱり相変わらずだな、と思う。


サツキは俺との"28歳になる前に一緒に死のう"という約束を覚えていて、それを果たせない俺を責めるつもりも憐れむ気持ちも無いことがわかる。


"絶対後悔させないから"という彼女の言葉が俺の黒い感情を消していく。


28歳になってしまった俺に、ロックスターになれなかった俺に、今の自分の姿を見てほしいと言っている。


昔と変わらずぶっきらぼうなままだったけれど、彼女の不器用な優しさを感じた。


俺は打ち込んでいた文章を消し、「行くよ。見せてくれよ、ロックスターの姿。」とあの頃と同じ寒いセリフを打ち込んで返信する。


すぐに返信が来た。「よく見とけ」とだけのメッセージ。


俺は思わず「相変わらずだな…」と口に出していた。その言葉をそのまま打ち込んで返信する。


笑顔のスタンプが返って来たため俺はサツキとのメッセージを終わらせた。


ライブで彼女は何を見せてくれるのだろう。


暗くなっていた気持ちが少しだけ、楽しみな気持ちに変わっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ